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 コロニーを散策していると自然と情報が耳に入ってくる。


 どうやら俺のいるコロニーはファレンシア王国に属しているようだ。

 それ知った俺は一抹の不安を覚えた。

 というのもファレンシア王国はFFOだと大型イベントで滅びた国だからだ。


 俺は情報収集を兼ねてコロニーにある冒険者ギルドを訪ねる事にした。

 現在の状況がどうなっているのかを知りたい。


「なあ知ってるか? 帝国は四大将軍を戦争に参加させる気らしいぞ」


「それって与太話だろ。帝国だって切り札を簡単に出すもんかよ」


「でも、もし四大将軍が戦場に出てきたら王国もヤバいかもしれないぞ」


「大丈夫だって。最後は王国が勝つよ」


 コロニー内を移動していると市民達の世間話が聞こえてきた。


 どうやらこの世界にも四大将軍がいるらしい。


 四大将軍とはFFOにおける最強のNPCである。

 イベントで四大将軍が出てくる時は決まって奴らがボスを務めていたくらい強い。

 あいつらを倒すには束になって戦うしか手はないだろう。

 間違っても個人で戦いを挑んでいい相手じゃない。


「とりあえず、ヴェルザーク帝国と敵対するのは避けないといけないか」


 俺はそう判断して、冒険者ギルドに向かう足を速める。


 歩くこと15分。

 特にイベントも起きずに冒険者ギルドへ辿り着いた。

 まずは冒険者ギルドがゲームと同じ仕様なのか確認しよう。


「すみません。聞きたい事があるんですけど」


「はい、なんでしょうか?」


 俺は受付の職員に質問してみた。

 質問したのはこの冒険者ギルドで何が出来るのかだ。


 ギルド職員は俺の質問に少し怪訝な表情を浮かべたがきちんと答えてくれた。

 どうやら冒険者ギルドはゲームと同じ事が出来るようだ。

 今はそれが分かればいい。


「さて、次は王国の近況でも調べるか」


 冒険者ギルドに設置されたパソコンでファレンシア王国の近況を調べた。


 現在、ファレンシア王国はヴェルザーク帝国と戦争中のようだ。

 まあ、この戦争については市民達が話していたし、知っている内容だな。


 戦況はファレンシア王国が若干劣勢のようだが、まだ大局が決まる程ではない。

 だが余裕はあまり無い状況なので、今後も戦況は常に把握しておかないとな。

 FFOだとファレンシア王国は滅びる運命にある国だから尚更だ。


「最後にあれも調べておくか……」


 俺はパソコンで有名な冒険者を検索してみた。

 この世界に俺以外の転生者がいるのか知りたかったのだ。


 調べた限り、FFOでの有名プレイヤーの名前は無かった。

 とりあえず俺の知れる範囲では転生者の存在は確認出来ない事が分かった。


 調べる事は調べたのでパソコンから離れて再び受付に向かう。

 今日の宿をギルド職員に教えてもらう為だ。


「すみません。この近くで泊まれるホテルはありますか?」


「そうですね……でしたらこちらのホテルはいかがでしょうか?」


 ギルド職員はタブレットでいくつかのホテルを紹介してくれた。

 宿泊費はどれも高めだったが、冒険者としては妥当な値段らしい。


 俺はギルド職員にお礼を言って今日の宿へ向けて歩き出した。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 翌日、俺は再び冒険者ギルドを訪れていた。

 冒険者の仕事であるクエストを受けるためだ。

 この国のクエストがどの程度のものなのか知るのは早い方がいいだろう。


「クエストを受けたいので、クエストの内容を閲覧させてください」


「失礼ですが冒険者ランクを確認してもよろしいでしょうか?」


 ギルド職員に冒険者ランクの提示を求められた。

 網膜スキャンで個人IDを読み取ってもらい、冒険者ランクを確認してもらう。


「アカツキ・ヒカル様……Aランクですね。では受けられるクエストはこちらになります」


 ギルド職員はタブレットでクエストを見せてくれた。

 それを見て少し気になる事がある。

 どの依頼も妙に報酬が高いのだ。

 FFOだと考えられないくらいの報酬が提示されていた。


「本当にスペースシャークの討伐報酬はこの額なんですか?」


「はい、間違いありません」


 どうやら間違いじゃないようだ。

 スペースシャークと言えば宇宙怪獣の中でも雑魚敵に分類される。

 それなのに報酬は高いのだ。

 この国では雑魚でも高い金を払って駆除しているのだろうか?

 ……まあ、俺にとっては都合が良いし別にいいか。


「分かりました。じゃあこのクエストを受けます」


「失礼ですが、クエストは1人で受けられるのですか?」


「そうですけど……何か問題でも?」


「スペースシャークは群れで行動している事が多く、Aランクでもパーティーを組んでの討伐を推奨しています。誰か一緒にクエストを受ける冒険者はいませんか?」


「え? パーティーでの討伐を推奨? 冗談でしょ。スペースシャークなんてCランク1人でも余裕で討伐出来ますよ」


「……このクエストは重要度:大となっております。クエスト内容を侮られるような冒険者に受注させるわけにはいきません」


「問題無いのでクエストを受けさせてください」


「特別な理由が無い限り、達成できない場合違約金が発生しますよ」


 スペースシャークなんて俺の敵じゃないんだがな。

 それをギルド職員は理解してくれない。

 俺はAランク冒険者なんだから少しは信用してくれてもいいと思うんだが。


「大丈夫です。絶対討伐するので」


「……そこまで言われるのでしたら、今回のクエストは調査依頼とします。Bランクの冒険者を1名同行させるのでスペースシャークの群れの規模を調べてください。数が少なければ討伐されても構いませんが、数が多い場合は調査のみでお願いします」


