0009
俺はスペースレッドに対してTYPE-GGを放つ。
スペースレッドの鱗はTYPE-GGの弾丸を受け止めた。
FFOでも最強クラスの攻撃力であるTYPE-GGでダメージは微々たるものか。
俺はFFOを遊んでいる時はスペースレッドとの戦いは避けてきた。
だからこいつの攻略方法が分かっていないのだ。
俺が攻撃し続けるとスペースレッドは翼を翻してまた帝国軍を襲い出した。
ダメージで怯んだというより、俺の攻撃が鬱陶しかったのだろう。
スペースレッドは帝国軍の宇宙戦艦をまた沈めた。
これで4隻いた宇宙戦艦は残り1隻になった。
スペースレッドの今度の標的はエリュシオンだった。
『化物め! お前の相手はこっちだ!』
『これは報酬を上乗せしてくれないと割に合わん!』
『ごちゃごちゃ言ってないでとにかく撃つんだよ!』
烈火の翼の面々がスペースレッドに攻撃するがまるで相手にされていない。
全ての攻撃がスペースレッドの鱗に弾かれている。
「まともにダメージが入らないか。これは不味いな」
俺はTYPE-GGでスペースレッドの注意を引きつける。
スペースレッドの頭部に集中して攻撃したのが功を奏したか。
スペースレッドは俺に狙いを変えた。
スペースレッドの鋭い眼光が舞姫七式を睨む。
その威圧感に冷汗が出る。
「俺に狙いを定めたな」
俺はスペースレッドの攻撃を躱しながらアーレンに通信をする。
「こいつは俺が引き受ける。今の内に逃げてくれ」
『馬鹿な!? お前1人でどうにかなる相手じゃないぞ!?』
「それは分かってる。だが、俺以外にあれと戦える奴はいない」
『それはそうだが……』
「はっきり言うぞ。お前達は足手まといだ。このままじゃ全力で戦えない」
『……お前、死ぬ気か?』
「俺は死ぬ気は無い。いいから早く行け」
『……すまん! 少しだけ時間を稼いでくれ!』
アーレンはアークシュダルツを反転させてエリュシオンに戻っていった。
『アカツキ。あんた本気であの化物と戦う気かい?』
「アーレンとの通信を聞いていたんだろ。何度も同じ事は言わせないでくれ」
『……分かったよ。死ぬんじゃないよ』
リオンはそう言うと通信を切った。
俺は舞姫七式を飛ばしながらTYPE-GGを撃つ。
スペースレッドは舞姫七式を追いかけてきた。
とりあえず挑発は出来ているな。
エリュシオンと烈火の翼の宇宙戦艦は空間跳躍で戦闘宙域を離脱した。
どこに跳躍したのかは情報を送ってもらったので分かる。
まあ、生き残れたら必要になる情報だな。
俺がスペースレッドを引きつけている間に帝国軍は撤退した。
撤退する際に大破したデュナンボースが他の機体に抱えられていたのが見えた。
これでこの宙域に残っているのは俺とスペースレッドだけだ。
一応、仲間を逃がすという目的は達成出来た。
あとはスペースレッドを倒すか逃げるかをしなければいけない。
逃げるという選択はあまり賢いとは言えない。
スペースレッドはその巨体に似合わない速さで行動出来る。
今の舞姫七式の最大スピードでなんとかこちらが上といった状況だ。
正直、ミアリーに強化してもらっていなかったら速さで負けていたかもしれない。
そのくらい僅差な状況では相手を振り切って逃げるのは難しい。
では戦って勝てるのかというとそれも厳しい。
今もTYPE-GGで攻撃しているが向こうはまだ大きなダメージを負っていない。
これでは何時間も戦い続ける事になる。
それは流石に集中力と体力が持たない。
「手詰まり、か」
俺は顔を顰める。
現状の舞姫七式がまるで通じないのだ。
そんな顔にもなる。
「これはかっこつけが過ぎたかな」
殿を務めると言った事を少し後悔する。
しかし、後悔したところで現状が好転する事はないのだ。
何か打開策はないのか?
「何かないのか? 俺の舞姫七式にあいつを倒す武装はなかったか?」
俺は液晶パネルを操作してステータス画面で舞姫七式の武装を見返す。
すると見覚えの無い武装があった。
こんな武装あっただろうか?
