第10話 ハーブティー

今日はマスターがいない。

また、風水の勉強会らしい。

このところ店を任されることも多くなった。この辺で少し私らしいものをと考えて、私のケーキとプリンとハーブティーを3種類、それと紅茶を2種類。これだけでいくと決めた。

テーブルのメニューを差し替えて、ティーポットもガラスのカボチャ型の華奢な物に入れ替える。

やはりハーブティーは色も楽しんでもらいたいからカップもガラスがいい。

薄い器は扱うのに気を使うけれど、軽くて繊細な感じもまたいい。



たまにはコーヒーのない喫茶も面白いんじゃないかと、ハーブティーをメインにやってみることにしたけれど、まだまだ、生のハーブティーを飲んだことのない人も多くて、ハーブティーは苦手と思ってしまっている人が多いのが残念で仕方ない。

庭の摘みたてのハーブをちぎってポットに入れている時の香り、

お湯で広がっていく香り、

ぜひ、この香りを楽しんでもらいたいとかねがね思っていた。


用意したのは

一番飲みやすい、レモンの香りがするレモンバーベナとレモングラスにスペアミントを少し加えた爽やかな生ハーブティー。


ピンク色が美しくてロマンティックなバラの香りのもの。これはドライのダマスクローズとローズヒップにローゼルを合わせた。


いちじくの葉茶。いちじくの少し甘い香りがする。あまりハーブのイメージはないが、いちじくの葉がこんなに美味しいお茶になると知ってほしくてメニューに入れた。


どれも、庭で育てているハーブたちだ。

ハーブは収穫したら乾燥させるのが普通だけれど、私は生のフレッシュな香りのハーブティーが好きだ。さすがにダマスクローズとローズヒップはドライの購入した物を使うが他は朝、庭で摘んだものか冷凍しておいたものを使う。


用意ができて、お湯が沸く音を聞いている静かな一人のこの時間も楽しいものだ。

家では、片付けが終わったら、庭のテーブルに座ってその日の気分のハーブをブレンドして飲む時間が一番好きな時間だ。お客様にもこんな気分で飲んでいただけたらと思う。テラス席がないのが残念だ。


初めてマスター不在の日にピンチヒッターで任された時は、慣れないことで、ケーキとコーヒーを出すだけで汗だくになってしまったのだが、それも度々となると、お客様とも顔なじみとなり楽しめるようになってきた。

そして満を持して、今日は自分のメニューを出してみた。


今日はどんな人が来て、このハーブティーを飲んでくれるんだろう。


お客様の反応はどうだろうか。やっぱりコーヒーが飲みたいという方もあるかな。 ワクワクするような、でもいつになく緊張して待つ。


チリリン


「いらっしゃいませ。あら、久美子さん。久美子さんが最初のお客様で良かったー」

「こんにちは。今日は圭子さんの日なのね?ケーキはなにがあります?」

「今日のケーキはシフォンサンド。あと、ほろ苦プリンもあるわ。良かったらハーブティーはいかが?3種類用意したの」

「へえ、ハーブティー?  実はあんまり飲んだことがないの。飲みやすいのはあります?」


「生のハーブティーは飲みやすいわよ、テイスティングしてみる?」

「わあ、いいの?」

「これが、レモンの香りの生ハーブティー」

「ほんと、レモンの香り。あとミント?いい香り。こんなの初めて!」

「これはあまりお店では見ない、いちじくの葉茶」

「あ、甘い香りがする!葉もいちじくの香りなのね。これスルスル飲めちゃう」

「これは、ローズね。ローズヒップとローゼルが入ってるから少し酸っぱいかも。」

「綺麗なピンク色ねー!ローズの、いい香り。女子力上がる感じー」


「ちょっとハーブティーのイメージが変わったわ。あー迷うー。どうしようかな。

ん、でも、珍しかったいちじくの葉茶にする。優しい甘い香りが癒されるわ。それとほろ苦プリンをください。」


「よかった、私の一推しを気に入ってくれて。」

「このプリンも、甘さ控えめで。ちょっと固めのところがいいわ。この苦めのカラメルがたまらないっ」


久美子さんの感想にホッとしながら、初めてだと言いながらお茶も美味しそうに飲んでくれる様子が嬉しい。


チリリン


「いらっしゃいませ」

この店にしては珍しい若いお嬢さんお二人だ。

「今日はお飲み物が紅茶とハーブティーを3種類ご用意してます。」

「ローズだってー。美容にいいらしいわよ。私これにする」

「じゃ。私は生ハーブティーで。ケーキもください」


「こちらのローズのハーブティーには、ドライフルーツを入れて味の変化もお楽しみください。ドライフルーツも美味しく召し上がれますよ」

「わっ!おしゃれー。綺麗な色ね」

「すっごーい。シフォンサンド、果物いっぱい」

明るい歓声が上がって、SNSにあげるのだろう、色々な角度で写真を撮っている。


なかなかの滑り出しだ。


これならハーブティー好評だったわよと、マスターに報告できそうだと、ほっとしてカウンターの中の椅子に座った。



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