0013

「帝国が全てを滅ぼす破壊兵器を搭載した巨大戦艦を建造しているようです」


 セレン王女は俺、フィナ、ノア皇子を集めてそう言った。


「そんな情報どこから入手したんだ?」


「我々の諜報部隊が犠牲を出しながら得た情報です」


 俺の質問にセレン王女は答えた。


「帝国がオリハルコンを集めている理由は、この巨大戦艦を作る為です」


「なるほど……オリハルコンで作った鉄壁の宇宙戦艦か。厄介だな」


 FFOではヴェルザーク帝国はオリハルコンを熱心に集めているという設定だった。

 しかし、どうしてオリハルコンを集めているのかは分からなかった。

 恐らくまだ実装されていないシナリオで明かされる予定だったのだろう。


「アカツキ。これは真面目な話なのです。冗談は止めてください」


「え?」


「巨大戦艦を作れるだけのオリハルコンは、全宇宙から集めても足りませんよ」


「そうなのか?」


「もう、アカツキはお馬鹿さんですね」


 俺に遠慮なく言うセレン王女。

 俺とセレン王女の間に余計な垣根はもう存在しない。

 俺はセレン王女と友人のように接していた。


「アカツキの事は無視していいわよ。セレンは話を進めてちょうだい」


「そうしましょう」


 フィナの厳しい発言にセレン王女は同意する。


 フィナとセレン王女は数ヵ月の間に仲良くなった。

 時々2人で俺の事を話しているが、俺は気にしないようにしている。

 女性同士の会話に入り込むのは避けたいのだ。


「アカツキは純真なところがあるからな。セレンもフィナもあまりいじめてやるな」


 ノア皇子のフォローが入ったところで、セレン王女は咳払いして話を進める。


「巨大戦艦には縮退炉という非常に強力なエンジンを搭載しているそうです。このエンジンから得られる膨大なエネルギーで破壊兵器を発動させるのでしょう」


「縮退炉か。帝国がずっと研究していたものだが遂に完成したのか」


 ノア皇子は巨大戦艦のエンジンについて知っていたようだ。

 まあ、ヴェルザーク帝国の皇子なんだし、知っていても不思議じゃないか。


「縮退炉の完成にはオリハルコンが必要だったようです。縮退炉をオリハルコンで作る事で耐久性の問題をクリアしたのではないでしょうか」


「不滅の金属であるオリハルコンが不可能を可能にしたんだな」


 俺が納得しているとフィナが身を乗り出してきた。


「エンジンが何なのかはどうでもいいわ。それよりも破壊兵器よ。どのくらい危険な代物か分かっているの?」


「情報によれば惑星を吹き飛ばす破壊力を有しているそうです」


「そんな……それが本当なら危険すぎるわ」


「はい。まさに悪魔の兵器と言えるでしょう」


 情報通りならそれはとんでもない大量殺戮兵器になり得る。

 惑星を破壊してしまう攻撃など防ぎようがない。


「確か帝国がオリハルコンを集めている理由が分かればジェラード皇国は対帝国連合同盟に参加するはずだったな。今から打診に行くのか?」


 俺がセレン王女に尋ねると、セレン王女は残念そうに首を横に振った。


「巨大戦艦の完成は目前との事です。残念ですがジェラード皇国に同盟参加を要請している暇はありません。私達だけでなんとかする必要があります」


「巨大戦艦の破壊か。苦労しそうだな」


「私はアカツキとノア皇子がいれば成し遂げられると信じています。苦難の道となるでしょうが頑張りましょう」


「ちょっと私を忘れないでよね」


「うふふ。勿論、フィナも一緒に頑張りましょう」


 こうして俺達はヴェルザーク帝国の巨大戦艦を破壊する事にしたのだった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ヴェルザーク帝国の支配宙域にある1つのコロニーに俺達は潜入している。

 潜入メンバーは俺、フィナ、ノア皇子、ゼフィス、マルクス、バウルの6人だ。

 セレン王女とアーレン、それにリオンはコロニーの近くで待機している。


 コロニーの名前はローズ。

 このコロニー内で巨大戦艦は建造されているらしい。


 ローズはヴェルザーク帝国の皇帝ルシウス・ヴェルザークが直々に命令を下して作らせたコロニーで、皇帝が信頼を寄せる賢人であり、皇帝の懐刀とも呼ばれるジーク・ローズが管理している。


 ローズでは研究機関が数多く立ち並び、日々新技術の開発を行っている。


「不思議なコロニーだ。ロストナンバーじゃない機体なら誰でも入れるなんてな」


「そうは言っても私達の機体は輸送船で運び入れる必要があったけどね」


「ステルスバリアーがこんなところで役に立つとはな」


 俺の舞姫七式にはステルスバリアーというステルス行動を可能とする装備がある。


 今回は輸送船の格納庫内にある機体をステルスバリアーで包んだ。

 これによって輸送船はコンバットフレームを積んでいないと相手に誤認識させた。


 俺の舞姫七式のおかげで堂々と隠れている事が出来ているわけだな。


「いつまで俺達は隠れてなきゃいけないんだ?」


「あんまりリーダーを待たせるとあの人コロニーに突入してくるぞ」


 バウルとマルクスが愚痴を零す。

 そんな2人にノア皇子が口を開いた。


「悪いが作戦は延期だ。今ここに四大将軍のミレイ・クリスティンがいるからな」


「姉さんが?」


 ノア皇子の言葉を聞いてフィナの顔色が変わった。


「フィナも思うところはあるだろうが、ここは我慢してくれ。情報によるとミレイは明日にはこのコロニーを出るらしい。それまでは待つしかないな」


 俺達の作戦は急務である。

 しかし、四大将軍の脅威が消えるのなら多少の延期は仕方ない事であった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ローズの領主であるジーク・ローズ公爵の城の一室。

