0008

 敵はやはりヴェルザーク帝国のようだ。

 これまでヴェルザーク帝国との敵対は避けてきたがそれも今日までか。


 エリュシオンの外に出た俺はまずレーダーで周囲を確認する。


 味方はエリュシオンに烈火の翼の小型宇宙戦艦。

 そしてコンバットフレームは俺、マルクス、バウル、アーレンの4機。


 敵は宇宙戦艦が1隻にコンバットフレームが8機だ。


『やっぱり仕掛けてきたね。帝国もやる事が汚いじゃないか』


『向こうもそれが仕事なのさ。あー嫌だねぇ』


『マルクス、気を抜くなよ』


 リオン達の会話を聞きながら俺はズーム機能で敵を見た。

 すると見覚えのある機体が3機いた。


「あれはデュナンボースだな」


 確か、あの機体はファレンシア王国で作られたコンバットフレームだな。

 ヴェルザーク帝国の連中は奪った機体を実際に運用しているのか。

 まあ、実戦データが欲しいってところか。


『帝国のコンバットフレームにバスター3機を確認!』


『なんだと? 奪ったコンバットフレームを全て投入してきたのか?』


 バスターってデュナンボースの事か。

 どうやらアーレンはデュナンボースについて知っているらしい。

 あの機体は秘密裏に作られていたはずだが、何でアーレンは知っているんだ?

 もしかして当事者だったりするんだろうか?


『烈火の翼はエリュシオンを守れ。前衛は俺とアカツキが担当する』


「全部俺1人でも問題無いぞ」


『ふん、若造が調子に乗るな。いくぞ』


 アーレンのアークシュダルツが加速する。

 俺も遅れまいと舞姫七式を飛翔させる。


「武装転送。TYPE-BRα」


 俺は使い慣れたTYPE-BRαを選択。

 舞姫七式は転送されたTYPE-BRαを装備した。


「とりあえず1機落とすか」


 敵機をロックオンしてからTYPE-BRαを2連射する。

 最初の一発目はフェイントで本命は二発目のビームだ。


 相手はこのフェイントに惑わされ、本命の一撃を食らってしまう。

 FFOで最強クラスだったビームライフルの攻撃を食らっては耐えられるはずもない。


 敵機は爆散して戦場から消えた。


 まずは先制攻撃出来た。

 しかし相手の動きに乱れは無い。

 宙賊と違って訓練された軍隊である以上、この程度で混乱するわけがない。


 他の敵機はビームライフルで応戦してきた。

 相手の攻撃を受けたところで舞姫七式の湾曲フィールドで相殺出来る。

 しかし、わざわざ当たってやる必要も無いので機体を捻って回避した。


 敵機の攻撃を躱しながらTYPE-BRαを撃つ。

 TYPE-BRαのビームは敵機をシールド諸共撃ち抜いた。

 ヴェルザーク帝国の機体は決して弱くないのだが、相手が悪かったな。


 次の敵機は回避運動をしつつ攻撃してきた。

 なかなか動きが良く、パイロットの実力が窺える。


 しかし舞姫七式の性能の前じゃ小手先の技ではどうにもならない。


「武装転送。TYPE-BS」


 舞姫七式の左手にTYPE-BSを転送させると、翼状のフレキシブルブースターを思い切り噴かせて敵機に近付く。


 相手はビームライフルを撃つが螺旋を描くように回避して全弾避ける。


 そして、TYPE-BSで敵機を両断した。


 これで3機を撃墜した事になる。


 アーレンの方を見ると向こうは2機を撃墜したみたいだ。

 今は3機のデュナンボースを相手に奮闘している。


 3対1で互角に戦うとは、アーレンの実力はかなり高いな。

 だが、アーレンのアークシュダルツはシールドがボロボロだ。

 このままでは相手の攻撃を受け切れなくなってしまうだろう。

 そうなる前に援護した方がいいか。


 アーレンを援護しようとしたその時、敵の宇宙戦艦から信号弾が発射された。

 それを見た3機のデュナンボースは撤退していった。


「機体は問題無いか?」


『大丈夫だ。そちらも問題無いようだな』


「ああ、俺の舞姫七式にとってはこの程度なんて事はない」


『……自信家だな。まあいい。帰投するぞ』


「了解だ」


 こうして俺達は敵の撃退に成功するのだった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 帝国兵は焦っていた。

