0011

 反乱軍は前線基地を放棄する事にしたようだ。

 帝国軍に発見されてしまった以上、基地に残り続ける事は危険だからな。

 俺も反乱軍の考えには賛成だ。


 前線基地から離れた俺達はまだ発見されていない別の基地に向かった。

 そこで戦力を立て直した反乱軍は前から計画していた作戦を開始した。


 反乱軍の作戦はペルシウス公国とジェラード皇国による侵攻に乗じたものだ。


 作戦の内容はヴェルザーク帝国の首都であるアルバートへの急襲だ。

 その目的は皇帝ルシウス・ヴェルザークの殺害とノア・ヴェルザーク皇子の確保。


 この作戦はFFOでもあった。

 プレイヤーにも内容が無茶苦茶だと文句の出た作戦だ。

 普通に考えれば敵の本拠地に殴り込んで敵大将を討ち取るなどあり得ない。


 一応、反皇帝の派閥が手引きしてくれるらしいが成功の確率は低いだろう。

 FFOでは作戦は失敗してプレイヤーが殿をするという内容だったからな。


 このままでは反乱軍は大打撃を受けるだろう。

 そうなる前に作戦を中止出来ないだろうか?


 俺はセレン王女に作戦中止を反乱軍のリーダーに提案してほしいと頼んだ。

 しかし、セレン王女は首を横に振った。


「私も今回の作戦には疑念を抱いています。しかし、反乱軍は今日の作戦の為に多大な犠牲を出しているのです。作戦の中止は難しいでしょう」


 セレン王女はそう言った。


「大きな組織ほど一度走り出したら止まれないか」


 俺は深いため息をつくしかなかった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ペルシウス公国とジェラード皇国の軍がヴェルザーク帝国と戦闘を開始した。


 その連絡を受けた反乱軍は空間跳躍で一気に惑星ヴェルザークに接近。

 反皇帝派の工作で穴の開いた防衛網の隙間に入り込んだ。


 首都アルバートまであと少しというところで敵部隊に捕捉された。

 敵機の中には帝国の死神であるブラックファイターの姿がある。


 帝国の死神に対抗出来るのは俺と舞姫七式だけだ。

 それは反乱軍も承知しているようで俺に帝国の死神の足止めを要請してきた。

 俺が足止めしている間に本隊がアルバートに攻め込むそうだ。


 俺は了承し、舞姫七式をブラックファイターと対峙させる。


『また会ったね。数日ぶりかな?』


「お前と話すことは無い。勝負だ」


『あはは。ヒカル君強気だね。それじゃ遊ぼうか』


 俺と帝国の死神であるジェイド・ジョーカーは戦闘を開始した。


 俺とジェイドが戦い始めたのを合図に帝国軍と反乱軍は戦い始めた。

 反乱軍としては本隊が皇帝を倒すまでなんとしても踏み止まる必要があった。

 故に反乱軍は守勢に回り、帝国軍を釘付けにした。


「武装転送。TYPE-BRα」


 舞姫七式のメイン武装であるTYPE-BRαを呼び出して攻撃する。


 お互いにビームを撃ち合うが偶に掠めるくらいで目立った被弾は無い。

 俺の舞姫七式は湾曲フィールドを装備しているので掠った程度じゃ傷付かない。

 ……まあ、それはブラックファイターも同じだろうが。


『この前は射撃しかしなかったからね。今日は格闘も試してあげるよ』


 ブラックファイターはビームサーベルを左手に装備すると急接近してきた。


 俺はTYPE-BSを呼び出してブラックファイターと切り結ぶ。


 ビームサーベル同士が激突し、激しく閃光を放つ。


 ブラックファイターが振るうビームサーベルの一撃は重く鋭い。

 俺も受け流すので精一杯だ。

 反撃する余裕がない。


『格闘も結構やるじゃない。ヒカル君頑張ればFFOでSランクいけたんじゃないの?』


「そうやって俺を油断させようって魂胆か?」


『今のは本音なんだけどなぁ』


「信じられるか」


 ジェイドの言葉を聞き流して、俺はTYPE-BRαを撃つ。

 ブラックファイターはビームを躱しながらビームサーベルで斬りつけてきた。


 舞姫七式は翼状のフレキシブルブースターを広げてブラックファイターから離れる。


 ブラックファイターのビームサーベルは空を斬った。


 俺は間髪入れずにTYPE-BRαを連射する。

 それをブラックファイターは機体を回転させる事で避けた。


「手強いな。Sランクは伊達じゃないか」


 俺は愚痴をこぼす。


 今の俺では精々ジェイドを抑える事しか出来ない。

 ジェイドの実力はそれだけ高いレベルにあった。


『ねえ、ヒカル君。反乱軍なんて抜けて帝国に来なよ』


 戦闘中にジェイドが勧誘してきた。


「前に行ったはずだぞ。俺は仲間を裏切るつもりはない」


『仲間の為に死ぬつもりなの? 1人じゃ帝国には勝てないよ?』


「誰も四大将軍には勝てないからか? 公式の設定じゃ勝てる事になってたぞ」


『それ本気で信じてるの? あの化物と命懸けで戦うなんて正気の沙汰じゃないよ。君はこの戦争が終わっても帝国と戦うつもりなの?』


 その問いに対して俺は答えを出せなかった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ペルシウス公国とジェラード皇国の混成軍は戦闘を優勢に進めていた。

