0007
俺達が活動しているコロニーにミアリーを連れて戻ってきた。
宇宙港で預けている舞姫七式を見たミアリーはびっくりしていた。
外見でも驚いていたし、内部を覗いた時も驚いていた。
まあ、舞姫七式はこの世界だとオーバーテクノロジーの塊だからな。
ミアリーの反応は当然だろう。
ミアリーは1ヵ月で俺とフィナの機体を強化した。
フィナのラナンキュラスはともかく、俺の舞姫七式も強化してるのは流石だ。
どう強化したのかはよく分からないが、そこは天才の手腕という事か。
「ねえ、アカツキのコンバットフレームを作ったのは誰なの?」
ミアリーは俺達の機体を強化し終わるとそんな事を聞いてきた。
「……分からない。気付いたら所有していた」
俺は嘘で誤魔化す事にした。
「そっか。アカツキもそうなんだね。高性能なコンバットフレームを持ってる人はそういう記憶が曖昧な事が多いって話だよ」
ミアリーは勝手に納得してくれた。
そういえば宙賊のグレンもそんな事を言ってたな。
「まあ、機体の出所はどうでもいいだろ。肝心なのは俺の舞姫七式に使われている技術だ。ミアリーも気になっているじゃないのか?」
「まあね。大いに興味はあるよ」
「こういうのはどうだ? ミアリーは俺の舞姫七式を調べて、自分のコンバットフレームの開発に役立ててくれて構わない。その代わり、俺達の専属メカニックになれ」
FFOではミアリーは仲間になるNPCではなかった。
だが現実であるこの世界なら、或いは仲間に出来るかもしれない。
だから俺はミアリーの欲望を刺激するようなメリットを提示して勧誘したのだ。
「……魅力的な提案だけど、僕は自由気ままに旅がしたいんだ。だから一ヵ所に留まる事はしない。どこに新しい発見が転がってるか分からないからね」
そう簡単に仲間にはならないか。
まあ、出来ればいいかくらいに思ってたし、仕方ないな。
「そうか……残念だ。それなら連絡先を教えてくれ。また機体を強化してほしくなったら連絡してこちらから会いに行く。これならどうだ?」
連絡先さえ聞ければFFOで神出鬼没だったミアリーにいつでも会える。
この提案ならいけるかと思ったんだが、ミアリーは考え出した。
もしかしたらこれも無理かもしれない。
「……分かったよ。連絡先は教える。でも僕に頼むなら報酬はアダマンタイトを用意して。舞姫七式の性能なら稼ぎは充分でしょ?」
俺の考えに反してミアリーは連絡先を教えてくれた。
これは交渉としては大成功と言っていいんじゃないか?
「分かった。依頼する時はアダマンタイトを用意するよ」
こうして俺はFFOでは不可能だったミアリーとの交渉を成功させたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ファレンシア王国がヴェルザーク帝国に滅ぼされた。
よく健闘したとは思うが、やはりファレンシア王国の滅亡は避けられなかったな。
王国の滅亡のニュースをホテルの部屋で見ていると扉を誰かがノックした。
扉を開けるとそこにはフィナがいた。
「ねえアカツキ……ニュースを見た?」
「ああ、見た。王国が滅びたらしいな。それがどうかしたか?」
「私、戦争に巻き込まれるのが嫌だった。だから王国から離れた」
「そうだな。俺もそうだ」
「でも、このままでいいのかしら? このままじゃこの国だって戦争に巻き込まれるわ」
「そうかもしれない。その時はまた他の国に行けばいいんじゃないか?」
「……そうかしら。それって正しいの?」
「どうしたんだ? なんだか変だぞ?」
「……ごめん。ちょっとニュースを見て思うことがあって」
「少し頭を冷やした方がいい。今のフィナは色々考え過ぎてる」
「……そうね。そうする」
フィナは自分の部屋に戻っていった。
それから数日後、フィナは冒険者を辞めて帝国と戦うと言い出した。
何故と問いかけるとフィナは自分の素性を告白した。
フィナはヴェルザーク帝国の貴族、クリスティン侯爵家の人間だという。
姉の名前はミレイ・クリスティン。
帝国の四大将軍の1人だな。
素性を告げたフィナは自分の過去について話し始めた。
数年前、姉のミレイが家族を殺した。
家族を殺した理由はフィナには分からないそうだ。
怖くなったフィナは屋敷から逃げ出して、宇宙船でファレンシア王国へ向かった。
暫くは無気力な日々が続いたらしいが、やがてフィナは立ち直り1人で生きていく事を決め、冒険者になるべくコンバットフレームを購入したらしい。
そして俺と出会い、現在に至る。
「……帝国と戦うのは姉を殺す為か?」
フィナの話を聞き終えた俺はそんなことを言った。
「それは……分からないわ。でも今の帝国は放っておけない。このままじゃ帝国はもっと戦火を広げるわ。誰かがそれを止めないといけないのよ」
「別にそれはフィナがやらなくてもいいんじゃないか? これまで通り、戦争から逃げても誰も文句は言わない。お前が無理をする必要は無い」
「そうかもね。でも私はもう決めたの」
フィナはもう決意を固めていた。
それを止める事は俺には出来なかった。
「アカツキ。今までありがとう。さようなら」
フィナはこうして俺の前から姿を消したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フィナがいなくなって1週間が経過した。
その間に世界情勢は大きく動いた。
まずペルシウス公国とジェラード皇国の軍事同盟締結。
これはFFOでもあったイベントの1つだ。
