第11話 香り

「ん?ガスみたいな匂いしてない?」

入ってくるなり久美子さんが鼻をクンクンさせて言う。


いつもの席でアフォガードにエスプレッソをかけていた紗江さんもクンクンし始める。

「あは、エスプレッソの香りしかしない〜」


「いやー。コンロは使ってないし、何も匂わないけどなあ。」


「私、最近、鼻が敏感になってきて。たぶんこれ、邪気の匂いだと思う。

レイキしてる時も時々、ふっとくるの。」

「ああ、さっきまでいた人に邪気ついてたから、祓った」

「やっぱりー」

紗江さんの隣に腰掛けながら、久美子さんが、まだ気になる様子で鼻をひくひくさせている。


「回路開いてるからね、勘がよくなったり、気配や香りに敏感にはなるよ」


「へーえ。回路開くと第六感が働くようになるの?」


「んー、どこから説明しようかな。

人の魂はもともと高次元の存在だったものが波動を下げて肉体を持って生まれてきたんだ。そこまではok?」

「んんん、まあ、なんとなく。そうなんだと読んだことがあるってとこ」

「実感はないけど、まあそういうことなんだと思って聞いて。

もともと魂は高次元からきているから、高次元と臍の緒みたいに繋がってると思って。

だから、いつでも高次元の存在と通信して必要な物事を引き寄せたり、情報をとれるんだ。

でも、現代人は文明という名のもとにその感覚を忘れてしまったんだな。」

「あ、『ミュータント・メッセージ』って本があるから今度読んでみるといいよ。私持ってるから貸してあげる。」


「そうだ、今日は早じまいして、ちょっと上と繋がるの体験してみない?」


「えー? 上って?」

「そかそか、紗江さんこういうの初めてだもんな。時々こんなワークショップやってるんだよ。

上っていうのは、まあ、便宜上言ってるんだが、高次元の自分=ハイヤーセルフと繋がると同じ次元の存在たち、例えば神様とか天使とか言われてる存在たちが呼んだら来てくれたりするんだよ。」


「へーえ、呼べるの?」


「もともと同じものだからね。ワンネスって聞いたことある?」


紗江さんは首を振る。


「そうか。まあ簡単に言っちゃうと

この世の中のもの全ては一つのものから分離してできたんだ。だから、元をたどると皆同じもの=ワンネスってことなんだ」


「ということは、私とマスターも同じものってことなの?」

「究極を言うとそうなる」

「、、、??」

「ははは、まあ、おいおい話すよ」


「そうだな、今日は、ちょうど邪気を払ったりしたから、祓戸はらえどの神、瀬織津姫さんに来ていただこう。じゃあ君たちを高次元に誘導するからね」


マスターが精神を集中させて、何か祈るように手を動かしたあと、少しして

「目を開けてみて。さっきまでと何か違う感じしない?」

「なんだか部屋が明るくなったみたい」

「色が鮮やかに感じる。カウンターの花もすごくイキイキ綺麗に見える」


「あ、そこにいらしてる」とマスターが呟く。

「瀬織津姫様、いらしていることを私たちに分かるようにしていただけますか?」

すると、何千本もの花の中にいるかのように、とてもかぐわしい花の香りがしてきた。


「瀬織津姫様ありがとうございます。ここにいるものを払い清めてください」

「払い給い、清め給え。

 神ながら守り給い、幸(さきわい)給え」

「ありがとうございました。どうぞ元の所にお戻りください。」


「ほおーっ」と私たちは息をついた。

「とても綺麗な方だった」

「えー、マスター見えたの?」

「どんなお姿だったの?」

「私は何も見えなかったけど、花のすっごくいい香りがした。まだ香ってるよね」

「うんうん。すごくいい香りしてる」

「神様って神社じゃなくても来てくださるものなのね」

「高次元では一緒にいるからね。

ただし、ちゃんとハイヤーセルフと繋がって高次元に意識を持っていかないと、神様のふりをした低次元のものがやってきたりするから、むやみにやっちゃいけないよ。

さて、このまま帰ると、フワフワして危ないからね。僕の言うとおりにして。一緒にグランディングしよう」


久美子さんと紗江さんが興奮気味に話しながら帰って行くのをマスターも珍しく上気した顔で

見送っていた。


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