 出撃した8機中戻ってきたのが3機だけだからだ。

 これは常勝のヴェルザーク帝国としてはあってはならない敗北だった。


 相手は滅びた国の残党と高を括っていた結果がこれだ。


 敵は予想外に手強く、現状では勝算は低い。

 その事は実際に戦った者が一番よく分かっていた。


「何よあの機体! 3人がかりで落とせないなんて!」


「姉さん落ち着こうよ」


 パイロットの待機室で騒いでいるのはエリーナ・ホーク。

 それを宥めようとしているのは弟のクリス・ホーク。


「あのコンバットフレームには見覚えがあるな。確かバスター強奪時に未完成で放っておいた機体だ。コードネームはセイバーだったか」


 椅子に座り、騒ぐエリーナを見ているのはザクス・ルード。

 エリーナとクリスの上官であり、ルード隊の隊長でもある。


「あのセイバーは脅威だな。我々を抑えつつ2機のコンバットフレームを撃墜するとは並大抵の実力ではない。王国にまだあれほどのパイロットが残っているとはな」


「ですが隊長! あのコンバットフレームの動きはもう分かりました! 次は落とせます! 私に任せてください!」


「姉さん……またそんな調子のいい事言って、失敗したらどうするのさ」


「うるさいわね! クリスは黙ってて!」


「うるさいのは姉さんじゃないか……」


 ホーク姉弟のやり取りにザクスはクスッと笑みを浮かべた。


「まあ、今回は敵の戦力を甘く見たのが敗因だ。次はこんな事の無いように援軍を要請して戦力を増強する」


 ザクスは次に戦う時にどの程度戦力があれば勝てるかを考え始めた。

 しかし、それを止めたのはクリスの一言だった。


「……そういえば、戦場に変なコンバットフレームがいませんでした?」


「変なコンバットフレーム? そんなのいたかしら?」


「うん、なんか翼の生えてる女の人みたいな見た目だったよ」


「はあ? あんた何言ってんのよ。そんなコンバットフレームいるわけないでしょ」


「いや、でも確かにそんなコンバットフレームがいたんだよ」


「仮にそんなのがいたとして何だっていうのよ。そんな馬鹿げてる機体じゃ何も出来ないわ。絶対に数合わせに出した機体よ」


 エリーナは呆れたような顔をする。


 だがザクスの表情は少し険しくなる。


「撃墜された機体は全部で5機。まさか3機はその女型の機体に敗れたのか?」


「ちょっと隊長! クリスの冗談を真に受けないでください! 敵のコンバットフレームは4機だったんですよ。私達が相手にした1機を除けば残りは3機。その3機にやられたんですよ」


「……考えすぎか」


 そうは言うが、ザクスは敵の戦力を頭の中で上方修正するのだった。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 帝国軍との戦闘から1日が経過した。