 ヴェルザーク帝国の軍は意外に脆く、突けば簡単に崩れた。

 だが、それはヴェルザーク帝国の罠であった。

 その事実にペルシウス公国とジェラード皇国は気付かない。

 2国はどんどん敵の術中に嵌まっていくのだった。


「我々が組むのは些か大袈裟だったか」


『そうかもしれんな。だが帝国は調子に乗り過ぎた。ここで打ち倒さねばならん』


「その通りだな。帝国にはここで潰えてもらおう」


 ペルシウス公国のディアス・ペルシウス公子は、ジェラード皇国のアルス・ジェラード皇子は通信で会話していた。


 どちらも勝利を確信しており、すでに戦後の事を考え始めていた。


「報告! 前線の部隊が崩されているとの事です!」


「なんだと? どこの部隊がやられたのだ?」


 ディアス公子は兵士に尋ねた。


「前線の部隊全てです! 味方が次々に倒されています!」


「なっ……馬鹿な!? 我が軍は何をやっているのだ!?」


 ディアス公子は驚愕する。

 先程まで自軍は敵を圧倒していたはずなのだ。

 それなのに今は逆に圧倒されている。

 その事実をディアス公子は信じられなかった。


『ディアス公子! 戦場に帝国の四大将軍が現れたぞ! それも全員だ!』


 アルス皇子の言葉にディアス公子はまた驚く。


 四大将軍とはヴェルザーク帝国の切り札。


 帝国の英雄レヴィン・レイカス。

 帝国の戦女神ミレイ・クリスティン。

 帝国の守護神シオン・フェルト。

 帝国の悪魔カール・ヴァンガード。


 帝国最強の力が牙を剥いた。


 戦況は瞬く間にヴェルザーク帝国が優勢になった。

 元々ヴェルザーク帝国は負けているように見せかけていただけなのだ。

 攻勢に回れば最強の軍隊の名に恥じない働きをした。


 ペルシウス公国とジェラード皇国の混成軍は1時間もしない内に半壊。

 戦線を維持する事は不可能となった。


「誰かあの化物を倒せないのか!」


 ディアス公子が声を荒げた。


「ディアス公子! このままでは全滅してしまいます! 撤退の許可を!」


 ディアス公子の側近がそう進言した。


「四大将軍さえ倒せば勝機はあるのだ! まだ負けてはいない!」


「どうかご理解ください! すでに戦況は我が方の不利です!」


「くっ……ただやられるのを黙って見てるしかないのか」


 ディアス公子は歯を食いしばり、拳を握りしめる。

 その表情には悔しさが滲んでいた。


「四大将軍の戦闘データは手に入りました。次は勝てます」


「……だといいがな」


 ディアス公子はそう呟くと全軍の撤退指示を出した。

 それに合わせるようにジェラード皇国の軍も撤退した。


 こうしてペルシウス公国とジェラード皇国は敗北したのだった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ジェイドと戦闘を続けていると反乱軍の本隊から通信が入った。


 皇帝の殺害には失敗したがノア皇子の確保には成功したらしい。

 FFOではどちらも失敗に終わっていたので、この結果には驚いた。


 しかし、反乱軍は大きな犠牲を払った。

 話を聞くと反乱軍のリーダーであるセレン王女の叔父が戦死したそうだ。

 これもFFOとは違った結末だ。


『そっちの作戦は終わったみたいだね。じゃあ僕達が戦う必要はもうないかな』


「もう俺の前には現れるなよ」


『それは今後の展開次第かな。それじゃ僕は帰るね』


 ジェイドは生き残った帝国軍と共に撤退した。


 それを見届けた俺は反乱軍の本隊に合流したのだった。


『アカツキ大丈夫だった? 相手は帝国の死神だったんでしょ?』


 反乱軍の本隊に合流するとフィナから通信があった。

 フィナが無事だったのは俺にとって喜ばしい事だ。

 仲間に死なれたら後味が悪いからな。


「奴は本気じゃなかったからな。なんとかなったよ」


『アカツキが無茶をするのはいつもの事だけど……あんまり心配させないでよ』


「俺としてはフィナが無理しないか心配なんだがな」


『それ、どういう意味よ』


 フィナがジト目になりながら俺を見る。

 その頬は少し赤くなっていた。


『いちゃつくのはこの場を離れてからにしな』


 俺とフィナの通信にリオンが割り込んできた。

 そういえば烈火の翼も反乱軍の本隊に同行していたんだったな。


『い、いちゃついてなんかないわよ!』


 フィナは顔を真っ赤にしながら通信を切った。

 その様子を見たリオンはニヤリと笑う。


『あー若いねぇ。反応が面白い』


『リーダーもまだ若いでしょうに』


『あたしはもう30だよ。もう年寄りさ』


『俺は全然いけますよ』


『女たらしのキザ野郎は趣味じゃないね。他を当たりな』


『リーダーひでえ』


『ふん。まだ戦場にいるって事を忘れてるんじゃないのか?』


 リオン、マルクス、バウルの3人の通信に俺は苦笑した。


『お前達、私語は止めろ。まだ戦闘中だぞ』


『はいはい、騎士様は堅物だねぇ』


 アーレンの言葉にリオンは肩をすくめた。


『これより我らは帝国軍の包囲網を突破する。先陣はアカツキに任せるぞ』


「それは反乱軍も承知しているのか?」


『勿論だ。彼らも帝国の死神と互角に戦える戦力をあてにしているのだろう』


「分かった。道は俺が切り開こう」


 俺はアーレンにそう言うと舞姫七式を反乱軍の前に出した。


 この後、反乱軍は帝国軍の包囲網を突破して脱出に成功。

 反乱軍脱出の立役者は俺と舞姫七式だった事は言うまでもない。

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