14話 魔法適性

「へへっ! 食った食った!」


「ありがとうございます、イザベラさん!」


「すっごく美味しかったよ!」


「イザベラ姉ちゃん、良い奴だな!」


 子供達は満足してくれたようだ。

 私に礼を言ってくれた。


「そうでしょう。もっと感謝してもいいのよ?」


「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」


「はい、よくできました」


 私はにっこりと笑って返す。


「貴方も食べたのかしら? カイン」


 私はカインに尋ねる。

 すると、彼は少し照れ臭そうに言った。


「おう! こんなに食べたのは久しぶりだぜ!」


「それは良かったわ。それじゃあ、そろそろ次の段階に進もうと思うんだけど、いいかしら?」


 私がそう言うと、カインは不思議そうな顔をした。


「次って何だよ? イザベラ嬢は、俺達に食べ物を恵んでくれたんだろ? まさか、この次は俺達を奴隷として売るつもりじゃあ……」


「違う違う。そんなことしないわよ。次っていうのは、これのことよ」


 私はそう言って、収納魔法からポーションを取り出す。


「ポーション?」


「これを飲めば、病気や怪我が治るのよ。それも、すぐにね」


 私は、一人一人の顔を見ながら説明する。


「俺は……どこも悪くねぇけど?」


「そういう問題じゃないのよ。飲んでみれば分かるわ」


「でもよ……。そのポーションは高いやつだろ? それ一つで、俺達何人分の食い物になると思ってんだよ?」


 カインがそう指摘する。

 ポーションの効果はピンキリだが、効力が控えめなものでも十分に高価である。

 私やフレッドが良質なポーションをたくさん生産して卸しているので、近年はやや価格が低下傾向だが、それでもまだ庶民には手が届きにくい。

 ましてや、スラム街で暮らしている子供達には無縁の代物だ。


「あら? お金なんて取らないわよ。これは、あなた達の未来への投資だからね」


「俺達の未来? どういうことだ?」


「まあまあ。とにかく、飲んでみなさいな」


「うぷっ!?」


 私は、強引にカインにポーションを飲ませる。


「どう?」


「んぐっ……。なんだか体がポカポカしてきたような気がするけど……。それだけだぞ?」


「本当に? どこか痛かったりとかはないの?」


「別にねえけど?」


 カインがそう言う。


「そう。ならよかった。きっと、それが正常な状態よ」


「正常?」


「ええ。今、あなたの体は健康体に戻ったということよ。慢性的な栄養不足に加えて、睡眠の質も悪かったのでしょう。魔力回路が詰まり気味のように見えたわ」


「魔力回路? なんのことだ?」


「簡単に言えば、魔法を使うためのエネルギーの通り道よ。普通は、食事と休息を取ることで整えられるのだけれど、貴方達はろくに食事をしていなかったみたいだし、ベッドもない場所で睡眠の質が悪かったようね」


 私はカインの目を見つめながら話を続ける。


「本来なら、少しずつ時間をかけて改善していくものなのだけど、私はポーション作りが得意なの。だから、貴方の体に溜まった悪いものを一瞬で取り除くことができたのよ」


「そんなことができるのか? あんた、一体何者なんだ?」


 カインは、驚いた様子で尋ねてきた。


「だから言ったじゃない。アディントン侯爵家の娘よ」


「貴族の娘だからって、こんなことができるのはおかしいだろ。血筋のおかげで魔法を楽に使えて、優雅にダンスしたり本を読んだり……。普通の貴族様はそんな奴らばかりだ。イザベラ嬢は普通じゃない」


「確かに、私は普通ではないかもしれないわね。でも、私は今までいろいろと頑張ってきたのよ。ポーション作成もその一つだし、魔法もその一つ」


「そんなに頑張って……何をするつもりなんだよ?」


 貴族令嬢に求められるのは、主に政略結婚による人脈の構築と社交界での情報収集。

 そして、子供を産むための道具となること。

 私は前世の記憶がある分、その意識は薄いのだが、世間一般の認識としてはそうなっている。

 カインの疑問は最もだ。


「私はね、死にたくないのよ」


「死ぬ? 誰だっていつかは死ぬだろ」


「そうだけど……。私が言っているのは違う意味ね」


 寿命で死ぬのは仕方がない。

 でも、十七歳で婚約者に裏切られて殺されるのは嫌だ。

 私は、自分の意思とは関係なく誰かに傷つけられて、自分の人生を終わらせるなんて絶対にお断りだ。


「ともあれ、カイン。それに他の子達も。貴方達には私の味方になって欲しいのよ」


「味方? どうしてだ?」


「詳しくは言えない。でも、貴方たちならきっと強い護衛兵になれるはずよ」


「でもよ、魔法が使えるイザベラ嬢に護衛なんて要らないだろ? 弟のフレッドとかいう奴もいたし」


「いいえ。私達だけじゃ限界はあるわ。信頼できる仲間が必要なの」


 私は真剣な表情で言う。


「でもよぉ……。子供の俺達なんか、大した戦力には……」


「あら? まだ気づかないのかしら? 貴方達の何人かには、魔法の適性がありそうなのよ」


「えっ!?」


 カインが驚きの声を上げる。


「嘘だろ!?」


「マジかよ!?」


「すげー!!」


 子供達が騒ぎ出す。


「ほ、本当に、俺達に魔法の才能が?」


「ええ。もちろん。身体強化魔法、土魔法、水魔法……。私がいろいろと教えてあげるわ」


 私は得意気に言う。


「魔法が使えたら……。うへへ……」


「やったぜ! これで母ちゃんを助けられる!」


「僕は冒険者になるんだ!! そしたら、いっぱい稼いで、父さんに楽をさせてやるぞ」


「イザベラ先生、よろしくお願いします」


 子供達が次々と頭を下げてくる。


「お、俺もよろしく頼むぜ。イザベラ嬢」


「はいはい。任せなさいな」


 こうして、私は彼らに魔法の手ほどきを始めたのだった。

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