第13話:田舎出身なので!
うーむ。どうしてこうなった。
私は出されたお茶を味わって飲む。おいしい。クレールが淹れてくれるお茶のが好きだけど。
私の目の前には土下座している細工師のおじさんがいたりするわけだが、うーむ。どうしてこうなった。私はただあなたに作れるか疑われてたけど、ちゃんと
「なんなの、お前は人を土下座させる天才なの?」
「ハハハ、そんなバカな。私はただ細工師さんに推しグッズの完成報告をしただけですよ?」
そう。私は概念推しグッズを作るために細工師さんに道具や材料の相談をして、完成報告をしただけなのだ。それなのに、本当に、どうしてこうなった。
「細工師さん、顔をあげてくださいよ。ほら、座って。お茶を飲みましょう。美味しいですよ」
そのお茶を出してくれたのは細工師なわけだが。ほら、
「頼む、お前さんの、いえ、あなたの作ったカンザシをうちでも作らせてください……!」
「なるほど。商品化のお話ですか? バジルさんバトンタッチ」
「よしきた任せろ。
ご主人、商談するならまず座って話しましょうよ。ほら立った立った」
小難しい商談は情報屋に任せて、私は店に展示されている商品を見て回った。作りたい概念推しグッズは簪だけではない。ピアスもイヤリングもネックレスもブレスレットもアンクレットもブローチだって作りたい。ありとあらゆる装飾品を推しグッズと化したい欲望が私にはあるのだ。
このネックレスチェーンが欲しいな、ピアスの台座が欲しいな、と物色していると情報屋に呼ばれた。
「商談がまとまったぞ。カンザシが売れた分だけ純利益の三%が毎月お前に入る、でいいか?」
「おっけーです」
情報屋の決めた割合なら間違いないだろう。細工師が胸をなでおろした。
それから新たな推しグッズの材料を買ったのだが、私はレジンが欲しくなってしまった。
レジン。それはお手軽に推しグッズが作れる可能性を秘めたクラフト素材。UVレジンともいう。動画サイトを見ては練習したっけ。ありがとう、動画作成者さん。
しかしレジンは効果にUV……紫外線が必要なのだ。紫外線ライトなんて代物がこの世界にあるわけもなし、レジン液も存在していないだろう。だってこの世界は中世が舞台。私がレジン液を知ったのは令和。時代が離れすぎている。
けど、欲しいな、レジン。なにか、代替品があれば……あれば……手に入れば……。
「なあ、店を出てからずっとなにか考えこんでるけど、なに企んでる?」
「よし、探すか」
「よしじゃねえ。待て、まずは相談しろ、一人で暴走するな」
「ウッス」
私はカクカクシカジカ、透明で、着色ができて、そこそこ粘度があって、魔術でも光でも薬液でも方法はなんでもいいからすぐに硬化ができてある程度強度のあるものが作れる液体がほしい、と伝えた。
言っておいてなんだけど、こんな便利な液体がこのジャル学世界にあるか?
「そんなものあるか……? で、それがあったとして、なにに……イヤ、いい」
「もちろん推しグッズ作成に使います」
「だろうと思った……」
それらしいものがあれば情報をくれる、と約束して、夕飯を食べた情報屋は帰っていった。
さて、それから数日後。
私は日課の薬草採りに来ていた。森の中だが岩や崖があったりする、洞窟の中ではキノコが多めに見つかる場所だ。光るキノコ採集の依頼を受けて私は採集場所の洞窟を訪れていた。
ここはいろんな種類のキノコだけではなく鉱石なども取れるようで、ときどきそれを目当てに人が出入りするらしかった。奥に行けば行くほど
ゲームではここに入った主人公のポーラが巡回中の騎士団の一行に出会い、副騎士団長のエヴラールと会話するイベントが発生する。顔の良いネームドキャラだから攻略対象か! とエヴラールに惚れたプレイヤーが喜々としてストーリーを進めていくと、残念エヴラールは攻略不可な
脚本家、殴りたい。リュンたそになんの恨みがあるってんだ。リュンたそに爆死したガチャのSSRを引いた画面でも見せられたのか?
