第2章 ミレリア森林編
第12話 運命
注がれた水を飲んだ。何というか、冷たくて、新鮮味のある感じだった。特に毒とかは入ってはいなかった。
「安心しな。毒とか入ってないから。まぁ、警戒するのが当然だよね。」
僕は黙ったまま、女性の話を聞いていた。
「とりあえず、ご飯を食べようか。お腹、空いているのではないのか?」
「……。空いて、ます。」
ぎこちない返事をしてベッドから出た。警戒はしているけど、まだ現状を飲み込めていないという方が正直な気持ちだった。
部屋を出て真っ直ぐ歩くと、リビングっぽい部屋に来て、空いていると椅子に静かに座った。
「簡単な食事になるけど、それでいいかな?」
「…。はい、大丈夫です。」
すると、机の上にパンが二切れ、サラダと卵焼きっぽい料理が出てきた。王宮内の料理と比べると、庶民的な感じの食事だった。コップに水を注いで一口飲んだ。
「さぁ、食べようか。」
両手を合わせてこう言った。
「では、いただきます。」
思わず、反応してしまった。なぜなら、彼女の言葉から『いただきます』なんて言葉が出たからだ。この世界に日本の文化はあるはずがない。
初めてこの世界の父に会った時の反応が「何だそれは?」という感じだった。しかし、彼女は……。
「なっ、何でその言葉を!?」
驚いた反応を見た彼女は、クスッと笑った。特に追求をしてくる事はなく、ただ、じっと見ていた。
「ふふっ。まぁ、落ち着きなよ。順を追って説明するから。とりあえず、君から紹介してくれないかな。」
「何で僕からなんですか?」
「私から説明すると、少しややこしくなるからだよ。」
そう言われて、自己紹介をした。
「僕はカルマ。えっと…、出身の国は、あれ…?」
そういえば、自分のいた国名が分からない。
「?どうしたの。出身地が分からないの?う〜ん……、じゃあ、最近の出来事を教えてくれないかな。」
最近の出来事か。目を瞑って考えた。
(何かニュースになる事は無いのか?考えろ、考えろ。)
すると、一つ思い出した出来事があった。それは、死刑だ。あれだけ大勢の平民達が来ていたら、死刑の事は広がると考えた。
それと同時に、死刑を行う理由も何らかの形で、他の場所にも伝わっているだろう。個人的な意見として、貴族が襲われることは、大きな問題だと思ったからだ。
「えっと、最近は自分の国で死刑がありました。」
「死刑かぁ…。それだと、ルーズノス王国出身かな。死刑の事は知っているよ。確か、貴族を襲ってきた男は斬首刑になった事だったね。」
「どうして、その事を知ってるの?」
「近くの町で、張り紙を見た事があったのよ。」
ここが何処かは分からないが、他の街にも伝わっているようだった。それから、年齢は大体6歳くらい、魔力が0の事も伝えた。
「魔力が0……か。私も初めてあったな。」
「やっぱり、珍しいのですか?その、魔力0って…」
「珍しいというレベルではないかも…。人類初と言っても過言ではない。むしろ、人は誰でも魔力はあるはずなんだけど………。」
彼女はコップに入っていた水を一口飲んだ。彼女の言い方からすると、何かあるような感じだった。『誰でも魔力がある』この発言が引っかかる。尚更、自分に魔力が無いのかが疑問に思った。
「他は何かあるかな?」
「…。えっと、もうないです。自分の名前と魔力の事と貴族である事しか知らないので。」
「なるほどね。」
そろそろ、彼女について知りたい。食卓に並んだ料理を食べ終わり、僕から彼女について聞きたい事を聞いた。
「僕も聞きたい事があるんだけど、」
「そうだね。私より聞きたい事、山程あるもんね。じゃあ、一つずつ答えていくよ。」
こうして、今の状況や昨夜の事、そして彼女の事が徐々に明らかとなっていった。
「じゃあ、まずは自己紹介からするよ。」
彼女は最初に自分の名前を言った。それを聞いた僕は、一瞬思考が停止した。
「私はミレン。」
「え。ミレンって、デネブロス襲撃の…?」
「その事を知ってたんだね。なら話が早いね。」
ミレン。彼女は200年前、デネブロス襲撃に出てきた人物である。あの歴史だと、デネブロスから国を守った魔女。しかし、ゴーレムの召喚をしたと疑惑を掛けられ、国から追放された。ということは、彼女の正体は魔女であった。
「私の事は、今は後でね。現状起きてる事についての方が知りたくない?」
そう言って、まずは昨夜起きたことから話し始めた。
道端で倒れたところを魔物たちが発見した。僕が見たのはゴブリンとのこと。僕はゴブリンたちに拾われ、ミレンのとこまで連れてきたということだった。しかし、なぜゴブリンたちは襲わなかったのか。
「あのゴブリンたちは私の仲間だよ。君の様子?とかがおかしいだの、何だので連れきたんだよ。」
「僕、どういう感じだったんですか?」
「まず、全身傷だらけで、様子を見ていたら『少しずつ回復しているような現象があった』と話していた。」
その話を聞いて、自分が死なないという事が確信へと変わっていった。ゾッとする。あんな痛い思いをして死なないなんて、(地獄だろ)って思った。
「そんな事が僕の体に起こったなんて、気持ちが悪いです。」
「まぁ、多分そうだね。君は魔力0だから、回復魔法の可能性はあり得ないね。」
そうなると、僕の体は魔力0の不死身であると、自分の中で結論づいた。
「僕は不死身なんですか?」
「傷の治りが早いからね。多分、そうだと思うわ。それと、もう一つ聞きたい事があるんだけど。何であの森にいたの?」
その質問がきた時、僕は下を向いてしまった。あんまり、思い出したくない。しかし、言わなければ話が進まない。言いたいことがあるけど、言えないという事をミレンさんは察した。
「言えないのなら、無理に話す必要はないよ。言えるときでいいからね。」
「あっ、はい。そうさせてもらいます。」
話は変わり、次はここが何処なのかを聞いた。
「ここはルーズノス王国から南にある森、ミレリアの森。街もあるけど、近くはないよ。最短で一時間くらいかな。」
「僕、こんなところにいたのか。ちなみに、王国とどれくらい離れているの?」
「かなり遠いね。正確な距離までは分からないけどね。」
なるほど。大体の現状が理解できた。嬉しい事ではないが、自分の事を知れたので、前向きに行こうと思った。そうしたら、僕はこれから、どうすればいいのだろうか。
「あっ、そうだ。一つ言い忘れた事があった!」
何かを思い出したミレンさん。
「どうしたんですか?」
「この先、魔力0でどう戦っていけばいいか、知りたくない?」
その話、詳しく聴きたいと思った。
「ぜひ、お願いします。」
「じゃあ、今から説明するね。まず、この世界には2つの力があるの。」
「一つは魔力を使って戦う魔法だよね?」
「その通り。そして、もう一つが君がこの世界で、魔法以外で戦える唯一の方法なの、それは、自身の命を代償に戦う力、生命力なんだけど……。」
この説明を聞いて、しばらく黙った。この世界で生き抜くには命を代償にしなければならない。ミレンさんの言ってる事はそういう事だった。
改めて思う。この世界は僕に優しくない。魔力は0、死なない体、命を代償にする力。本当に、何で転生したのか疑問に思った。
僕は、その力を使う覚悟があるのだろうか……。
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