0015

 四大将軍の1人であるカール・ヴァンガード。

 10年前の彼は帝国兵ではなく、悪名高い宙賊のリーダーであった。


 カールはヴェルザーク帝国のスラム街で生まれ、その劣悪な環境で育った。

 成長したカールが宙賊になったのは必然だと言えた。


 カールは並外れた操縦センスがあり、すぐに宙賊として頭角を現す。


 そんなカールを慕う部下は多く、彼はいつの間にか宙賊のリーダーとなった。

 カールに勝てる者はおらず、どんどん組織は大きくなっていった。


 カールに転機が訪れたのは後の四大将軍であるレヴィン・レイカスとの戦いだ。

 この時カールはレヴィンと戦い初めて敗北を経験した。

 しかも手も足も出ない程の圧倒的な敗北であった。


 自らの死を覚悟したカールは何故か自然と笑みを浮かんでいた。


 レヴィンはカールの顔が見えていたわけではない。

 だが、他の者とは違う雰囲気を感じて通信を行った。


『お前からは死への恐怖も俺への殺意も感じない。何故だ?』


「俺より強い奴に初めて会った。あんたの強さに感動した。嬉しいんだよ」


 カールの返答に対して、レヴィンは興味を抱いた。


『面白い男だな。死を前にした今の状況で、お前は何を望む?』


「出来るのなら、あんたとの再戦だ。俺はまだ強くなれると感じたからな」


『そうか。なら投降して帝国軍に入れ』


 カールは素直に投降した。

 勿論、仲間の死に対する葛藤はあった。

 だが初めて感じた自分の成長への渇望には抗えなかった。


 こうしてカールは帝国軍に加わった。


 カールは戦場で経験を積む事で大きく成長した。

 カールもその成長を感じており、レヴィンに折られた自信は取り戻していた。


 ある日、カールはレヴィンに再戦を申し込んだ。

 今の自分ならレヴィンに勝てるとカールは考えたからだ。

 だがレヴィンはそれを断った。


 カールにとってレヴィンの答えは予想外だった。

 そんなカールの心を見透かしたようにレヴィンが言葉を続けた。


「まだ早い。もう一度自分を見つめ直せ。お前はまだ強くなれるはずだ」


 その言葉をカールは信じる事にした。

 不思議とその言葉が腑に落ちたからだ。


 それから数ヵ月が過ぎた頃に二度目の転機がカールに訪れる。


 ヴェルザーク帝国が他国と戦争をしていた時の事だ。

 その時のカールは軍を率いていた。


 しかし、敵の策略に嵌まり、カールを除く全ての兵士が死んでしまう。

 カールも多くの敵に囲まれて絶体絶命の状況に陥っていた。


「まさか……またこんな事になるなんて」


 カールは過去を思い出していた。

 レヴィンに自分の宙賊団を壊滅させられた事を。


「俺はまた全て失った。俺は何でこんなに弱いんだ……」


 カールは全てを失った悲しみと自分の無力さへの怒りで涙を流した。


「うおおおおおおお!!!」


 カールは悲痛な叫びをあげた。

 この時の悲しみと怒りがカールを覚醒させた。


 カールはたった1機で全ての敵を殲滅した。

 それは普通では考えられない戦果であった。


 コンバットフレームには脳波に反応して操縦を補正する機能がある。

 それが影響したのか、カールの動きは今までと明らかに違っていた。


 この戦いの後にカールは帝国の悪魔と呼ばれるようになる。

 そして、その後に帝国の強さの象徴である四大将軍に任命されたのだった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ジェラード皇国とヴェルザーク帝国の戦闘は既に始まっていた。

