短編SS

寝月夜兎

薔薇頭のお話

 白い薔薇の頭を持つ少女がいた。

彼女は色を欲しがっていた。

あの赤い子が羨ましい。

あの黄色い子が羨ましい。

あの青い子が羨ましい。

私も色が欲しい。

 白い薔薇の頭を持つ少女は、白いドレスを着ていた。

向かいの席には黒い薔薇の頭を持つ青年が雑誌を読んでいた。

ペラペラとページを捲りながら、耳だけを傾けているようだった。

「私の話を聞いているのかしら?」

 白い薔薇の少女はカップを少々乱暴に手に取った。

「聞いているよ。同じ話を何回も聞いてる。色が欲しいんだろ。あるじゃないか白色が」

「白だと目立たないもの。他の色がよかったわ」

「それも何回も聞いたよ」

「私も同じことを貴方に言われた気がするわ」

「今回は少し違うかもしれない」

 黒薔薇の頭の青年は楽しそうに読んでいた雑誌を置いた。

白薔薇の頭の少女は不思議そうに首を傾げた。

「どういうこと?」

「こういうこと」

 黒薔薇の頭の青年は席を立ちあがり、何かを背中に隠し持ちながら白薔薇の頭の少女に近寄った。

「ほら、これで白色じゃない」

 黒薔薇の頭の青年は、白薔薇の頭の少女の頭上から黒いインクをこぼした。

綺麗な白色が黒色になってしまった。

白いドレスも黒色に汚れてしまった。

「どう?」

「意地悪」

「今度は赤でも青でも何色でも。望めば君は何色でも染まれる。僕は君が羨ましいよ」

「わかったわ。明日、覚悟してなさい」

 黒薔薇の頭になった少女は、高らかに言った。

「楽しみにしているよ」

 黒薔薇の頭の青年は明日のことを想像した。

白薔薇の自分の姿を。


――お揃いだね。

今日も、明日も。

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短編SS 寝月夜兎 @neruto

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