0014

 戦闘は俺達の劣勢だった。

 俺と舞姫七式だけなら何の問題も無いが、今回は周りに味方がいる。

 味方を庇いながらの戦闘はなかなか厳しいものがある。


 俺はTYPE-GGを収納して代わりにTYPE-BRαを呼び出す。

 舞姫七式はTYPE-BRαを連射して敵機を撃ち落としていく。

 だが、敵はどんどん追加されている。

 このままでは俺以外が数で押し潰されてしまう。


「ノア。このままじゃ不味いぞ。何か手はないのか?」


『少しだけ時間をくれ。ドックの発進口にアクセスしてみる』


『急いでよね! こっちは面倒な相手が3機もいるんだから!』


 フィナが言うように帝国軍には手強いコンバットフレームがいる。

 それは赤い3機のコンバットフレームだった。

 赤い3機は体中に棘を生やしているかのような外見の機体だ。

 あれはFFOではガイノルンズと呼ばれていたな。


 ガイノルンズはどういうわけか舞姫七式を優先して狙ってくる。

 俺としては味方を狙われるよりはマシだが、どうして俺を狙ってくるんだ?

 味方の援護の邪魔なんだがな。


『聞こえるか。ジェノサイドのパイロット』


「ん?」


 戦闘をしていると敵から通信が入った。

 どうやらガイノルンズからの通信みたいだ。


『貴様を倒す為に私達は自らを強化した。あの時のようにはいかんぞ』


 そう言うのは30代くらいの男だった。

 その顔には見覚えが無い。

 ゲームでこんなNPCがいただろうか?

 有名なNPCの顔は覚えているつもりなんだがな。


「張り切っているようだが、俺には勝てないぞ」


『あの時のようにはいかないといったはずだ!』


 ガイノルンズの1機がビームランチャーを撃つ。

 それを俺は舞姫七式を横に滑らせるように回避する。


 それに合わせるように別のガイノルンズがミサイルランチャーを発射した。

 舞姫七式に迫り来るミサイル。

 しかし、俺の舞姫七式にはミサイルの誘導を妨害するハイパージャマーがある。

 故に相手のミサイルは全てあらぬ方向に飛んでいった。


 俺はミサイルランチャーを撃ったガイノルンズに照準を合わせようとした。

 だが、ビームマシンガンを装備したガイノルンズが邪魔をする。


 3機のガイノルンズはかなり動きが良い。

 帝国の死神と呼ばれるジェイド並とは言わないが手練れだな。


 さて、こいつらをどうにかしないと味方の援護が出来ない。

 俺がどうするか悩んでいるとドックの発進口が開いていくのが見えた。


 どうやらノア皇子が上手くやったようだ。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ローズ内にある巨大ドックの発進口が開き出した。

 それは巨大戦艦ラグナロクの為のものであった。


「どうして発進口が開いているの! すぐに止めさせなさい!」


「何者かにシステムをハッキングされています。こちらからの操作を受け付けません」


 慌てるクレアに対して、部下が報告する。


「まさか……ノアの仕業?」


「その可能性は高いかと。ノア皇子は秀でた能力をお持ちなので」


「ノア達は逃げるつもりなの?」


「それが反乱軍の最善策でしょう。侵入時に脱出経路を用意するのは定石です。恐らくこれは事前に考えられていた作戦なのかもしれません」


「くっ……それくらい分かってるわよ!」


 クレアはノア皇子にしてやられた事で怒り心頭であった。


 そうしてクレアが怒っている間に、開いた発進口から反乱軍のコンバットフレームが宇宙空間に脱出していくのであった。


「追いなさい! ノア達を逃すわけにはいかないわ!」


 クレアの命令で反乱軍を追いかけるように帝国軍も宇宙に飛び出した。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ローズから脱出した俺達はセレン王女達と合流すべく移動していた。


 外にも帝国軍が待ち構えていたが、舞姫七式とレゾスアキュラを先頭に突撃する事でなんとか振り切った。


『エリュシオンに合流出来ればなんとかなるぞ! それまでは頑張れ!』


『言われなくても頑張るわよ!』


『フィナ様は前に出過ぎないでください! 危険ですから!』


『ゼフィス! 私は別に前に出過ぎてなんかないわ!』


 ノア皇子の言葉にフィナが反応する。

 そんなフィナに注意するゼフィスであった。


「3機の赤いコンバットフレームは追いかけてきていない。これなら大丈夫だろう」


 俺はそう言いながらレーダーを確認する。

 反乱軍の援軍が近付いていないか見ているのだ。


『アカツキ。油断は禁物よ』


「これは油断じゃなくて余裕だ。変に気を張り詰めすぎるとよくないからな」


『あーもう! アカツキはああ言えばこう言うわね!』


 フィナの怒り顔を見ながら、俺はレーダーに援軍の姿を見た。


「どうやらもう安心していいようだ。援軍だぞ」


 ズーム機能で見ればアークシュダルツを先頭に20機の機体が見えた。


『よくここまで逃げ切った。後は任せろ』


「いや、俺も戦うぞ。アーレン達だけじゃ危なっかしいからな」


『ふん、可愛げの無い奴だ』


「そんなものは持ち合わせていない」


 俺達は援軍と合流すると反転して追撃してくる帝国軍と向き合った。


『反撃開始だ! 迎え撃つぞ!』


 ノア皇子の号令で追撃してくる帝国軍に対し反撃を開始した。


 戦闘はアーレン達が加わった事で俺達が優勢になった。

 数では勝る帝国軍だったが、それは圧倒的な有利を生み出すことはなかった。


 俺の舞姫七式。

 フィナの強化されたラナンキュラス。

 ノア皇子のレゾスアキュラ。

 アーレンのアークシュダルツ。


 4機の力を結集すれば、ある程度の数など容易に押し返せるのだ。


 俺達の猛攻に帝国軍は耐え切れず撤退していった。


 こうして俺達はヴェルザーク帝国の罠をどうにか耐え抜いたのだった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 反乱軍を罠に嵌めておきながら逃げられた。