私はリュンたそに降りかかる不条理を嚙みしめつつ、洞窟入り口に生えている鉱石を折り取った。青白い光を放つそれはお守り石と呼ばれるゲームでもお馴染みのものだ。
私が今いるこの『アクラ洞窟』は松明や光魔術が使えないと侵入不可の真っ暗ダンジョンだ。主人公は光魔術が使えるので問題なく入れる。
が、実は光魔術を使えずとも洞窟入り口を調べると『お守り石』――さっき私が取った石だ――が手に入り、その石の光で洞窟への侵入が可能になるという小技があるのだった。つまり魔術が使えない私にも入れる洞窟なのだ。
このお守り石の役割は明かりだけではなく、魔物除けでもある。
洞窟に生息している
しかしこのお守り石を使うと言ったときはクレールにひどく脅された。いわく、長く持っていると火傷するとか、見つめすぎると目が潰れるとか。迷信だと思うけど怖すぎない?
推しを拝めなくなるのは嫌なので、真偽不明でも気をつけますけども……。火傷や失明が本当だとしたらそんな危険物をホイホイ生やすなと言いたい。この場合は誰に言えばいいんだ、ゲーム会社か?
お守り石をお供に洞窟を進んでいく。光るキノコに、ついでに薬草を採集しながら進んでいく。最奥には確率でレア鉱石があるんだ~。売ればまた推し貯金が増えるぜ、へへっ。オレ、貯金を貯め終わったらジャンとダニエルに結婚式と新婚旅行と庭付き戸建て新居をプレゼントするんだ……。
しかしながら洞窟の最奥にレア鉱石はなかった。まあ五パーセントだもんな。次に期待だ。ガチャなら星一のたいして鉱石をゲットして闇の中を歩いて帰ってるわけだけれども、アレだな。オバケ屋敷を思い出しちゃうな。いきなり人形やら爆音で驚かせにこないだけ安全なわけだけど。
だから怖くない、怖くない。ぜーんぜん怖くな……「ギィ……」ンギャー――?! 暗闇で予想もしてないか細い声を出すなァー――!!? ビックリしただろうがー――――!!!!!?
お守り石をかざして周辺をうかがえば通路の隅っこに猫か子犬くらいの大きさの芋虫がいた。なぜ逃げないのかとよくよく見てみれば体を鋭利な刃物で切り裂かれたらしい芋虫は、カサコソギィギィと小さな音を立てて逃げようとはしていた。暗所に生息する生物らしく体が透けていて、傷口からこぼれている体液も透明だった。巡回の騎士に切られてしまったのだろう。かわいそうに。
かわいそうだったが、貰えるものは貰っておこう。魔物の体内には換金アイテムの魔石があるのだ。塵も積もれば山となる。推し貯金も一円いや、一ティノから! 小金でもきっちり回収しないとね。
そのへんに落ちてた枝でぐりぐり芋虫の体をいじくりまわして魔石を探す私の姿は、とてもじゃないけど人様には見せられないよ! な
無事に魔石をゲットした私は妙なことに気づいた。ぬちゃついていた芋虫の体液がいつの間にやら固まっていたのだ。
「という訳で疑問を解消するべく持ち帰ってみました!」
固まった芋虫を持ち帰った私にクレールは眉間を抑え、夕飯を食べにきていた情報屋は両手で顔を覆っていた。ダニエルはというと、虫が苦手なようで柱の影に隠れている。虫に怯える姿もかわいいね、ダニエル。
「オディル君は虫が平気な子なんだね……」
「田舎出身なのでっ!」
「お前、全田舎出身者を敵に回すぞ……」
そうかもしれない。同じく田舎出身者であろうダニエルは隠れてるもんな。
「それで、芋虫の体液が硬化した原因はなんだと思います? 気になっちゃって、気になっちゃって。死ぬと硬化するわけじゃないんですよね? 魔石を取ったから固まっちゃったんでしょうか」
「うーん……」
「そんな話は聞かねえけどな……」
「なんでもいいからさっさと捨ててこいよ……」
涙目のダニエル、かわいいな……。調査と銘打って定期的に昆虫採集でもしようかな……。
「おいっ、聞いてんのかオディル!」
「ハイ、聞いてます。とりあえず
その
元気な推しは体に良いな。
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