0005
セントレアにある冒険者ギルドで宇宙怪獣の死体を売却した。
その後はショウと別れてホテルで一泊。
翌日、宇宙港にある大型輸送船の搭乗受付にやってきた。
新天地へ向けて旅立つ為だ。
「ペルシウス公国のセピト行きを、大人1名とコンバットフレーム1機ですね」
「はい、そうです」
「ちょっと待ちなさい」
手続きをしていると後ろからいきなり声をかけられた。
「大人2人とコンバットフレーム2機に変更してくれない?」
聞き覚えのある声にもしやと思い、振り返るとそこにはフィナがいた。
「フィナ!? どうしてここに?」
「私も戦争に巻き込まれるのは嫌なの。だから活動場所を変えようと思って」
「……そんな簡単にいいのか?」
「アカツキと一緒なら儲かりそうだからね。借金返済の為にもあなたと一緒に行動するのは悪い話じゃないと思ってるわ」
「……そうか」
「私が一緒だと迷惑なの?」
「いや、そんな事はない」
「じゃあ、一緒に行きましょう」
こうしてフィナが強引についてくる事になった。
まあ、フィナは嫌いじゃないし別にいいか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺とフィナがペルシウス公国に来て1週間が経った。
ペルシウス公国は長い歴史を持った国の1つで、昔は五大公爵家と呼ばれる貴族達が国を治める貴族国家だったが、過去の侵略戦争で1人の公王を頂点とした王制国家に変化したという変わった経緯のある国だ。
そんなペルシウス公国の支配宙域にあるコロニーの1つを俺達は活動拠点としている。
ペルシウス公国のクエストはファレンシア王国のものに比べると少し報酬が安い。
まあ、ゲームだともっと安かったので現状の報酬でも文句は無い。
文句があるとするなら俺とフィナを冒険者ギルドがちゃんと評価していない事か。
そのせいで俺達は難易度の高いクエストがなかなか受けられないのだ。
今日受けたクエストも本当なら俺達2人で充分な内容のクエストだった。
だがギルドの勝手な判断で他の冒険者達と共同でやる事になった。
幸いなのは共同でクエストをする冒険者が全員Aランクである事だろう。
足手まといは必要無いからな。
『獲物を見つけたよ。全員準備しな』
一緒に行動している烈火の翼というパーティーの女リーダーから通信だ。
確かリーダーの名前はリオンと言ったか。
ズーム機能で前方を確認すると目標の宇宙怪獣がいた。
今回の宇宙怪獣はスペースワイバーンという。
名前の通り、竜の姿をした宇宙怪獣でそれなりに強い。
ちなみに大型の竜種となると、FFOでは全滅覚悟で挑む必要がある。
『アカツキ、フィナ、手を抜いたら承知しねえからな』
俺達に高圧的な物言いをしてくるのはバウルとかいう強面の男だ。
『フィナさんは危険だったらすぐに下がってください。いざという時は私が守ります』
フィナに甘い声で語りかけるのは女好きな男だ。
名前はマルクスという。
烈火の翼は3人の冒険者で構成されている。
装備はリオンが小型の宇宙戦艦でバウルとマルクスがコンバットフレームだ。
宇宙戦艦の特徴は攻撃力、防御力、ペイロードの高さである。
母艦として優秀であり、これを持つのは冒険者の憧れの1つだろう。
勿論、宇宙戦艦にも弱点はある。
機動性は悪いし、大きい為攻撃を回避し難いのだ。
なので攻撃が集中するとあっさり沈んだりする。
『スペースワイバーンは6体だぞ』
「ああ、こちらでも確認出来た」
『予想より多いけどアカツキがいるならなんとかなりそうね』
『俺とマルクスが2体ずつ相手をする。お前らは2人で2体だ』
バウルに命令されるのは少し気に入らないが、この世界のAランクがどのくらいの実力なのか興味があるので了承した。
バウルの指示通り、各自受け持ったスペースワイバーンを相手にする。
各個撃破がこの世界の定石なのだ。