 遠くで火線と爆発の光が見えている。


『ジェラード皇国を助けます。コンバットフレーム隊は出撃してください』


 セレン王女からの指示で次々とコンバットフレームが出撃していく。


 反乱軍はエリュシオン、アルカディア、烈火の翼の小型戦艦の3隻のみ。

 しかし、搭載している機体は反乱軍でも屈指の性能を誇っている物が多い。

 だから数の少なさは質でカバー出来るのだ。


「アカツキ・ヒカル。舞姫七式出る」


 俺もエリュシオンから出撃した。


『あれがラグナロクかい。大きいねぇ。私の艦が小舟みたいに思えるよ』


 通信でリオンの軽口が聞こえた。

 確かにラグナロクは大きい。

 距離が離れていても肉眼ではっきり見えるくらいのサイズだ。

 周りに護衛として張り付いている宇宙戦艦が小さく見えるな。


『今回に限ってはラグナロクが破壊兵器を撃つ事は無い。そんな事をすれば味方も巻き込む事になりかねないからな。帝国も馬鹿じゃないだろう』


 アーレンの言葉を聞いて俺は納得した。

 アーレンの言う通り、この戦いでラグナロクの破壊兵器は使われないはずだ。


『帝国の通信を傍受した。この戦いには四大将軍がいるらしい』


『ノア。それって姉さんだったりする?』


『……いや、どうやら戦場にいるのは帝国の悪魔のようだ』


『……そう』


 フィナは短く返事をした。

 それは残念そうにも聞こえたし、ホッとしたようにも聞こえた。


『帝国の悪魔がこの戦場にいるのか……』


 アーレンの呟きを俺は聞き逃さなかった。


「アーレンどうしたんだ? 帝国の悪魔に何か因縁でもあるのか?」


『俺は……いや、なんでもない』


 アーレンにしては歯切れの悪い言葉であった。

 それに疑念を覚えるが、そのことについて追及する暇は無い。


『帝国の悪魔は皇国軍では抑えられない。奴には俺とアカツキで対応する』


「……とうとう四大将軍と戦うのか。それだけは避けたかったんだがな」


『泣き言とはらしくないじゃないか。アカツキなら四大将軍にも勝てるさ』


「だといいがな」


 俺はノア皇子と共に先行して帝国軍に攻撃をしながら帝国の悪魔を探す。


 帝国の悪魔はすぐに見つかった。

 戦場の真ん中で派手に戦っていれば目立つからな。


 帝国の悪魔は真っ赤なコンバットフレームに乗っている。

 あれこそFFOで猛威を振るったヴェルザーク帝国のソードシリーズの1機。

 名前をソードオブファイアという。


『この程度では物足りんな。俺の糧になる相手はいないのか?』


 ソードオブファイアからの通信だ。

 どうやら帝国の悪魔はわざわざ敵を煽っているようだな。


 だが、皇国軍にはソードオブファイアと戦う気概のある者はもういないらしい。

 遠巻きにソードオブファイアを囲んでいるだけだ。


「いくぞ。死ぬなよ、ノア」


『お互い生きて戻ろう』


 俺はノア皇子と短いやり取りをしてから攻撃を開始した。


 舞姫七式がTYPE-BRαをフルチャージで撃つ。


 背後からの攻撃だったにも関わらず帝国の悪魔は避けた。


 ソードオブファイアの両目が俺達を捉える。

 その瞬間、以前に戦った宇宙怪獣のスペースレッドと似た威圧感を感じた。


『女型のコンバットフレーム! 反乱軍のジェノサイドか! お前とは一度戦ってみたいと思っていたぞ!』


 帝国の悪魔が威勢よく声を張り上げながら迫ってくる。


 緊張が走り、嫌な汗が流れる。

 ずっと避けてきた四大将軍と対峙しているのだから当然か。


 俺はTYPE-BRαを連射するが、ソードオブファイアは軽々と避ける。

 ソードオブファイアの握った実体剣がギラリと嫌な光を放つ。

 次の瞬間にはソードオブファイアは目の前にいた。


「武装転送! TYPE-BS!」


 俺は咄嗟にTYPE-BSを呼び出して構える。

 間一髪でソードオブファイアの斬撃を受け止めることが出来た。


 横からレゾスアキュラがビームライフルで俺を援護する。

 レゾスアキュラのビームをソードオブファイアは避ける為に一旦俺と距離をとった。


 FFOではボスに湾曲フィールドのようなバリアーは装備されていなかった。