あったら見落とさないはずなんだが。
「何だこれは? こんな武装は……いや、まさか!?」
俺の注意が一瞬、画面の文字に集中する。
それはスペースレッド相手には危険な行為であった。
「あ!?」
スペースレッドの巨大な爪が舞姫七式に迫る。
「武装転送! TYPE-S!」
俺は叫びながら舞姫七式を後ろに下げた。
舞姫七式の前に3つの剣状の物体が現れ、それらは協力してシールドを展開。
一瞬だけシールドは耐えて、その隙に相手の攻撃を躱せた。
俺が使ったのはエネルギーシールドを自動で展開してくれる装備だ。
ゲームではソーディアンダガーと呼ばれていた。
「い、今のは危なかった……」
心臓がバクバクしている。
この世界にやってきて初めて命の危機を感じた。
舞姫七式を最大スピードで飛ばしながら液晶パネルをもう一度見る。
そこにはやはり縮退砲と表示されていた。
縮退砲とは簡単に言うと超新星爆発を食らわせる武装だ。
だが、こんな武装はFFOでも実装はされていない。
これは俺が妄想して舞姫七式に与えた設定だ。
どうして俺の考えた設定が実際に具現化されているのかは分からない。
だが、この縮退砲を使えばスペースレッドを倒せるかもしれない。
こうして考えてる間にスペースレッドの爪や牙が届かないとも限らないのだ。
迷っている暇は無い。
「……いくぞ! 縮退砲起動!」
俺がそう言うとTYPE-GGとTYPE-Sが異空間に戻された。
どうやら縮退砲を発射する際は他の武装は勝手に収納されるみたいだ。
舞姫七式の胸部の衣服状のパーツが展開される。
そして巨大な光の玉が発生する。
「縮退砲……発射!」
俺は操縦スティックのトリガーを引いた。
撃ち出された光の玉は迫り来るスペースレッドに当たった。
すると凄まじい光と共に大爆発が起こった。
舞姫七式がこの爆発に耐えきれるのか不安で仕方なかった。
機体はガタガタと震え、爆発の威力を物語っていた。
光が収まるとそこには俺と舞姫七式以外何も残っていなかった。
「……凄まじい威力だな」
俺は縮退砲の威力に戦慄した。
これは気軽に使っていい武装じゃない。
俺は暫く呆然と宇宙空間を漂うのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
逃げ延びたヴェルザーク帝国の宇宙戦艦。
その艦内は重い空気に包まれていた。
必勝を期して挑んだ戦いで大敗したからだ。
帝国軍はたった1機のコンバットフレームに壊滅させられた。
イレギュラーであった宇宙怪獣に宇宙戦艦を沈められたのも最悪であった。
「申し訳ありません。大事な機体を壊してしまい……」
パイロットの待機室でエリーナ・ホークは半泣きで謝っていた。
エリーナのデュナンボースは宇宙怪獣との戦いで大破したからだ。
「いや、お前が無事でよかった」
ザクス・ルードはエリーナにそう言った。
「姉さんは幸運だよ。あんなに機体がやられてたのに姉さんは無傷だったんだから」
「でも私のバスターはもう使い物にならないわ」
「機体なんていくらでもあるさ。姉さんの代わりはいないんだ」
「クリス……」
珍しく気落ちしているエリーナをクリスは慰める。
「ほら、元気出してよ。弱気な姉さんは見ていられないよ」
「……そうね。クヨクヨしてても仕方がないわ。私に出来る事をしないとね」
エリーナはすぐに立ち直った。
こうした切り替えの早さはエリーナの美点だった。
「今回は完全にやられたな。まさか敵にあんな奥の手があったとは……」
ザクスの顔が渋る。
敵を侮ったつもりはなかった。
冷静に分析してセレン王女を確実に始末出来る戦力を用意した。
だが、敵はそれを上回る力を持っていたのだ。
「クリスの言っていた女型のコンバットフレーム。あれに関する情報が何も無かったのはこちらの落ち度だな。これほどの性能だったとは」
「正直言ってあのコンバットフレームの力は異常です。もしかしたら四大将軍に匹敵するかもしれません。至急、報告すべきだと思います」
「そうだな。私もそう思っていた」
「……今度またあのコンバットフレームに出遭ったら勝てるでしょうか?」
「今のままでは難しいな。数で押す戦法は奴には通じない。戦うのなら少数精鋭で立ち向かう必要があるだろう」
「それは……そうですが」
「実はジーク様が推進されている計画がある。その計画に我々は参加する」
「その計画とは?」
「詳しくは言えんが強くなるための計画だと言っておこう」
「強くなる計画ですか……」
「まあ、今はあまり考えるな。エリーナとクリスは休め」
ザクスがそう言うとエリーナとクリスは敬礼して部屋を出ていった。
部屋に残ったザクスは今回の失態に頭を悩ませるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エリュシオンには3時間くらいで合流出来た。
エリュシオンの格納庫に舞姫七式を駐機させて降りるとセレン王女が待っていた。
わざわざ王族が出迎えてくれるなんてな。
彼女にとって今回の出来事はそれだけ重大な事だったのだろう。
「アカツキ。よく無事に戻ってくれました」
セレン王女は笑顔でそう言った。
「王女様もご無事で安心しました」
「私が無事なのもアカツキが奮戦してくれたおかげです。ありがとうございます」
セレン王女は頭を下げた。
それを見た周囲の者はどよめく。
「やめてください。俺は自分に出来る事をしただけですから」
「あの宇宙怪獣に立ち向かえる者は多くないでしょう。アカツキの行動は賞賛されるべきだと思います。本当なら勲章を授けたいのですが、今の状況ではそれも出来ません。私としてはそれがとても残念でなりません」
「俺は賞されるような事をしたつもりはないです」
「ふふ、謙虚ですね」
セレン王女は口元に手を当てて笑う。
その仕草は上品で彼女が王族なのだと俺に再認識させる。
「私達はこれから空間跳躍で反乱軍と合流します。アカツキは休んでいてください」
「分かりました。では失礼します」
俺はセレン王女に頭を下げてから自分に与えられている自室に向かった。
自室に備え付けられたベッドに寝転がると、疲れからか睡魔が襲ってきた。
俺はそのまま束の間の休息をとるのだった。
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