0006
グレンの駆るアールグレイズラは装備したビームキャノンで、宇宙戦艦や冒険者の乗ったコンバットフレームを次々と仕留めていく。
このままでは味方の被害が大きくなるので早くグレンを倒す必要があるな。
とりあえず相手の注意をこちらに向けさせるか。
「まずは挨拶代わりにこれでも食らえ」
TYPE-BRαのフルチャージしたビームを放つ。
これで倒せれば楽なのだが、アールグレイズラはあっさりと躱した。
その動きは重武装のコンバットフレームとは思えないほど機敏だ。
グレンはこちらに狙いを定めたようでビームキャノンで反撃してきた。
あのビームキャノンは舞姫七式の湾曲フィールドを突破出来るから注意だ。
翼状のフレキシブルブースターを羽ばたかせて回避する。
舞姫七式のすぐ横をビームが通り過ぎていく。
接近するまでお互いにビームの応射を行う。
どちらもビームに当たるような事はないまま、機体がすれ違う。
間合いが少し開くとグレンが通信してきた。
そういえばゲームでもグレンは相手に通信で話しかけてくるボスだったな。
『なかなかやるじゃねえか。てめえ名前はなんていうんだ?』
「宙賊のゴミに名乗る名前はないな。大人しく撃ち落とされろ」
『言うじゃねえか。変態野郎に俺は殺れねえよ。死ぬのはお前だ』
「俺が変態だと?」
『へっ、コンバットフレームを女みてえに改造してる奴が変態じゃなくて何だっていうんだ? お前は頭がいかれてやがるぜ』
こいつは俺の舞姫七式を理解出来ないらしい。
理解出来ないならそのまま死んでいけ。
再び射撃戦が開始される。
お互いに動きを読み合いながらぐるぐると円を描くように飛ぶ。
俺もグレンもまだ一発も攻撃は当たっていない。
これは俺の射撃が下手というわけじゃない。
俺はそもそも真剣に攻撃を当てようという気が無いからだ。
勝負はアールグレイズラに接近した時だ。
何故ならグレンは接近戦が弱点だからな。
『もっとだ! もっと俺を楽しませてみろ!』
「お前の遊びに付き合う気は無い」
グレンというキャラクターはFFOでは戦闘狂だった。
どうやらこの世界でもそれは変わらないようだ。
だから宙賊連合が壊滅寸前でも逃げ出さずに戦い続けている。
「武装転送。TYPE-BS」
俺がそう言うと舞姫七式の左手にTYPE-BSが現れた。
TYPE-BSを起動させてビーム刃を形成する。
そしてTYPE-BRαで牽制しつつ、一気にアールグレイズラへ近付く。
アールグレイズラはマシンガンで攻撃するが、その攻撃は機体を捻るように飛ばす事で全弾回避した。
格闘が届く距離になったらTYPE-BSを振るう。
グレンの反応は少し遅かった。
FFOだとグレンは接近戦に苦手意識を持っている設定だからな。
この世界でもそれが反映されているんだろう。
TYPE-BSはアールグレイズラのビームキャノンを斬った。
『くそ、やりやがったな!』
アールグレイズラは壊れたビームキャノンを捨ててビームサーベルを手にした。
『切り刻んでやる!』
グレンは威勢よく斬りかかってくるが、その動きはどこか精彩を欠く。
俺は冷静に相手のビームサーベルをTYPE-BSで受け止める。
グレンはこうして鍔迫り合いをすると次にする行動が決まっている。
そこを攻撃すれば楽に倒せるのだ。
これがグレンというボスの必勝法である。
「もらった!」
予想通りの動きをしたのでそれに合わせてTYPE-BRαを撃つ。
この攻撃でアールグレイズラは左腕が破壊された。
『まだまだぁ!』
グレンはもう一度斬りかかってきた。
俺はまたその攻撃を受け止めてから反撃した。
FFOのイベントでもグレンは同じ攻撃を繰り返すという行動をしていた。
ゲームでは結局この単純な行動パターンに関して修正は入らなかった。
だからなのかは不明だが、この世界でもグレンの行動は同じだった。
『ちくしょう……ここまでかよ』
俺の攻撃はアールグレイズラの胴体に直撃した。
このまま放っておけば爆発するだろう。
『俺はこんなふざけたコンバットフレームに負けるのか……』
俺は何もふざけていない。
舞姫七式は真剣に作り上げた至高のコンバットフレームだぞ。
そもそもグレンのコンバットフレームだってこの世界では充分ふざけた性能だ。
お前にだけは言われたくない。
『てめえ……そんな強力なコンバットフレームどこで手に入れやがった?』
「答える必要は無いな」
『……へっ、本当は答えられないんじゃねえのか?』
「なんだと?」
『俺は気付いたらアールグレイズラを持っていた。どこで手に入れたのか憶えてねえ』
「……そうか。面白い事を聞いた。お前と戦った事は無駄じゃなかったな」
『そうかよ……』
グレンとの会話は終わった。
アールグレイズラが爆発したからだ。
「そうだ。もしかしたらあれがあるかもしれないな」
俺はアールグレイズラの残骸に近付く。
ある物を探す為だ。
ゲームではグレンは低確率でレアアイテムをドロップした。
この世界でもグレンはそれを持っているんじゃないかと考えたのだ。
舞姫七式の自動収集機能を使うと目的の物が手に入った。
生きた鉱石、アダマンタイトだ。
『アカツキ! やったわね!』
フィナのラナンキュラスが近付いてきた。
俺がグレンを倒したからもう近付いても安全だと考えたんだろう。
「1人で大丈夫だっただろう?」
『もう、あんまりドキドキさせないでよね。こっちは見てて気が気じゃなかったわ』
「心配する必要は無かったんだがな」