 バリアー系の装備は一部を除いてプレイヤー専用なのだ。


 その代わりボスには高い防御力と耐久力が与えられている。

 ソードオブファイアが攻撃を避けたのは少しでもダメージを負うのを嫌った為だ。

 余計なダメージを避けるというのはFFOでもボスの基本行動の1つだった。


 ソードオブファイアはビームライフルで反撃してきた。


 俺とノア皇子はその攻撃をなんとか凌ぐ。


 ソードオブファイアはどちらかというと格闘戦の得意な機体だ。

 だからソードオブファイアが突撃してきても平気なように身構えておく。


 暫くの間、ソードオブファイアとの射撃戦を行う。

 今のところどちらにもダメージは無いが、いつ均衡が崩れてもおかしくはない。


 そんな戦いを続けていると俺達の後ろから援護射撃が飛んできた。


『待たせたわね』


『こいつが四大将軍か。腕が鳴るな』


『そうかい? 俺はいますぐでも逃げたい気分だよ』


『フィナ様。相手は四大将軍です。無理はしないでください』


『……間違いない。あいつだ』


 後ろを振り返る余裕はないが、どうやらフィナ達がやってきたようだ。


『ふん、雑魚が増えたか。ジェノサイドとの戦いを邪魔するなら容赦せんぞ』


 ソードオブファイアはフィナ達を邪魔に思っているようだ。

 数が増えて面倒だと考えているのかもしれない。


『各機はアカツキを援護するんだ。俺達で帝国の悪魔を倒すぞ』


 ノア皇子の指示を聞いた俺達はそれぞれが返事をする。

 だが、アーレンだけは無言だった。


『アーレン? どうしたんだ?』


『……こいつは俺がやる。全員、手は出すな』


 アーレンの言葉に俺達は驚いた。

 帝国の悪魔に対抗するには全員で戦う必要がある。

 それを分からないアーレンじゃないはずだ。


『アーレン落ち着け。ここは全員で戦う必要があるぞ』


『こいつは祖国を滅ぼした元凶だ。こいつだけは許せない……!』


 ノア皇子の言葉を一蹴してアーレンは帝国の悪魔に敵意を向ける。


『帝国の悪魔……いや、カール・ヴァンガードは俺が倒す!』


 アーレンのアークシュダルツがソードオブファイアに攻撃を始めた。


「無茶だ! 1人で勝てる相手じゃない!」


『アカツキの言う通りだ。各機はセイバーの援護をするんだ』


 ノアの指示で俺達はフォーメーションを組んだ。

 そしてソードオブファイアに攻撃を仕掛ける。


 無理矢理な突撃をするアーレンがやられないように俺達は援護に徹した。

 これでソードオブファイアは回避を選択する事が増えて攻撃回数が減った。

 だが、いつ相手が攻撃に転じるか分からない以上、油断は禁物だ。


『反乱軍のセイバーか。お前も反乱軍の中じゃ強いらしいな』


『カール・ヴァンガード!』


『俺に恨みを持つ者か。悪くないな』


『お前だけはこの手で倒す!』


 アーレンの攻撃が激しさを増す。

 だが、ソードオブファイアは苦も無くアーレンの攻撃を捌いていった。


『お前は残しておくか。まずは邪魔な奴から片付ける』


 そう言うとソードオブファイアは背中のミサイルポッドからミサイルを発射した。

 そのミサイルはバウルとマルクスに向かって飛んでいく。


『こっちを狙ってきやがったか!』


『だけどこんな攻撃じゃやられないよ!』


 バウルとマルクスはビームライフルでミサイルを迎撃した。

 それはAランク冒険者に相応しい腕前だった。


『2人ともそれは罠だ! 逃げろ!』


 ノア皇子はそう叫んだがもう遅かった。

 ソードオブファイアの量肩の装甲が開くとそこから極大のビームが撃ち出された。


 ミサイルの迎撃に気を取られていたバウルとマルクスはこの攻撃を躱せなかった。

 2人のコンバットフレームは閃光の中に消えていく。


『そんな……マルクスとバウルが』


 フィナの悲痛な声が聞こえた。


 今まで一緒に戦ってきた烈火の翼の2人が戦死した。


 その事実は俺の心を酷く揺さ振ったのだった。










 捕捉


 ソードオブファイアの見た目

 ○装機神の○ランヴェールをイメージしてください

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