9話 ポーション作りの実演

「ここが私とフレッドの畑です」


 私はエドワード殿下を連れて畑まで案内した。

 ちなみにドレスは脱いで、作業着に着替えている。


「ほう。これは凄いな」


 エドワード殿下が驚いたように言った。

 彼の目の前に広がる光景は、一面の緑。

 様々な種類の薬草が植えられた畑が広がっている。

 私が予知夢を見たのが七歳。

 畑仕事を始めたのが七歳半。

 今は九歳。

 およそ一年半で、ここまでの規模になった。


「イザベラ。本当にこれほどの畑を一人で作ったのか?」


「ええと……。最初は私一人でしたが、すぐにフレッドが手伝ってくれるようになりました。それに、ここ最近は人を雇って手伝ってもらっていますので」


 さすがにこれほどの規模になると、私とフレッドだけでは管理できない。

 そこで、人手を増やして作業効率を上げることにしたのだ。


「ふーむ。なるほどな。……では次に、ポーション作りを見せてもらえるか」


「はい。わかりました」


 私達は納屋の中に入る。

 棚から、調合用の鍋と道具を取り出す。


「では、これからポーションを作ってみせますね」


「頼む」


 エドワード殿下が興味深そうな目で見ている。

 今回は……無難に強壮ポーションでも作ろうかな。

 私は材料を鍋の中に入れる。

 そして、火にかけながらかき混ぜていく。

 このままでもそれなりのポーションはできる。

 だが、『ドララ』の知識を持つ私は、ポーションの質を高めるちょっとしたコツを知っている。


(ここね)


 私はタイミングを見計らって、魔力を注ぎ込む。

 しばらくして、鍋の中の液体が緑色に光り出した。


「おおっ!」


 エドワード殿下が感嘆の声を上げた。


「できました」


 私は出来上がった緑色の液体を瓶に入れ、殿下に差し出す。


「これは強壮ポーションです。どうぞお確かめください」


 エドワード殿下は受け取った強壮ポーションをじっと見つめる。


「……これは飲んでも大丈夫なのか?」


「もちろん。飲むと体が丈夫になっていきますよ」


「…………」


 エドワード殿下は無言でごくりと唾を飲み込むと、意を決した様子でポーションを口に含んだ。

 そのままゴクリと飲み込む。


「うぐっ! ……げほっげほげほげほっ!!」


 直後、激しく咳き込み始める。


「だ、大丈夫ですか!?」


 私は慌てて駆け寄り、背中をさすった。

 もしかして失敗したか?

 いや、そんなはずは……。


「だ、大丈夫だ……。しかし、なんだこのポーションは。まるで体の中を虫が這い回っているかのような感覚を覚えたぞ」


「それは恐らく、体の中に潜んでいる病魔を追い出したからでしょう」


「なに?」


「病気の元凶を退治してしまえば、後は自然に治っていくだけです」


「そういうものなのか……」


 エドワード殿下が納得したようなしていないような顔で言う。


「先ほどのお話では、こちらの強壮ポーションも騎士団に卸すことになっていました。よろしければ、殿下も継続的に飲まれるとよいでしょう」


「その方がよいのか?」


「はい。定期的に飲めば、より効果が高いです。もちろん飲み過ぎは体に毒ですけどね。月に一度ほど飲めば十分かと」


 私もフレッドも、月に一度のペースでずっと飲み続けている。

 そのおかげか、二人とも頑丈で健康に育った。

 病気知らずだし、身体能力は同年齢の他の子供達と比べても一回り以上高い。

 お父様やお母様、フレッドの母親カティさんにも、定期的に飲んでもらっている。

 それでも余った分は街へ卸しているのだが、侯爵家で雇っている使用人達にもたまにプレゼントしてあげたりもした。


「そうか……。わかった。では、私から騎士団に頼んでおくとしよう。ところで、他のポーションなども作れるのか?」


「一応、大抵のものは作れますよ」


「【魔乏病】の特効薬を作った者に対して、愚問だったか」


「いえ、そんなことはありません」


「謙遜するな。イザベラの実力なら当然のことだろう。それで……伝説級のポーションも作れたりするのか? 例えば……死者蘇生の秘薬とか」


 エドワード殿下が冗談交じりに言った。

 だが、目は真剣だ。


「さすがに死者蘇生は……無理ですね」


 材料が足りない。

 『ドララ』では、竜の鱗だとか、精霊の涙が必要だと書かれていた。

 ちなみに私は、どちらも持っていない。


「まあ、そうだよな。所詮はおとぎ話。空想上の話だな」


 エドワード殿下は残念そうな顔をしている。

 材料さえあれば作れないこともないだろうけど、ここは黙っておこうかな。

 無茶振りされたら嫌だし。

 そんな感じで、エドワード殿下は私とフレッドの畑の視察を続けていったのだった。

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