第32話:待ってろ、お養父様!

「貴族になろうと決めたのは、貴族になればダニエルを守れると思ったからなんだ」


 ダニエルとお手々をつないでデュドゥエ家を訪れると、いつもの裏口にはすでにジャンが待っていた。

 ここに来るに至った経緯をかくかくしかじかすると、ジャンは困ったように笑って、それから首を傾げた。

 私は掴んでいたダニエルの手をジャンに受け渡して、そっと二人から距離を取った。

 橋渡しをしてくれている同志おねえさんも、バジルさんも、人避けの術を使ってくれているクレールさんも同様に距離を取った。


「ダニエルが俺との未来を考えてくれて、嬉しい」


 うおっ、まぶし。

 ジャンよ、もっとこう、少しは手心というものをですね……加えて差し上げろ。ダニエルが真っ赤になって固まってしまったではないか。ジャンダニスチルを拝めた私も同志おねえさんもオーバーキルよ。


「養父に「婚約者は決めておいてやる」と言われて、自分の甘さを痛感したよ。俺はダニエル以外と結婚なんてしたくない」


 アーッ! お客様、アーッ! 困ります! まぶしいっ! 甘ァイ! 溶ける! 最高! いいぞ、もっとやれ!


「ダニエル以外と結婚するなら貴族になんてなれなくていい。でも貴族じゃなきゃ、ダニエルを守れない……」


 視線をわずかに下げたジャンに硬直から復活したダニエルの手刀が炸裂した。

 キャー! ダニエルー! すてきー! うちわがあったら全力で振ってた!


「おれが! お人よしですっとろいジャンに守られてばっかなわけねえだろ! むしろおれが守ってやるし、養ってやる!

 だから貴族なんて…………やめちまえ!」

「ダニエル……」


 ジャンが感激のあまり眼を潤ませている。

 ねえ、奥様聞きまして? 「だから貴族なんて」のあとに小さい声で「他の女と結婚するなんて」って言っていましたわよ?

 私は同志おねえさんと肯きあった。

 これはもうプロポーズ(真)では?

 私と同志おねえさんは抱き合いながら涙を流しあった。


「相変わらず口が悪いなぁ、ダニエルは」

「うるせえ!!」


 攻撃力ゼロのダニエルパンチを受けながら、ジャンはこの上なく幸せそうだった。

 エヴリュディ……いや、ジャンダニがついに成立した。感無量……。とうとい……。花嫁と花婿の結婚衣装を作らなければ……。


「ぐずっ……、同志おねえさん……、今日はせきは……宴だね……」

「ええ、そうですね、教祖様オディル……ずびっ」


 感動に打ち震えて、このまま宴会会場を予約しに行こうとする私の肩をバジルさんとクレールさんが叩く。


「はいはい、宴は二人の結婚式の二次会で派手にやろうな」

「バジルさん……」

「今日のところは夕飯をちょこっと豪華にするくらいにしておこう、ね?」

「クレールさん…」


 そうだった。ジャンダニは成立したが、どちらもまだ未成年。結婚には保護者の許可がいる。

 ダニエルの保護者的存在のクレールさんからは問題なく許可がおりるだろう。しかしジャンの保護者は平民嫌いのお貴族様だ。

 ううむ、どうしたものか。

 と、悩んでみたところで私ができることなんて高が知れている。


「バジルさん、ジャンのお養父とう様に面会ってできますかね?」

「おう、できるぞ」

「ぼくもついていくからね、オディル君」

「二人とも、ありがとう!」


 バジルさんとクレールさんが一緒なら心強いことこの上ない。

 よーし、待ってろジャンのお養父様! 札束でその横っ面をぶっ叩いてやるからな!

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