『仲間の心配をするのは当然でしょ』
「……まあ、そうだな。美人に心配されるのは悪い気はしない」
『褒めても何も出ないわよ』
フィナはジト目でそう言った。
俺はそんなフィナを見て笑みを浮かべたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宙賊連合を殲滅した翌日。
俺とフィナは宇宙船の乗って惑星ペルシウスに向かっていた。
惑星ペルシウスはペルシウス公国の首都ルアールがある惑星だ。
この惑星にいるであろうとある人物を探す為にわざわざ足を運んでいるのだ。
「ねえ、本当にミアリーって人はルアールにいるの?」
電子書籍を読んでいると隣の席に座っているフィナが質問してきた。
俺は電子書籍を読むのを止めてフィナの方を見る。
「その可能性は高い」
「何でいるって分かるの? その人は有名人ってわけじゃないんでしょ?」
「……まあ、事前に色々調べたんだ」
そうは言うが、実際のところはゲームの知識頼りだ。
俺の会いたい人物であるミアリー・ファンクスは流浪の天才メカニックだ。
FFOではいろんなコロニーや惑星を飛び回っているNPCだった。
会おうと思って会える人物ではないが、今回に限っては会える可能性が高い。
FFOでは宙賊連合掃討イベントの直後はルアールにいる事が多かったからな。
「仮にミアリーがいたとして、アカツキはどうする気なの?」
「それはミアリーがいた時のお楽しみだ」
「教えてくれてもいいじゃない」
フィナは不機嫌な顔になる。
まあ、これに関しては説明しても分かってもらえないだろう。
フィナには我慢してもらおう。
船旅は1時間程度で終わった。
今回乗った宇宙船にはジャンプドライブが搭載されていたからな。
空間跳躍出来れば移動時間は短くて済む。
惑星ペルシウスの首都ルアールに着いた俺達は目的の酒場を目指す。
FFOではミアリーが出没する酒場によく出向いていたので場所は覚えている。
酒場に到着すると俺とフィナは入り口近くの席に座り、これ見よがしにアダマンタイトをテーブルに置いて食事を始めた。
暫く食事と会話を楽しんでいると1人の人物が俺達に声をかけてきた。
「それってもしかしてアダマンタイトかい?」
俺は近付いてきた人物をチラリと見た。
間違いなくミアリー・ファンクスである。
俺は内心でガッツポーズをした。
「ああ、そうだ。宙賊を倒した際に手に入れたんだ」
「ちょっと話したいんだけどいいかな?」
「構わないぞ」
ミアリーは「ありがとう」と言うと席に座る。
ミアリーは水色の髪でショートカットの似合う中性的な顔立ちをしている。
スレンダーな体格である事も手伝って美少年に見えなくもない。
FFOでは性別を男に間違えると不機嫌になるキャラクターだった。
「僕はミアリー・ファンクス。メカニックだよ」
「アカツキ・ヒカル。Aランク冒険者だ」
「Bランク冒険者のフィナ・クリスティンよ。まさか本当にいるとは思わなかったわ」
「ん? それはどういう意味だい?」
「気にするな。それより話したい事があるんだろ?」
俺はフィナの失言をカバーするためにミアリーに話を促す。
ミアリーは少し訝しんだが、追及はせずに話を進めた。
「僕はアダマンタイトを集めているんだ。もしよかったらそれを譲ってくれないかな」
「アダマンタイトを集めてるの? 何の為に?」
フィナは遠慮無しに質問した。
まあ、アダマンタイトをくれと言われて気軽に渡せる物ではないからな。
フィナの疑問は分かる。
アダマンタイトは二大レアメタルと言われる希少鉱石だ。
ちなみにもう1つの希少鉱石はオリハルコンという。
オリハルコンは不滅の鉱石と呼ばれ、宇宙一硬い鉱石だ。
理由は不明だが、FFOではヴェルザーク帝国が集めていた。
アダマンタイトは生きた鉱石と呼ばれ、謎の多い鉱石だ。
常に特殊なエネルギー波を放っており、合金化することで千変万化する。
「よく聞いてくれた。僕の夢は最強のコンバットフレームを作る事なんだ。それにはアダマンタイトが必要なんだよ」
「コンバットフレームにアダマンタイトを使うなんて聞いた事無いけど?」
「あったら困るよ。僕は今までに無い新しいコンバットフレームを目指してるんだ!」
「そ、そう……」
夢を語るミアリーの瞳はキラキラしていて、フィナは若干押され気味だ。
「アダマンタイトは売れば大金になる。それを譲ってくれっていうんだ。ミアリーは代わりに何をくれるんだ?」
「君達のコンバットフレームを強化してあげるよ」
「……論外ね。アダマンタイトを売ればいくらになるか分かってるの? コンバットフレームのカスタムならアダマンタイトを売ったお金でした方がいいわ」
フィナの言葉は正論である。
でもミアリーの手腕は普通じゃないのだ。
それこそアダマンタイトを手放しても惜しくないくらいには。
ミアリーはゲームだとコンバットフレームのステータスを上昇させる事が出来た。
なのでFFOのプレイヤーはミアリーを血眼になって探した。
俺もFFOで遊んでいる時は舞姫七式を強化する為にミアリーを探し回ったな。
「アカツキも同じ考えかい?」
「いや、俺はそれでいいぞ。それで釣り合う自信があるんだろ?」
「ふふ、話が分かるね。気に入ったよ。君達の機体を最高の状態にしてあげる」
ミアリーは笑みを浮かべた。
一方フィナは釈然としない顔をした。
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