 これはクレアを怒らせるには充分な出来事であった。


 クレアは怒りの矛先をザクスに向けた。

 というのも追撃しようとしたクレアを止めたのがザクスであった為だ。


「ザクス! 何で私を止めたのよ!」


「クレア様が追撃に加わるのは危険だと判断しました。いざという時の判断はジーク様から任されていましたので」


「あなた達が追撃に向かっていればノアに逃げられる事もなかったのに!」


「私達はクレア様を守るように命じられていました。命令に順じただけです」


「命令を鵜呑みにするなんて馬鹿のする事よ! もっと柔軟に動きなさいよ!」


「ジーク様はクレア様を心配されていたのです。どうかご理解いただきたい」


「……納得できないわ!」


 クレアはザクスを睨み付けてから去っていった。

 クレアの後ろ姿を見送りながらザクスはため息を吐くのであった。


「もう、何なのよあの人! 隊長を責める事ないじゃない!」


 ザクスの後ろで控えていたエリーナが文句を言った。


「クレア様は性格きついよね。姉さんみたいだ」


「ちょっとクリス! それどういう意味よ!」


 クリスの言葉にエリーナは即座に反応する。

 クリスは困った顔をしながらエリーナを宥める。


「今回は勝たなければいけない戦いだった。本当なら罠にかかった獲物を仕留めるだけの予定だったのだからな。それが出来なかったのは……やはり奴の存在か」


 ザクスの言葉を聞いたエリーナは大人しくなる。

 それにホッとするクリス。


「ジェノサイド。奴は私達を抑えながら他の味方を撃ち落としていた。私達はまだ奴を追い詰めるだけの力を持っていないという事だろう。このままでは駄目だな」


「隊長……」


 ザクスは自身の更なる強化と機体のカスタムを行う事を考え始めるのだった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 帝国の罠から逃れてから3日が経った。


 ローズを後にした俺達は巨大戦艦ラグナロクの行方を捜している最中だ。


 ラグナロクの目撃情報は今のところ無い。

 ラグナロクは恐らく空間跳躍で移動しているのだろう。


 このまま闇雲に探していても発見するのは難しい。

 なので俺達はラグナロクの出現するだろう場所を予想する事にした。


「ラグナロクはペルシウス公国かジェラード皇国のどちらかを攻めるはずだ」


 ノア皇子はラグナロクの移動先をペルシウス公国かジェラード皇国だと言う。

 その場にいる俺とフィナとセレン王女はそれに同意した。


「そうですね。破壊兵器を使えば戦局は帝国に大きく傾くでしょう。ならば帝国が2国のどちらかを狙うのは必然かと思います」


「それなら私達はどっちの国に向かえばいいのかしら?」


「戦力の分散は下策だ。向かうならペルシウス公国かジェラード皇国のどちらかにした方がいいだろうな。アカツキはどっちに向かうべきだと思う?」


 ノア皇子が俺にどちらの国に向かうべきか聞いてきた。


 なんとなくだが、これは重大な決断になるような気がする。

 俺はゆっくり考えてから口を開いた。


「そうだな……俺はジェラード皇国に向かった方がいいと思う」




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ジェラード皇国の首都エルシアのある惑星ジェラード。

 エルシアの中央に存在する皇城にて皇王アルス・ジェラードは静かに怒っていた。

 というのもヴェルザーク帝国が理不尽な要求をしてきた為だ。


 ヴェルザーク帝国はジェラード皇国に無条件降伏を要求した。

 そのような要求をジェラード皇国が飲めるはずもない。

 すぐに両国が戦争状態に突入したのは当然の帰結であった。


 この戦いには四大将軍の1人であるカール・ヴァンガードが参戦。

 帝国軍は四大将軍を主軸に攻撃を開始した。


 それに対抗すべく皇国軍は新型のコンバットフレームを繰り出した。

 皇国軍は数で四大将軍を抑える作戦であった。


「降伏しないなら惑星ジェラードを滅ぼすだと? 気に食わないな」


 皇城の作戦司令部でアルス皇王は眉を顰めた。


「しかし皇王様。あの巨大戦艦は警戒すべきです」


「分かっている。反乱軍からの報告にあった新兵器だな」


「反乱軍の情報通りであれば、これは憂慮すべき事態です。惑星を破壊する兵器など止める手立てがありませぬ」


「落ち着け。惑星を破壊出来る威力が新兵器であろうと有効射程に入らなければ意味はあるまい。巨大戦艦は絶対に惑星ジェラードに近付けるな。それよりも我が軍の動きはどうなっている?」


「現在、帝国軍の前衛と戦闘を開始したとの事です」


「出し惜しみはするな。ここで帝国に借りを返すのだ」


 こうして両国の戦争は、徐々に激化していくのであった。

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