第11話 逃げた先に

 騎士達の行く方向に見覚えがあった。そして、その場所だと気づくと、すぐに抵抗した。


「やめろー!!離せよ!!」

抵抗するが、二人の騎士から逃れるためには、幼すぎる体では掴まれた手を解くことができない。地下の階段を降りると、予想通りの場所に着いた。それは、牢獄だった。

 牢獄まで連れて来られ、投げ捨てるように入れられた。

「おら!!大人しくしろ!!」

そのまま、立たされ、両手を伸ばした状態で拘束された。この時点で、何されるかは分かる。拷問だ。


 やばい!やばい!やばい!やばい!やばい!嫌だ!!体が震え、恐怖が体を支配した。汗が止まらない。動きたくても、動けない。心臓の鼓動がどんどん早くなった。


「さぁ~てと。手始めに、爪から行くか。」

爪と言ったら、剥かれる以外ない。嫌だ!!本当に嫌だ!!


「嫌だ!!やめて!!僕が悪かったから!!」

「そんな事言っても、お仕置きだからな。自分の言った事をしっかりと反省しな。」

そう言って、僕の右手を押えつけ、道具で爪を挟まれた。

メキッ、メキッ。バキッ!!

えげつない音と共に、激しい痛みと指先から血が流れ出た。涙が止まらない。

「あーーーーーーーー!!!!痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」

続けて人差し指、中指、薬指、小指と剥かれた。

剥かれてない指がキーキーと引っ掻く音が響いた。しかし、それ以上に絶叫が牢獄中に響き渡った。

残った左手も押さえつけられ、

メキッ、メキッ、バキッ!!っと爪を剥がされた。

「あーーーーーーー!!!!痛い!!痛い!!もうやめてーーーー!!」

どんだけ叫んでも、やめる気配などなく、拷問はまだ終わらない。目を開けているのが辛かった。爪をはがし終わり、今度は葉っぱを持ってきた。


「次は『ウシルル』の葉だ。触れると痒みが止まらなくなり、痒くなった部分を触るだけで痛みも発生する危険な葉だ。」

 葉を持って腹と腕と首に当てられた。その瞬間、すぐに痒みが襲ってきた。

痒い痒い痒い痒い痒い!!掻きたいけど、掻けない。動いたら、痛みが来る。騎士の人が思いっ切り腹を叩いた。痒くて、凄く痛い。

 休む暇などなく、次の拷問がやってくる。次は、松明を持ったもう一人の騎士が来て、僕の腹を焼いた。

「熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!!!熱いし、痛いし!!!!ゴホッゴホッ!!はぁ、はぁ、はぁ。いぎが………。でぎない。くるっ……、し……………い………。」

腹はジュ〜と焼け、へそあたりが徐々に黒くなってく。あまりの辛さから、呼吸をすることすら困難であった。


 その次は、ハンマーで両手の甲を叩かれる。勢いが強かったため、骨がバキバキバキっと砕け散る音も聞こえた。手の感覚が無く、あるのは意識と拷問という地獄だけ。また、松明で焼かれる、ハンマーで叩かれる、それを繰り返された。目が飛び出るほど、激痛と痒み、爪は無くなり、至る所に出血や痣、大火傷など。目からは、滝のように出る涙が止まらない。見るからに酷い状態であった。


(僕は死ねるのか。あぁ、死にたい。早く、殺してくれ。)


 意思が段々薄れてきて、前の景色が失われていった。自身の心臓の音も聞こえづらくなり、凄く眠くなった。この感覚、どこっ…、か………で。 あっ…………………た。よ………う………な………。

ここで完全に意識が無くなった。






 どれだけ時間が過ぎたか分からない。しかし、体が動かない事に気づいた。というより、動けない。そして、目も開かない。あるのは暗くて何もない所。無限に広がっているであろう暗い空間に、少しだけ覚えがあった。

(前にも同じような事?があったような……。)