それからヴェルザーク帝国のヴァレンタイン候国への侵攻。
世界は戦火という火中へ向かって進んでいた。
そんな世界の事は無視して俺はフィナの行方を調べていた。
どうやらフィナはヴェルザーク帝国に反攻する反乱軍に加わったようだ。
現在、反乱軍はファレンシア王国の残党を筆頭に勢力を伸ばしている。
ヴェルザーク帝国にとっては目障りな存在だろう。
FFOでは反乱軍はヴェルザーク帝国と激しく戦い合っていた。
つまりフィナが危険に晒される可能性は高い。
フィナは俺の仲間だし、見捨てるのは後味が悪い。
なので俺はフィナを助ける事にした。
だが、フィナを助けるという事はつまりヴェルザーク帝国と敵対するという事だ。
強大な軍事力を有するヴェルザーク帝国とは戦いたくないのが本音である。
「まあ、いざという時はフィナを連れて逃げるか」
俺は反乱軍として戦った末に死ぬなんてゴメンだからな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
久しぶりに冒険者ギルドに顔を出すと烈火の翼の3人組に呼び止められた。
どうも俺の事を探していたらしい。
「俺と一緒に護衛のクエストを?」
「ああ、そうさ。あたし達と一緒にやらないかい?」
リオンの話を聞くと、とある人物を護衛するクエストらしい。
今はフィナを探すのに忙しいし、金には特に困ってもいない。
ここは断っておくか。
「……悪いが俺は今忙しいんだ。他を当たってくれ」
俺はそう言ってその場を去ろうとする。
しかし、そんな俺の腕をリオンは掴んだ。
「これはフィナに近付くチャンスでもあるんだよ」
「……なんだと?」
俺は別にフィナを探している事を隠しているつもりはない。
だが、何でリオンがその事を知っている?
「どうして俺がフィナを探してる事を知っているんだ?」
「反乱軍絡みの事なら自然と私達の耳に情報が入ってくるのさ」
リオンはそう言うと俺に耳打ちした。
「あまり大きな声じゃ言えないけどね。私達の依頼人は反乱軍のお偉いさんなのさ。アカツキは反乱軍の入ったフィナを探してたんだろう? ならこれは反乱軍に接触する良い機会じゃないのかい?」
リオンの言葉を聞いた俺は少し考え込む。
結論を出すのはそう時間はかからなかった。
「……そうだな。クエストは受けよう」
「じゃ決まりだ。あたし達についてきな」
俺はリオン達と一緒に冒険者ギルドでクエストを受けた。
それから依頼人の待っているホテルの一室に案内された。
そこで待っていたのは金髪青眼の美女。
ファレンシア王国の王女セレン・ファレンシアだった。
そういえばFFOでセレン王女の護衛イベントがあったな。
ゲームではプレイヤーがセレン王女を反乱軍まで護衛する事になっていた。
この世界では俺がその役目を負うことになるのか。
「アカツキ・ヒカル。あなたの噂は聞いております。優秀な冒険者のようですね」
「過分な評価をいただき光栄です」
「今回は道中よろしく頼みます」
「お任せください。必ず目的地まで守り切ってみせます」
セレン王女と短いやり取りをしてから俺達はコロニーの宇宙港までやってきた。
そこにはセレン王女の乗艦である宇宙戦艦があった。
艦の名前はエリュシオンと言うそうだ。
エリュシオンのすぐ傍には烈火の翼の保有する小型の宇宙戦艦がある。
リオン達はセレン王女に頭を下げると自分達の母艦へと向かって歩いていった。
俺は舞姫七式をエリュシオンに積み込んだ。
その際にセレン王女が舞姫七式を興味深そうに見ていたのが印象的だった。
エリュシオンの格納庫には1機のコンバットフレームがあった。
青と白で塗られたその機体はアークシュダルツという機体だな。
確か汎用機としてFFOでは中堅辺りに人気だったコンバットフレームだ。
『これより本艦は出港する。総員、警戒態勢のまま待機せよ』
どうやら出発するようだ。
舞姫七式のレーダーで周囲を確認したが今のところ敵はいない。
ヴェルザーク帝国もここでは手出しする気は無いようだな。
『これより本艦は空間跳躍を行う』
コロニーを出港した俺達はすぐに空間跳躍を行う事になった。
空間跳躍中はレジストに気を付けなければならない。
レジストとは宇宙戦艦やコンバットフレームに装備されたレジストシステムを指す。
このレジストシステムは空間跳躍を強制解除する攻撃が可能なのだ。
エリュシオンはヴェルザーク帝国にマークされているらしい。
だからレジストされる可能性は充分にある。
俺は舞姫七式で待機して敵に備える。
それは正しかったようで、すぐに艦内に警報が鳴り響いた。
『総員戦闘配置に就け! 繰り返す、総員戦闘配置に就け!』
格納庫内も慌ただしくなってきた。
アークシュダルツも出撃準備が出来たようだ。
「出撃する。格納庫のハッチを開いてくれ」
『了解した。舞姫七式はセイバーと共に敵の迎撃にあたれ』
一瞬だけセイバーって何の事だよ、と思ったがアークシュダルツの事か。
この世界ではあの機体はアークシュダルツと呼ばれていないようだ。
『こちらはセイバー。アーレン・クレイヴだ。よろしく頼むぞ』
アークシュダルツから通信が入った。
画面に表示された顔は40代くらいの男性であった。
「俺はアカツキ・ヒカル。よろしくな」
俺はアークシュダルツのパイロットと挨拶を交わすと出撃した。
捕捉
アークシュダルツの見た目
○パロボOGの○シュセイヴァーをイメージしてください
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