第4話 美津子 レアチーズケーキ
今日はアクセサリーの納品だ。
私の好きなものを詰め込んだ、こんなの欲しいがコンセプトのアクセサリーたち。
マスターの開運波動とかを入れてほしい人もいるだろうから、できるだけビーズや天然石を使った物を選んだ。
手にとっていただけるだろうか。
気に入ってもらえるだろうか。
値段はこんなところでいいんだろうか。
不思議だぞう屋はどちらかというと、マスターと話しに来るお客様が多いような気がする。
せっかく置いてあるマスターのミニチュア作品も、圭子さんのオルゴナイトも、見ない人がほとんどだ。
私のアクセサリーも、置いても気付かれない可能性が高い。と言って、多分置かせてもらうだろう大好きなアンティークのアルバートバーの雰囲気が台無しにならないようにしたい。
そこで、紺の布貼りの箱に自作の名刺を挟んで個包装したアクセサリーを並べることにした。
箱を入れた袋を持つ手が汗ばむ。
チリリン
「こんにちは」
「やあ、いらっしゃい」
「先週はありがとうございました。早速持ってきました」
「そこ、開けておいたから、好きに展示して」
「この箱のまま置かせてください」
「何か飲む?」
「あ、アイスコーヒーお願いします」
喉がからからだ。
一気に飲んで、ちょっと落ち着いた。
「今日のケーキはなんですか?」
「レアチーズケーキ。さっぱりしてるよ」
「ではそれを。コーヒーはおすすめのありますか?」
「今日はゲイシャが入ってるんだ。飲んでみる?」
「初めてかも。ぜひ」
レアチーズケーキはヨーグルトも入った甘さ控えめのさっぱりしたケーキだった。そこに、真紅のブラックベリーソースがかかっている。酸味がきいていて、色と味のいいアクセントになっている。砕いたグラハムクラッカーとバターの台がサクッとしつつ、爽やかなレアチーズケーキにコクを出して絶妙なバランスだ。
「今日も美味しいですね」
マスターが自分が誉められたかのように微笑む。
チリリン
「いらっしゃいませ」
「あー今日はやってた。お久しぶりですー」
入って来るなり賑やかな人だなと思っていたら、どんっと私の隣に座った。
他の席も空いてるのにな、とちらっと思ったが会釈しておいた。
「何にしますか?」
「前来た時おいしかった、あれなんだったっけ?アイスクリームにコーヒーかかってる、、」
「アフォガード?」
「それそれ。アフォガードお願い」
というと、やおら私に向かって
「ここ、いつもやってなくてねー。今日はほんとに久しぶりに開いてたわ」
えっ?
「そういえば定休日いつでした?」とマスターに聞くと
「うち、不定休」とニンマリ笑って言う。
じゃあ、私、偶然開いてる時にばかり来てたってこと?
「最近、オーラ鑑定とか気功施術が増えちゃってねえ、喫茶休む日が多くなってるんですよ。誰かここやってくれないかな」と、どちらに言うでもなく言う。
そうだったのか。ラッキーだったのか私。
すると
「ここ、呼ばれた人しか来れないって言われてるのよ」と声をひそめてそのおばちゃんが言う。
「へえ。そうなんですかあ」と間の抜けた返事をしていると、
「吉田さん、なんかあったでしょ?
首のところがピリピリする。ちょっと外で払おう」と振り向きざま、突然マスターが言う。
「えーやっぱり?なんかこの間から肩が痛くて」
マスターは手になにやら草の束のような物を持って吉田さんを店の外に連れ出した。
「あーすっきりした。このために今日、来たんだねえ」
アフォガードを美味しそうに食べて、せわしなく吉田さんは帰って行った。
「相変わらず忙しい人だなあ。あの人、来るたびに何かつけてくるんだよねー」
「さっきのあの草はなんですか?」
「ああ、あれ?
邪気祓いに一番効くんだ」
「邪気って?」
「人の悪い念と言ったらいいのかな。すれ違っただけでもついたりするし、人間関係にトラブルあるとつくよ。
すれ違っただけでつくようなのは、さっと取れるんだ。そういうのは僕が勝手に取ってたりするんだけどね。
さっきみたいに僕の首がピリピリしたりするのはそうはいかない。オーラに聞いて、原因に気付かないといけないと出た時は、その人を思い浮かべてもらって、色々な技で取るわけ。」
「へえ、、、こわいな」
「人の念って一瞬で飛ぶからね」
「私、さっき、ちょっと嫌だなって思っちゃった。あれも飛んでる?」
「あはは、そうだね。飛んでる。まあ軽いけど」
「私はついてないですか?」
「美津子さんは今日はついてないから大丈夫。この前来た時は膝あたりについてたからとっておいた」
「わ、ついてたんだ。ありがとうございます。ただ疲れてるだけかと思ってました。」
「まあ、なんでもかんでも邪気というわけじゃないからね」
「あのアクセサリー、売れたら連絡するよ。
出ても出なくても時々は入れ替えしたほうがいいからね。また、新しいの作ったら持って来て。」
「よろしくお願いします」
チリン
今日は楠と
私は向かいの公園に足速に向かった。
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