第3話 美津子 オーラ鑑定

約束の2時まで、そわそわして落ち着かない。

定休日の店に行くのも不思議な感じだし、オーラ鑑定でどんな話が聞けるのかも想像できない。


家にいてもなんだか時間ばかり気になって何も手につかないので、少し早めに出て、ショッピングでもしてから行こうと決めた。

地下鉄の駅から会社に向かうのとは反対の方向には大手のショッピングモールが手がけたお洒落なブランドばかりが並ぶ一角がある。普段はウインドウショッピング専門だが、今日はゆっくり覗いてみよう。


普段なら縁のない店と思っている店も中に入ってみる。ちょうど不思議だぞう屋に入った時もこんな感じだったなと思う。何の店かも分からず、勇気を出して入ってみたら、美味しいコーヒーとケーキがあって、居心地の良いほっとできる場所になったのだった。

ちょっと敷居が高いと思っていたブランドの店は、入ってみると商品の見せ方はもちろんのことだが、ウインドウに置かれた大ぶりの枝もののアレンジメントや、装飾の小物や家具も洗練されていて、思いがけず居心地が良いと気づいた。こちらが見るだけと決めているのがわかっているのか、必要以上に声がけもされず店内を楽しんで見て回ることができた。

そうこうしているうちに、意外に時間は経っていた。ショッピングモールから斜めに裏の道を行けば早いはず。

行く先に、あの大楠の頂点が見える。ちょっとしたランドマークだ。

公園をいつもとは逆から見て歩く。

先日マスターが来た道がこれか。


「こんにちは」大楠に挨拶して店に向かう。

楠の葉がさやさや音をたてていて

「ぴぃー」と甲高い鳥の声がする。


今日もopenの木札は出ていない。

チャシャネコの尻尾のライトはついている。

尻尾のライトは「います」の合図かな?


チリリン


「こんにちは」


「あ、はい」

カウンターの下からシルバーヘアのおかっぱの女性の顔が覗いた。


「あの、2時の予約で」

「はい伺ってます。ごめんなさい。前の方がまだ終わってなくて。こちらで少しお待ちください」


ということは、ここで鑑定をするんじゃないんだ。

ちょっと戸惑ったが、いつもの奥から二番目の椅子に座ることにした。


「今日は何もお出しできなくて、水だけですけど」と透明な氷の入った水を出してくれる。

カウンターは高いとは言え、女性は顔しか見えない。シルバーのサラサラした短いおかっぱの髪に、赤と青のコンビのフレームの眼鏡が似合ってお洒落だ。


カランカランと氷がグラスに当たって涼やかな音がする。水と氷の境目が分からないくらい透き通っていて、なんて綺麗なんだろう。喉をすうっと降りていく冷たさが心地よい。

ここは水も美味しいのだと改めて思う。


「あ、すみません。

「もしかして、このオルゴナイト作ってらっしゃる奥様ですか?」

先日買ったキーホルダーを見せる。

「奥様だなんて。」ケラケラ笑うと

「圭子です。はじめまして。

なんだかああいうキラキラした綺麗な物が作りたくなって作ってみたんだけど。

使っていただいてありがとうございます」

「本当に綺麗ですよね、気がつくと見てるんです」

「嬉しいわ、気に入っていただいて」


どんな人だろうと色々想像していた人とは違ったけれど、マスターと同じでとても朗らかな話しやすい人だ。


「普段は店に出てらっしゃらないんですか?」

「こんな狭い店ですから。私はケーキを作るのと片付けを手伝うくらいね」

「あらあ、圭子さんの日があってもいいのに」

「うふふ、それも楽しいかもね」



人声がして、正面のアルバートバーの後ろ側から女性が出てきた。

あんな所から中に入れるんだ、、、


カウンターから挨拶に出た圭子さんは


ちっちゃかった!

そしてまんまるだった。

鮮やかなピンクのワンピースが風船のように張っている。

マスターと並んでいるとマスターの半分くらいしかない。

なんだか可愛らしい。お似合いのご夫婦だなと思って見ていた。

「お待たせしました。ではこちらへ」

マスターについて、アルバートバーの後ろへ入る。

そこは、小部屋になっていて、明かりとりの窓の横に背の高いウンベラータの鉢がある他は、小ぶりのテーブルとゆったりしたカリモクの椅子だけというこざっぱりした部屋だった。

壁は白い珪藻土で塗られていて、上のほうにある明りとりの窓から入る光がウンベラータの葉の緑を透かして柔らかく部屋に反射している。

落ち着く明るさだ。

この白い壁はオーラがよく見えていいのだとマスターはオーラの見方も教えてくれた。慣れたら自分でも見られるようになるらしい。

オーラ鑑定といったものの、オーラの話はあっさり終えてすぐ私の相談に移った。1時間はあっという間で、話しながら私は独立して何か始めた方が合っているようだと思い始めた。

では何を? 

時間を忘れるほど好きなのはアクセサリーを作ること。

マスターはその日私がつけていったピアスを褒めてくれて、作品を店に置いてみてはどうかと言ってくれた。

自分が好きで作った物を人にも喜んでもらえたら楽しいかも。まずは今の仕事をしながらでも、十分できるし、あちこちでやっているマルシェに出るのもいいかもしれない。

なんだかワクワクした気分で店を後にした。


そら色のドアの前でお二人が見送ってくれている。

楠もさやさや手を振ってくれているようだった。

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