81話 今年は一緒に

「いいことを思いついたって……いったい何の話ですか。嫌な予感しかしませんよ」


 フレッドはジトーっとした目でこちらを見つめてくる。

 そんなに信用がないのかしら……。

 ちょっとショックだ。


「まぁ、聞いてちょうだい。エドワード殿下、カイン、オスカー。この三人の中から一人を選ぼうとするから大変なのよ。それなら、いっそのこと全員と行けばいいじゃない?」


「……」


「……え? 何かおかしなこと言った?」


「おかしいですよ!! なんでそうなるんですか!? 姉上はバカですか!?」


 フレッドが珍しく声を荒げた。


「そ、そこまで言わなくても……」


 私は思わず目を伏せてしまう。


「あ、すみません。つい……」


「別に謝らなくていいけど……。私はただ、みんなで一緒に秋祭りを楽しめたらなって思っただけなのに……」


「はぁ……。もう分かりましたよ。それで、実際のところはどうするんですか? まさかとは思いますが、全員を誘うとか本気で言ってるんじゃないですよね?」


「え? 本気だけど……。というか、去年はその三人と私で回ったし……」


 去年の秋祭りではいろいろあったが、結局、最後はみんなで楽しく過ごした。

 今年の秋のお祭りもきっと楽しいものになるはずだ。


「はああぁっ!? ぼ、僕は誘われていませんよ! どういうことですか!」


「ふぇっ? そ、そう言われても……。フレッドはまだこの学園に入学していなくて領地にいたし……。誘えるはずがないでしょう?」


「そ、それはそうですけど……。でも、僕だって姉上とお祭りに参加したかったです!!」


「だから、それは無理だったのよ。過ぎたことは諦めなさい」


「うぅ……。ひどいですよぉ……」


 フレッドは涙を浮かべて、その場にしゃがみ込んでしまった。

 そんな彼を見ていると胸の奥がきゅんとしてしまう。

 普段、冷静沈着な彼がこんなにも感情を露わにするとは思わなかった。


「ごめんね。フレッドも王都に来たことだし、今年は一緒に回る?」


「えっ!? よろしいのですか!? や、約束ですよ! 絶対ですからね!」


 フレッドはパッと顔を上げて嬉しそうに微笑んだ。

 私は弟の可愛さにやられてしまいそうになる。

 フレッドの頭を撫でながら、心を落ち着かせる。


「あれ? でも、お三方からのお誘いはどうなさるのです?」


「うん……。どうしよう? フレッドも入れてみんなで回るのはダメなの?」


「一人の令嬢が多数の男を連れ回すなんて、常識的に考えてあり得ませんよ。しかも、家紋付きの手紙で誘われているのです。受けるか受けないか、そのどちらかです。中途半端は良くないと思います」


「うーん……。やっぱりそうだよね……。どうしようかなぁ……」


 私は頭を悩ませるのだった。

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