マルクスとバウルは、スペースワイバーンを上手く引きつけて戦っている。
リオンの援護射撃は的確で、それが戦闘の安定に繋がっているみたいだな。
この辺りは流石Aランク冒険者といったところか。
「武装転送。TYPE-BRα」
俺もあいつらに負けていられないので攻撃を開始する。
フィナが牽制を行い、スペースワイバーンの動きが止まったところにビームを撃つ。
TYPE-BRαのビームはスペースワイバーンにも有効だ。
放ったビームがスペースワイバーンの胴体を撃ち抜き、その命を散らす。
スペースワイバーンの鱗程度では防ぎようがない。
「まずは1体」
『もう1体もよろしく!』
フィナのラナンキュラスがシールドでスペースワイバーンの爪を防いだ。
動きを止めたスペースワイバーンに狙いを定める。
ロックオンした瞬間、俺は操縦スティックのトリガーを引いた。
次の瞬間、スペースワイバーンの首が吹き飛ぶ。
これで2体のスペースワイバーンは倒すことが出来た。
「こちらの受け持ったスペースワイバーンは撃破した。助けは必要か?」
『はあ!? もう倒したのかよ!』
バウルが驚きの声をあげた。
『助けはいらないけど、早く終わらせたいし援護してもいいよ』
マルクスは素直じゃないが援護要請を出した。
それならまずはマルクスの受け持ってるスペースワイバーンを1体倒す事にしよう。
マルクスが戦っている宙域は少し遠い。
だからTYPE-BRαをチャージして最大出力でビームを放った。
ビームは吸い込まれるようにスペースワイバーンの胴体に直撃。
当然、スペースワイバーンはビームに耐え切れず即死だった。
この後、バウルの戦っていたスペースワイバーンも1体倒した。
バウルは文句を言っていたが聞き流した。
これで残ったスペースワイバーンは2体だけだ。
全部の獲物を獲ってしまうと恨まれるだろうから自重しておいた。
相手が1体だけならマルクスもバウルも危なげなく勝つ事が出来た。
こうして俺達は共同クエストを苦も無く達成したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺達がペルシウス公国で活動を始めて1ヵ月が経った。
ファレンシア王国はヴェルザーク帝国に滅ぼされる一歩前といった状況らしい。
ファレンシア王国はFFOだと大型イベントで滅びた国だ。
どうやらそれはこの世界でも変わらない運命のようだな。
まあ、ゲームの内容通りなら滅びても残党が頑張るんだろうけどな。
確か王国残党はセレン・ファレンシア王女を担ぎ上げて戦い続けるはずだ。
この世界でもそうなる可能性は高いだろう。
「なあ知ってるか? 帝国の死神って奴が最近現れるんだってよ」
「ああ、知ってる。噂じゃ四大将軍並に強いんだってな」
「何で帝国にばっかりそんな強い奴が集まるんだろうな?」
「そんなの俺が知るかよ」
そんな噂話が聞こえてくる街を俺とフィナは歩いていた。
今日は冒険者ギルドに呼び出されているのだ。
「急に私達を呼び出すなんて……もしかして緊急クエストかしら?」
「たぶんそうだろうな」
「クエストの内容はやっぱり戦争絡みだと思う?」
「その可能性はある。出来れば帝国との戦いは避けたいが……緊急クエストだと断る事は出来ないんだよな。戦争には関係の無いクエストである事を祈るしかない」
話をしている間に冒険者ギルドに着いた。
建物内には多くの冒険者が集まっている。
その中には共同クエストで知り合った烈火の翼の3人組がいたので挨拶しておく。
暫く待っていると大型モニターに男が映し出された。
『私はペルシウス公国の公子、ディアス・ペルシウスである』
貴族かと思っていたら王族だった。
わざわざ王族が説明するなんてそれだけ重要なクエストという事か。
『諸君らに集まってもらったのは緊急クエストを依頼するためだ』
予想通り緊急クエストだな。
肝心なのはクエストの内容だが……どうなる?
