82話 たった一人の可愛い弟
「うーん、うーん……」
私は考え込んでいた。
そして、名案を思いついた。
「フレッド、いいことを思いついたわ」
「……また変なことじゃありませんよね」
「失礼な! 今回はちゃんとした提案よ」
「……聞きましょう」
フレッドが半信半疑の様子でこちらに視線を向ける。
「私はフレッドと回るじゃない? それを理由に他の三人を断ればいいのよ。私がフレッドと回ることになれば、自然とお断りできると思うのよ」
「僕の名前を出すわけですか。それで大人しく引き下がってくれるでしょうか? お三方は、僕にも一定のライバル心を抱いておられるようでしたが……」
「ライバル? 確かにフレッドは今年の新入生の中でも飛び抜けて優秀だし、先輩である三人も一目置いているみたいだけれど……」
私は首を傾げる。
フレッドは、毒関連の知識やポーションの調合技術に長けている。
その上、剣術や格闘術、魔法なんかも高いレベルにある。
入学試験では主席合格。
その実力は折り紙つきだ。
三人がフレッドのことを気にかけているのも分かる。
だけど、ライバルというのは言いすぎな気がする。
「だって、僕は姉上のことが好きなんですよ? 同じ女性に思いを寄せている男として、三人の方々が僕をライバル視するのは当然のことでは?」
「ああ、そういう意味か……。うんうん、私もフレッドのこと大好きだよ」
「ほ、本当ですか!?」
「もちろん! たった一人の可愛い弟だもの!!」
私は満面の笑みで答える。
フレッドの反応は……。
あれ?
これはどういう表情だ?
「大好き……。可愛い弟……」
彼の中で何か葛藤しているようだ。
何だろう、この反応は?
まあ、とりあえず、これで問題解決の方向性が見えた。
後は、エドワード殿下、カイン、オスカーに断りの手紙を出しておくだけだ。
「三人とも、家族水入らずの時間を邪魔するほど野暮ではないはず……。去年は一緒に回ったし……」
私はそんなことを考えながら、手紙を書き始める。
「あれ? 何か忘れてるような……?」
「どうかなさいました?」
「いや、何でもないよ」
うーん、何だったかな。
大切なことだったような気もするけど……。
そう、下手をすればバッドエンドに繋がるほどの重大なイベントを……。
思い出せ、私の脳細胞!!
「あっ。姉上、そこの記載内容ですが、僕のことを最愛の弟だと強調しておいてください。王家や貴族家の家紋入りのお誘いを断るにあたって、少しでも印象を良くしておくべきですからね。僕たちは姉弟なんですから!」
フレッドがどこか吹っ切れたような表情でそう言う。
「うん、分かったよ。任せておいて」
私はフレッドに笑顔で返す。
手紙の方に意識を向けた私は、何かを忘れてしまっていること自体を忘れてしまったのだった。
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