80話 相談

 私はフレッドからも秋祭りに誘われてしまった。

 先約のアリシアさんのために、ここは断らないといけない。


「どうです? 気分転換になると思いませんか?」


「ごめんなさいね。実は、そもそも悩んでいたのは秋祭りのことなのよ」


「……はい?」


「だから、秋祭りに誰と行くかで迷っていたのよ。ほら、三通もの手紙をいただいてしまってねぇ……」


「…………」


 フレッドは口をポカンと開けていた。


「こ、これは……。エドワード殿下、カインさん、それにオスカーさんですか。しかも、それぞれ家紋の入った正式な書式で……。なるほど、これが俗に言うモテ期というものですね」


「え? 違うわよ? モテてるんじゃないわ。秋祭りに誘われているだけだし……」


「それはモテているのと同じです!!」


 フレッドは興奮気味に叫んだ。


「家紋付きの手紙で誘われていることの意味を、姉上も分かっておられるはずでしょう? つまり、婚約者として選ばれたいということですよ! 姉上も、それで悩まれていたのではありませんか? 」


「…………」


 私は黙り込んでしまった。

 この手紙を受けて、誰か一人を選ぶ。

 それは、表面的には秋祭りのパートナーを選ぶだけの話だけど、ゆくゆくは大きな意味を持ってくるだろう。

 私は、その選択を誤るわけにはいかないのだ。


「そ、そうよね……。うん、分かったわ。やっぱり慎重に考えないとね。じゃあ、今日のところは帰りなさい。また改めて相談させてもらうから。フレッドも忙しいでしょ? 私なんかに構っていないで自分の用事を済ませてきなさい!」


 私は、弟を追い返そうとした。

 こういうデリケートな悩みは一人で考えるべきだろう。

 だが、彼は首を横に振る。


「いえ、今日は休みなので問題ありませんよ。それよりも、せっかくこうして居合わせたのですから、もっと話を聞かせてください! 僕だって、姉上の力になりたいんですよ。同じアディントン侯爵家ではありませんか。遠慮せずに何でも言ってください!」


「……」


 確かに、私とフレッドはアディントン侯爵家の姉弟だ。

 姉弟は力を合わせるべきという綺麗事だけでなく、侯爵家の方針を決める上でも彼の意見は参考になる。

 もちろん、お父様には相談の手紙を別途出してはいるけれど……。

 果たして、秋祭りまでにお父様からの助言の手紙が届くかどうか。


「……本当にいいの?」


「はい!」


「でも、相談したところで……。あっ! いいことを思いついたわ!」


「姉上?」


 私は名案を思い付いた。

 フレッドに話してみることにしよう。

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