第7話:情報屋
クレールのメモは分かりやすかった。ゲームをやり込んでいたおかげもあり、道や場所の名前を人に聞くだけで目的地に着けた。目的地は王都近くの森で、指定された薬草を採取していく。森に行く前に人買いにジャンを買った貴族について聞きに行ったけれど、有用な情報はさっぱり得られなかった。苗字くらい聞いておけよ、どうしよう。
クレールが
なんとはなしに怖くなって、陽も傾いてきたし帰ることにした。ちょっぴり余裕のある懐を使ってダニエルの元気が出そうなお土産でも買って帰ろうと露店を見ながら歩いていると、なんだか見覚えのある靴を路地の隙間に見つけたので覗いてみた。
人だ。人が路地の隙間に座り込んでいる。帽子を目深に被っているその人物の顔は見えないのに、やっぱりどこか見覚えがあって、私は声をかけてみた。
「お……にーさん、生きてる?」
「今おじさんて言いかけた?」
「ソンナコトナイヨ」
ちょっとナイーヴなお年頃だったらしい。ごめんて。
お兄さんはすぐに腹を押さえてその場に縮こまった。ちいさく唸っている。
「お腹が痛いの? 変なものでも食べた?」
「いや……そんな変なものは……闘う子牛亭の日替わり定食を食っただけで……」
原因はそれですね。ゲームでも散々お世話になったわー。
闘う子牛亭の日替わりは超安い代わりに低確率で状態異常・毒になるのだ。ゲーム序盤は所持金が少ないので体力回復手段として日替わりを買う。体力が減ったら使用して回復。毒状態になっても主人公は解毒魔術が使えるから問題ない。
残念ながらこのお兄さんは解毒ができないようだ。ちなみに、日替わり定食の毒は一定距離を移動でも消えるが、消えるころには回復した体力がマイナスになってしまうので早く消したほうがいい。
「そっか~、闘う子牛亭の日替わりか~。この草をよく噛んで食べてみて」
「お、おう……」
取り過ぎた毒消し草を渡す。本当なら磨り潰して毒消し薬にしたほうが効き目はあるんだろうけど。しばらく毒消し草を咀嚼していたお兄さんの顔色は少しずつ良くなっていった。
「お、おお……? 腹痛が、軽くなった……?」
「毒消し草だからね」
「礼を言うぜ、坊主。けどな、子どもがこんな路地裏にいる人間にホイホイ声を掛けないほうがいいぜ」
軽口を叩けるくらいには回復したようだ。よかったよかった。
「わかった。次にお兄さんが倒れてても声は掛けないように気をつけるね」
「いや、それは別というか……。俺には声をかけてくれていいぞ?」
また倒れる予定があるんかい。金があるならちゃんとしたメニューを頼みな?
「毒消し草は応急処置だから、しっかり治したいならヴァランシ・ファーマシーに解毒薬があるからぜひ寄ってね! 私はそこで従業員をやってるんです」
「え゛。……あ、ごめん?」
「もう行きつけがあるんですか?」
「そっちじゃなくて……あー、いやその、あの店は魔女の店だろ? 行ったら何されるか怖くて行けないんだ」
「へぇ。私は今日クレールさんに人買いから買ってもらったばかりですけど、クレールさんはやさしい人ですよ。この服も買ってくれたし、部屋も用意してくれたし、ご飯もくれました」
「今日、か……。化けたな」
「化けた?」
私は生粋の人間ですが?
「俺は情報屋をやっててな。魔女が奴隷を二人も買ったのは食うため、とか実験台にするため、とか思ってたんだが」
それを聞いた私は初対面の人を相手に思い切り大口を開けて笑ってしまった。失礼!
「クレールさんが私を買ってくれたのは、私が薬草探しが得意だからで、もう一人の子ども――ダニエルを置いてもらえるように頼みはしましたけど、買ったのは私ですよ。安かったし、ちょっと小金を持ってたので」
あんなお人好しで可愛いもの好き設定されている人が、子どもを食べるとか実験台にするとかナイナイ!
「おもしろい話を聞かせてくれてありがとうございました。良く効く薬が欲しいときはどうぞ『ヴァランシ・ファーマシー』へ! 最高の薬師が作った薬がありますよ」
目尻に滲んだ涙をぬぐいながら私はお兄さんに手を振った。
「待ってくれ、お礼を」
「いいんですかありがとうございます!」
したいんだが、に被せて早口でまくしたてる私に気圧されたように
「実は折り入ってお願いがありまして。私が払える範囲の報酬はきっちりお支払いしますので!」
「お、おう……?」
私は情報屋にジャンの行先を調べてくれるよう頼んだ。可能なら連絡を取れるようにしてほしい、とも。クレールが子どもを買ったことを知ってるならジャンの行先くらい朝飯前だろ!
「お店でオマケしてくれるようにクレールさんに頼んでみますし、お願いします!
「わ、わかった。やってやるから落ち着け」
「ありがとうございます!!」
力強くガッツポーズを決めた私を珍妙な生物を見るかのごとく情報屋は私を見ていた。見世物じゃねーぞ!
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