第12話暖炉とスイートポテト

11月も半ばを過ぎて、朝晩が冷えるようになった。

コンクリートの床は、思いの外底冷えする上、

木製のアンティークドアは見た目は良いのだが、どうしても隙間風が吹き込む。


店を出す時、インテリアとして暖炉が欲しいと思っていた。施工会社に頼み込んで、厨房機器の煙突があった所に暖炉とその煙突を作りつけてもらった。

これが、実際に使ってみると、体の芯から温まる心地よさだった。

思っていた以上に実用的な暖炉がこの店の冬のとっておきのアイテムになった。


カウンターのお客様ごしに見える炎の色や、薪のはぜる音と香りにも癒される。

入って来られたお客様が、「わあ、あったかい」と、暖炉に手をかざして顔をほころばせる様子を見るのも幸せだ。

暖炉を作って良かったとつくづく思う。


今年もいよいよ暖炉の季節がきた。火入れをいつにしようかと、暦を見る。

今どきは気にしない人も多いのだろうが、なんとなく気になって、11月の亥の子の日を火入れの日と決めている。簡単に酒と水と米と塩を供えて柏手を打ち、少しだけ火を焚く。それだけで、守られるような気がするのだ。


都合の良い亥の子の日は定休日だった。たまには、いつも来てくれている人たちとのんびり暖炉を囲んでお茶会をすることにした。


チリリン


「やあ、やあ、ようこそ」


美津子さん、久美子さん、紗江さん、そして私と圭子。今年は賑やかな火入れだ。


まずは粛々と火入れを行い、あとは火を調節して、焼きマシュマロと焼き芋をすることにした。

パチパチと薪が燃える音と煙の香ばしい香りが店の中に漂う。


「あー、やっぱり炎っていいね」

「ずーっと見ていられるわね」

「やだーマシュマロ落ちちゃったっ」

「わっわっ、焦げたー ふぅーっふぅーっ」

「そのくらい大丈夫、大丈夫」

「あーあ真っ黒」

「うふっ完璧!こんがり焼けたわ」

「おおー」

「中トロトロ〜  熱っ 熱っ」

と皆で大騒ぎだ。


アルミ箔でくるんで灰の中に入れたさつま芋の焼けるいい香りもしてくる。

「このまま食べちゃうのも芸がないわね」

と圭子が簡単なスイートポテトもどきにするとキッチンに入る。


「楽しみ楽しみー」


「生クリームがないから、牛乳とバターで。裏漉しも艶出しもなしね」


「さすが圭子さん! 手際がいいなあ。へえ、そうすればお手軽スイートポテトができちゃうのね」


「これなら私も家で作れそう。今度やってみよ」

と、カウンターの中を覗き込む女子たち。


「焼き芋も暖炉で焼くと一味違う美味しさよね。さらにこーんな一手間かけるなんて贅沢ー!」

「スイートポテトも大好きっ。んーーおいしー」


暖炉を囲んで座って、みんなでワイワイ言いながら食べていると、まるで、里帰りしてきた娘たちのようだ。圭子はそんな彼女たちに飲み物を用意したり、つまむ物を作ったりと楽しそうに細々世話をしている。

「あ、これは、焼きおむすび? 運びまーす」

「お皿もあった方がいいかな」

「お皿そこね。お箸はここ。一緒に持っていってくれる?」

「はーい」

「こちらの器は洗いますね」

「あら助かるわ。お願い」

普段の私たち二人の生活にはない華やぎだ。

もしも私たちに娘がいたら、圭子はこうして料理などを教えたりしながら賑やかな団欒の時を作っていたのだろうか。


「そういえば、このメンツが一堂に集まるのって初めてなんじゃないか?」

「そうかもー」

「またこうして一緒に何かできたら楽しいね」

「うんうん」

「どこかに行くっていうのも良くない?」

「わあ、それいいね!」


こうして、おしゃべりに花が咲き、その日は遅くまで店の中に笑い声が響いていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不思議だぞう屋 YO_KO @youkosokamisama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