 俺達はまた空間跳躍をしているが、あれから帝国軍の襲撃は無い。

 今のところは順調に進めていた。


 だが、敵も黙って見過ごす事はするはずがない。


 それは誰もが分かっている事で艦内はピリピリした空気になっていた。


 そんな中で俺はセレン王女の話し相手をしている。

 どうして俺がセレン王女の話し相手をしているのか。

 それは俺とセレン王女の歳が近いからという割と適当な理由だった。


 最初は断ろうとした。

 だが、断ろうとするとセレン王女の表情が曇ったので、仕方なく会話する事に。


 幸いだったのはセレン王女が聞き上手だった事か。

 上手く俺から話を聞き出してくれたので会話は意外にも弾んだ。

 特に彼女は俺の舞姫七式に興味津々だったのでついぺらぺらと喋ってしまった。


 セレン王女は途中から笑顔になった。

 話を聞くと国も家族も失って軽く鬱になっていたんだとか。

 塞ぎ込んでいた彼女の息抜きになったのなら、まあ話した甲斐もあるか。


 セレン王女とは1時間程度話した。


 俺は話す事も終わったので、セレン王女の部屋を出ようとした。

 その時、警報が鳴った。


『総員戦闘配置に就け! 繰り返す、総員戦闘配置に就け!』


 ヴェルザーク帝国がまた攻めてきたか。


 俺は急いで格納庫に向かい、舞姫七式に乗り込む。


 そして、エリュシオンの外に飛び出した。


 レーダーには30機のコンバットフレームと4隻の宇宙戦艦が映っている。

 前回とは比べ物にならない戦力だ。

 ヴェルザーク帝国はどうしてもセレン王女を始末したいようだな。


『くっ……帝国も本腰を入れてきたという事か。この戦力差は……』


 アーレンが弱気になってるな。

 画面に映った顔には迷いがあるように見える。

 怖気づくという事はないだろうが、指揮官がこれではいけないな。

 少し発破をかけるとしよう。


「どうした? この程度の戦力差で負けるとでも思っているのか?」


『……お前には現実が見えんのか? この戦力差で勝つ事は……』


「勝てる。俺と舞姫七式なら」


『正気か?』


「俺は正常だよ。勝てるから勝てると言っているだけだ」


『それを信じろと?』


「信じなくても結果は一緒だ。だが、指揮官が弱気では余計な損害が出る」


『……そうか。俺は尻込みしていたか。まさか若造に指摘されるとはな』


 アーレンの顔から不安が無くなった。

 これなら大丈夫だろう。


「俺は先行して敵を叩く。撃ち漏らしは任せるぞ」


『任せてもらおう。お前も大口を叩いたからには成し遂げてみせろ』


 アーレンとの通信はそれで終了した。


 舞姫七式が翼を羽ばたかせて戦場を飛ぶ。


 敵は数で押す作戦のようだ。

 まあ、普通はそうする。

 俺でも圧倒的な数で叩く。


 ……しかし、それは普通の相手の場合に限るが。


「今回は護衛対象がいるからな。悪いが消し飛べ。武装転送。TYPE-GG」


 舞姫七式の両手に三連装のガトリング砲が転送される。

 こいつのゲームので名前はデストロイアームズ。

 とにかく火力で敵を圧倒したい時に使う武装だ。

 俺はこの武装を更に強化している。

 これなら射撃で撃ち負ける事は無いだろう。


 TYPE-GGの砲身が回転を始め、幾億の弾が撃ち出される。


 ロックオンされたコンバットフレームは風穴が開き、そして爆発していく。

 勘の良い者はシールドで防御しようとするが、弾丸は容赦なく食い破る。

 TYPE-GGの攻撃力は宇宙戦艦すら容易に撃沈するのだ。

 その辺のコンバットフレームでは装甲などあってないようなものだ。


「これも食らえ。武装転送。TYPE-M」


 舞姫七式の周囲にミサイルが現れる。

 TYPE-Mは異空間から大量のミサイルを撃ち出す武装だ。

 ミサイルはFFOで購入出来る最新の物を大量に買い込んでいる。

 それを一斉に発射するのだ。


 撃ち出されたミサイルは敵を捕捉すると一瞬で目標を破壊した。

 ミサイルを迎撃しようとビームライフルや頭部バルカンを撃つ者もいるが無駄だ。

 このミサイルはFFOの上位プレイヤーでも迎撃は出来ずジャマー頼りだった。

 ちなみに舞姫七式にはミサイル除けにハイパージャマーを装備してある。


 TYPE-GGとTYPE-Mの一斉射のよって30機いた敵機は3機だけになった。


『この力……化物か』


 アーレンの震える声が聞こえるがそれは無視して、俺は移動を開始する。

 相手の宇宙戦艦を沈めるつもりだ。


 残った敵機はデュナンボース3機のみ。

 あの弾幕を凌いだのは本当に運が良かったんだろう。


 敵のデュナンボースは突撃態勢になり突っ込んでくる。

 あれだけ圧倒的な力を見せたのにも関わらず戦意はまだあるらしい。


 舞姫七式はTYPE-GGを構え、突撃してきた敵機に照準を合わせる。

 そしてトリガーを引こうとしたその瞬間、敵の後方に何かが空間跳躍してきた。


 それは宇宙戦艦よりも巨大な宇宙怪獣であった。


 巨大な宇宙怪獣はヴェルザーク帝国の宇宙戦艦を一撃で破壊した。

 その姿を見て俺は驚愕する。


「馬鹿な、スペースレッドだと?」


 それは宇宙怪獣の中でも最強クラスの強さを持った大型竜スペースレッドだった。

 FFOではAランク冒険者のパーティーでも全滅を覚悟するレベルである。


 敵のデュナンボース3機は反転してスペースレッドに攻撃を始めた。

 俺への攻撃より母艦を守る事を優先したか。


『退却だ! 各機はすぐに母艦に戻れ!』


 アーレンが退却指示を出したのと同時に宇宙戦艦がまた1隻撃破された。

 敵の宇宙戦艦を破壊したスペースレッドはこちらに狙いを定めた。


 予想だにしていない最強との戦いが始まった。










 捕捉


 TYPE-GGの見た目

 ○ノサーガのK○S-MOSが使ってるやつをイメージしてください

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