 そこには3人の人物がいた。


「全て順調のようだな」


 口を開いたのはジーク・ローズ公爵だった。


「はい。お父様の計画通り、近い内に反乱軍が攻めてくることでしょう」


 それに答えるのは若い女だ。

 彼女の名前はクレア・ローズ。

 ジーク公爵の娘である。


「ここまでは予定通りだ。クレアも勝手な行動はするな。私の命令は絶対だぞ」


「分かっています。ですが、ノアだけは私の手で殺しますわ」


「その事に関しては好きにしろ」


 ジーク公爵はやれやれといった顔をすると横にいる男の方を見た。


「ザクス。娘を頼むぞ」


「了解しました。ルード隊が責任を持ってお守りします」


 ジーク公爵の側近であるザクス・ルードはそう言った。


 反乱軍の動きは全て見抜かれていた。

 そして、今も反乱軍はジーク公爵の思惑の中で動いていたのだった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ローズの周辺宙域で待機している宇宙戦艦エリュシオン。

 その艦長席に座っているセレン王女は部下の報告に驚愕していた。


「帝国の巨大戦艦はもう完成していてローズを出港している? なら私達が手に入れた情報は欺瞞情報だったというの?」


 驚くセレン王女であったが、すぐに1つの結論に達した。

 それはアカツキ達が罠に嵌められたという事だ。


「これは罠です! 急いで実行部隊に知らせないと!」


 慌てるセレン王女にアーレンは非情な事実を告げた。


「現在、ローズ周辺に強力な妨害電波が発信されています。それにローズの周りに敵部隊の展開も確認出来ました。帝国はこちらの行動を掴んでいるのでしょう」


「そんな……私達には何も出来ないの?」


「アカツキ達を信じて待ちましょう。必ず全員で戻ってくるはずです」


「……そうですね。私達はアカツキ達が戻ってきた時に備えましょう」


 セレンは祈るしか出来ない自分を歯痒く感じていた。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 四大将軍のミレイ・クリスティンがローズを去ったとの報告を聞いた俺達は、夜の時間帯に作戦を実行する事にした。


 目標の巨大戦艦はコロニー内部の専用ドックで建造されている。

 ほぼ完成しているらしいので破壊は普通なら困難だろう。

 しかし俺の舞姫七式のTYPE-GGとTYPE-Mの飽和攻撃ならそれも可能だ。


 俺以外の各機は援護に徹する事になっている。

 俺は巨大戦艦の破壊に専念出来るというわけだ。


 俺達は輸送船を飛び出して、宇宙港からコロニー内に侵入した。

 俺達の奇襲とも言える行動に帝国軍は対応しきれていないようだ。

 コロニー内部へは呆気なく侵入出来た。


 ズーム機能で確認するとドックには巨大戦艦が見えた。


『よし、巨大戦艦を視認した。頼むぞアカツキ』


「了解だ。武装転送。TYPE-GG」


 俺はTYPE-GGを呼び出して巨大戦艦に向けて放つ。


 FFOでは圧倒的な攻撃力を誇っていたTYPE-GGだ。

 巨大戦艦の装甲だろうとTYPE-GGなら容易に貫通する――はずだった。


『馬鹿な!? 立体映像だと!?』


 ノア皇子が叫んだ。

 俺の攻撃は巨大戦艦に当たらず、ドックを傷付けるだけだった。

 その際に巨大戦艦がぶれて見えた。

 俺もすぐに確認したが、間違いなくあれは立体映像であった。


『おい! 宇宙港から敵がやってきたぞ!』


『何で巨大戦艦が無いんだ!?』


 マルクスとバウルは明らかに動揺していた。


『アカツキ……どういう事だと思う?』


「……俺達は罠にかかったんだ」


 フィナの疑問に答えていると敵から通信が入った。

 画面に映ったのは若い女だった。


『ノア、久しぶりね』


『クレアか』


『その通りよ。忘れていないようで何よりだわ』


 ノア皇子と若い女が会話を始めた。

 その間に俺達の周りを帝国軍のコンバットフレームが囲んでいく。


「あの女は誰だ?」


『クレア・ローズ。確か、ローズ公爵の娘だったはずよ』


「公爵令嬢か。そんな奴が何でコンバットフレームに乗っているんだ?」


『私に聞かないでよ』


 俺とフィナが会話している最中にもノア皇子とクレアの話は進む。


『ここにあった巨大戦艦はどこに行ったんだ?』


『私がそれを言うと思うの? 巨大戦艦ラグナロクは既に完成しているわ。今頃どこかを悠々と飛んでいるんじゃないかしら?』


『……俺達はジーク先生の作戦にまんまと騙されたわけか』


『相変わらずあなたはお父様にしか興味が無いのね。私の事なんて眼中に無いんでしょうね。だから私はあなたの事が嫌いなのよ。殺したいくらいにね』


『やめておけ。お前じゃ俺達には勝てない』


 ノア皇子がそう言うとクレアの表情は怒りに染まった。


『馬鹿にして……! 私を舐めた事を後悔させてやる! 全機攻撃開始!』


 クレアの命令で帝国軍が攻撃を始めた。


 こうして俺達は戦う事を強いられるのだった。

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