『クエストの内容は大規模な宙賊の撃滅だ。現在、宙賊は連合を組んでおり、その数は一軍に匹敵する。このままでは近隣のコロニーに被害が及ぶだろう。そうなる前に宙賊連合を叩く必要があるのだ。これは国を守るための正義の戦いである』
王族の男はそう力説するが、冒険者の食いつきはいまいちだ。
まあ、冒険者は金を貰って戦う傭兵みたいな連中だからな。
報酬の話をしないと盛り上がらないだろう。
『今回のクエストは倒した宙賊の数だけ報酬を与える。よく励むがよい』
報酬は早い者勝ちというわけか。
こう言えば冒険者達も奮起するだろう。
なかなか冒険者の扱いが分かっている王族だな。
「今回は帝国絡みじゃないな。少し気になる事もあるが……俺達も参加するか」
「ええ、もちろんよ」
俺とフィナは緊急クエストに参加する事にした。
緊急クエストは時間との勝負だ。
特に今回のように人間相手だと急ぐ必要がある。
情報はあっという間に拡散するからだ。
もたもたしていると相手に逃げられてしまう。
俺達冒険者は宇宙港に用意された輸送船や宇宙戦艦にコンバットフレームと共に乗り込み、目的地まで運んでもらう事になった。
目的地には4時間くらいで辿り着いた。
目的の宙域に着いたらすぐに冒険者達は輸送船や宇宙戦艦から飛び出す。
俺も舞姫七式のエンジンを起動させて、輸送船の外に出る。
今回のクエストはまず宇宙戦艦の主砲で宙賊連合を攻撃。
相手がそれで恐れて逃げるようなら包囲殲滅。
戦闘する意思があるなら正面から迎え撃つというものだ。
冒険者達は宙賊連合のアジトのある小惑星を四方から攻めるようになっている。
これなら相手も簡単に逃げる事は出来ないだろう。
『作戦開始だ! 諸君らの健闘に期待する!』
総大将のディアス・ペルシウス公子の号令で作戦が開始された。
一斉に攻撃を始める宇宙戦艦。
その砲火は凄まじく、小惑星の形が変わるんじゃないかと思わせる程であった。
数分間の砲撃の後、小惑星から宙賊達のコンバットフレームが出てきた。
動きからすると戦闘の意思はなさそうだ。
『ここからが私達の出番ね。いくわよアカツキ!』
「ああ、しっかり稼ぐぞ」
俺はTYPE-BRαを転送。
それから逃げ惑う宙賊のコンバットフレームをロックオンする。
狙われた宙賊は回避行動すらしない。
そんな事をする余裕が無くなっているのだろう。
TYPE-BRαのビームが宙賊に当たった。
すると相手のコンバットフレームは盛大に爆発した。
それを見た宙賊は更に混乱しただろう。
「よし、この調子でどんどん落としていくか」
フィナと連携して宙賊を次々と撃墜していく。
戦場は乱戦となり、敵味方が入り交じる。
間違っても味方を攻撃しないように識別信号には気を付ける。
戦闘開始から10分程でクエストは終盤に突入。
順調に宙賊の残党が狩られていく。
その様を眺めていると、ある情報を思い出した。
それはゲームでの出来事なのだが……まさかこの世界でも起こるのか?
『この辺の宙賊はほとんどやっつけちゃったわね。どうする? 他の宙域に向かう?』
「……いや、気になる事があるんだ。俺達はここで待機しよう」
そうだ、俺はこの緊急クエストを知っている。
FFOであった宙賊連合掃討イベントにそっくりなのだ。
そういえばイベントの舞台もペルシウス公国だった。
もしゲームのイベントと同じなら最後が面倒だぞ。
「フィナ、最後まで気を抜くなよ」
『言われなくても分かってるわよ』
フィナがそう言うのと同時に遠くで大きな爆発があった。
あれは俺達の担当している宙域とは別の場所だ。
ズーム機能で見てみると宇宙戦艦が爆沈している最中であった。
「ボスの登場か」
爆炎の中から1機のコンバットフレームが姿を現した。
宇宙戦艦を沈めたのはあのコンバットフレームだろう。
そのコンバットフレームは重装甲で紫と黒のカラーリングだった。
右腕には巨大なビームキャノンを担ぎ、左手にはマシンガンを装備している。
確か機体名はアールグレイズラ。
あれは高額賞金首の宙賊グレン・ゾロエ。
数多くのプレイヤーに辛酸を嘗めさせてきたボスキャラだ。
『嘘でしょ!? あんな化物がいるなんて!』
フィナは叫んだ。
確かにフィナの常識で見ればグレンは化物だろう。
何しろコンバットフレームが単機で宇宙戦艦を沈めたのだから。
FFOではコンバットフレームの攻撃力がインフレを起こしていた。
だからゲームだと宇宙戦艦の撃沈は容易だったが、この世界ではまだ違う。
この世界では宇宙戦艦は最強の象徴なのだ。
それを呆気なく沈めて、更に周りの冒険者達を一蹴しているアールグレイズラ。
この世界の人間から見ればまさに一騎当千の化物だ。
……だが、FFOで上位プレイヤーだった俺にしてみれば、あれはイベントの周回プレイで何度も倒した少し強い雑魚キャラに過ぎない。
攻略法は既に知っている。
グレンというボスはただ相手にするのが面倒なだけなのだ。
「あいつは俺がやる。フィナは手を出すな」
『1人じゃ無茶よ!』
「いや、そうでもないさ」
俺は舞姫七式の翼状のフレキシブルブースターを全開にする。
そして俺はアールグレイズラに向かって飛ぶのだった。
捕捉
アールグレイズラの見た目
○ンダムのリック○ムをイメージしてください
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