第15話:ブン殴るぞー! おー!
経費抜きで千ティノで買ったお貴族様の事情はなんというか、昼ドラだった。
ジャンを買った伯爵はその昔、平民の恋人がいた。彼女と結婚したいと望むも両親からは当然反対される。けれどもどうしても恋人と添い遂げたかった伯爵は、思い詰めた挙句に駆け落ちをすることにした。
身分がなくなっても君が好き! 二人で生きて行こう! と恋人の手を取った伯爵に、恋人は嬉し涙を流した。
「私のことをそんなに愛してくれてるなんて……! でも生きていくのにお金は必要だわ。申し訳ないけれど、お屋敷から少し借りましょう。将来、生活が軌道にのったら少しずつでも返せばいいわよ。伯爵家なら少しくらい借りたって痛くも痒くもないでしょう?」
恋人の言に伯爵は納得して、当座の生活のために伯爵家の金を持ち出し、恋人と駆け落ちした。しかし、翌日宿屋で目覚めた伯爵の隣には恋人の姿も、持ち出した金もなかったという。
「ウワー、結婚詐欺」
「そんで家に連れ戻された伯爵は見事平民嫌いに」
「えーと、女嫌いにならなくてよかったネ……?」
「社交界では笑い者になって嫁さんも来ないそうだ」
「ウワー……」
「そんな失意の中で見つけた孤児はかつて自分を騙した女にそっくりでした、と」
「ウワア………」
「憎くはあるが、愛してもいた女との子どもを得た気持ちになっているらしいな。厳しく教育をしているが、虐待はしていない。そのうち正式に養子に迎えて、貴族としてお披露目する算段もしているとか」
「大人のイザコザに子どもを巻き込むなよう……」
私は頭を抱えた。憎はあるが愛もあるなら簡単に手放してもらえなさそー! むしろ息子に平民の嫁なんぞ断固拒否! とか言いそう! ダニエルを貴族令嬢に仕立てるほうが早そうなレベル。めんどくせえ貴族に買われちゃったな、ジャン。
実際問題平民が貴族になるのは難しそうだから、札束で貴族の顔をはたけるくらいの金持ちになるしかないかな。伯爵って現代日本人からしたらすごく偉そうな響きだけど、どのくらい金持ちなんだろう。
「貴重な情報をありがとうございました。私、これからもじゃんじゃん金儲けしますね」
「どうしてそうなった」
「という訳で、これからも営業よろしくお願いします、バジルさん」
「ああ、うん、よろしくな……?」
よーし、推し貯金をガンガン貯めて、お貴族様の横っ面を札束でブン殴るぞー! おー!
「なあ、物騒なことを考えてないか、お前」
「考えてませんよ?」
紙の束で人を殴ったところでケガなんてしないだろうから物騒じゃないもん。
情報屋は疑いの眼差しで私を見ていた。
「そうかあ……?」
「そうですそうです。今まで以上に気合を入れてお金を稼ぎましょうね!」
「二回言うと嘘くさいんだよな……」
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