すると突然、聞き覚えのない低くて男性のような声が僕の意識に語りかけてきた。


「オマエハマダオワラナイ。」

全く持って理解できないが、そう聞こえた。そして、考える暇も無く、どこかのブラックホールに吸い込まれるような感覚になり、そっちに引きつけられた。








 しばらくして、ポツン、ポツンと水の音が聞こえてきた。ハッとして急に目が覚めた。 

「はぁ、はぁ、はぁ。」

呼吸は何故か乱れている。まるで悪夢を見て焦って起きたような状態だった。

 それよりも、あの『暗い空間』今になって思い出した。あれは、『自殺して死んだ後にいた空間』とかなり似ていた。そして、すぐに恐ろしいことに気づく。

 拷問で爪を剥がされたが、今はしっかり付いている。火傷の痕もない。痒みもない。全てが治っていた。あの空間と体の再生、僕はゾッとした。


あの時、僕は『一度死んだ』のだと自覚した。


 訳が分からない、訳が分からない、訳が分からない、訳が分からない。

 死んだ人間は蘇らない。なのに、何でいきている?あたりを見渡すと、拷問された状態と変わらない。

 このままでは、また拷問される、そう思った。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


 もう、あんな地獄、味わいたくなかった。恐怖とパニックで、冷静になれない。

そんな状態の中、通路の方からトン、トン、トン、と足音が聞こえた。また騎士たちなのか。目をパッと大きく開き、じっと待つ。心臓がバクバクと速く鳴っている。


(誰だ……?)

 そして、現れた。姿は黒いフードを被っていて、顔は見えないが、騎士ではないようだった。

「おまえは、だれだ?」

「名乗ってる時間がない。すぐに外してやる。」

すぐに拘束が外れ、やっと動けるようになった。

「さ、早く行くよ。」

小声で言われ、手を引っ張られて牢獄を出た。静かに早歩きをしていると、あの野原に着いた。時間帯は夜だった。そしてそのまま奥に行って、あの隠れ道に着いた。


「この道を奥まで通ったら、分岐する道があるはず。その道に来たら、絶対に右に行くこと。いいね?」

「ちょっと待って。何でこの道知ってるの?この道は、貴族でも知らないんじゃ……。」

「早く行きなさい!!じゃないと、『殺す』よ。」

一瞬声を荒らげた人は、女性っぽかったが、考える暇を与えず、殺気を出した。本気で殺すと分かった瞬間、僕は走ってその道に行った。


 走って、走って、走って、走り続けた。この道は行ったことがあるため、なんの問題なく分岐した道まで来れた。『絶対に右に行くこと』あの言葉が想起された。言われた通り、右に行った。初めて行く道なので、慎重に歩いた。当然前は暗く、先が見えない。

 結構歩いたけど、まだ外には出ていなかった。歩いても 歩いても、変わらない景色。

 随分と長い時間歩いたら、ようやく外っぽい景色が見え、残りの道を走った。外に出ると、そこには森林が広がっていた。行く宛がなく、ひたすら真っすぐ歩き続ける。


「はぁ、はぁ、流石に疲れたな。」

足が筋肉痛になり、歩く度に痛みが生じた。疲れの影響か、躓いてしまい、道の真ん中で転んでしまった。

「いて!!」

転んだ状態から立ち上がれなかった。相当疲労が溜まっていたのだろう。しばらく、俯いていると、誰かの足音がした。ここは、森の中。しかも夜中である。人が通るとは考えにくかった。そうなると、考えられるのは一つだけであった。モンスターだ。

逃げたくても、力が入らない。


「くそ!ここで、食われるのか。」

 疲労で眠気が襲ってきた。顔を地面につけ、ゆっくりと瞼を閉じた。足音が近くでした。もうそこまで、来ているのだろう。諦めたように眠りについた。







 ふかふかなベットの感触、それを感じて目が覚めた。全く知らない部屋。窓は小さく、そこから日も差していた。右隣に机があり、そこに一人の女性が立っていた。全く知らない女性。貴族の部屋ではない、木で造られた部屋。ここはどこだ?


「やぁ、少年。おはよう。ぐっすり眠れたかい?」

コップに水を注ぎ、僕にそれを渡した。

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