「同行者なんていらないんですけど……」


「駄目です。冷静な判断が出来る冒険者を同行させます」


「……分かりました」


 俺は渋々その提案を受け入れて、同行者を待つ事になった。


 同行する冒険者は1時間くらい待つと現れた。

 活発そうな赤髪のスレンダーな美人が相手だ。


 冒険者の名前はフィナ・クリスティン。

 数年でBランクにまで昇格した若手のホープらしい。

 銀行からコンバットフレーム購入の資金を借りており、現在も返済中だそうだ。


 合流した俺とフィナは宇宙港にやってきた。

 ここで俺達は自分のコンバットフレームを見せ合った。


 フィナのコンバットフレームはラナンキュラスという機体だ。

 ラナンキュラスの外見は薄緑色で全体的に角張っている。

 武装は見る限りビームライフルにビームサーベル。

 それと左腕にシールドを装備している。


 ラナンキュラスはFFOだとDランクくらいのプレイヤーに人気だった。

 つまりBランクのフィナにとってラナンキュラスは力不足なのだ。


 フィナは自信満々に自慢してきたが、俺には苦笑いする事しか出来なかった。

 どうしてラナンキュラスでここまで自慢出来るのか理解に苦しむ。

 自慢したいのならフルカスタムしたハイエンド機を用意すべきだ。


「私のラナンキュラスに言葉を失ったようね。あなたの機体は随分と趣味的だけど、それ本当に戦闘出来るの? 観賞用のコンバットフレームじゃないでしょうね?」


 フィナは俺の舞姫七式を見た途端、訝しむような顔になった。


 まあ、それを咎めたりはしない。

 ゲームで遊んでいた頃も俺の舞姫七式を理解してくれない連中はいた。

 彼女も理解してくれないのならそれはそれでいい。


 俺の舞姫七式は強く美しい。

 それは事実だからな。


「舞姫七式だ。こいつならどんな機体にも負ける気がしないと言っておく」


「ふーん……そう。じゃあAランクの腕前を見せてもらおうかしら」


 フィナはそう言うとラナンキュラスに乗り込んだ。

 俺も舞姫七式に乗り込む。


 そして俺達はコロニーを出発してスペースシャークの生息宙域まで移動した。


 移動時間はおよそ2時間弱。

 道中は何事も起こらなかった。


 スペースシャークは群れで泳ぐように移動している。

 レーダーで調べたところ、スペースシャークの数は10体だった。


『スペースシャークが10体。せっかく来たけど撤退するしかないわね』


 フィナは即座に撤退しようと言う。

 確かにラナンキュラスじゃスペースシャークの相手はきついだろう。

 だが、俺と舞姫七式にとってはスペースシャークなど敵ではない。


「お前は待機していろ。ここは俺が片付ける」


『スペースシャークの数が多いなら撤退するって話でしょ』


「数が少ないなら討伐していいはずだ。たった10体なら少ないだろ」


『ちょっと待ちなさいよ! 攻撃しちゃ駄目だってば!』


「武装転送。TYPE-BRα」


 俺はフィナの言葉を無視してTYPE-BRαで攻撃した。


 TYPE-BRαのビームは真っ直ぐに飛んでいき、スペースシャークに当たる。

 するとスペースシャークの1体は胴体を撃ち貫かれて呆気なく死んだ。


 スペースシャークはその名の通りサメに似ている宇宙怪獣。

 しかし知能はサメよりもあるらしく、集団でこちらに向かってきた。


 俺は舞姫七式を加速させ、スペースシャークの群れに突撃する。


「今回は格闘戦を試してみるか。武装転送。TYPE-BS」


 舞姫七式の左手に現れたのはビームサーベル。

 ビームサーベルはFFOでもプレイヤーに人気の武器だ。


 実体剣に比べると斬撃の威力に劣り、エネルギー消費を気にしないといけない武器だが、装備枠を圧迫せずにどんな機体にも組み込めるのが人気の理由だった。


 舞姫七式に装備されたビームサーベルは威力重視だ。

 その破壊力は並のビームサーベルを凌駕する。

 ちなみにゲームでの正式名称はハイパービームスラッシャーという。

 俺のはカスタムされているからTYPE-BSと呼んでいる。


「まずはお前から死ね」


 先頭の突出しているスペースシャークに狙いを定めてタイミングを見計らう。


 舞姫七式がスペースシャークとすれ違う際にTYPE-BSを一閃。

 堅牢な装甲すら切り刻むビームの刃に斬られればスペースシャークなど即死だ。


「よし、いけるな」


 確かな手応えを感じた。

 これなら大丈夫だと考えた俺は通り過ぎていったスペースシャークを追いかける。


 次々に斬られていくスペースシャーク。

 残った5体のスペースシャークはこのままじゃ不味いと感じたのだろう。

 左右に分かれて一斉に攻撃してきた。


『危ない! やられるわよ!』


 フィナが叫んだ。


「いや問題無い」


 俺はそう言うと舞姫七式の本領を発揮させた。


 舞姫七式の右手に装備されたTYPE-BRαが火を噴く。

 舞姫七式の左手に装備されたTYPE-BSが煌く。


 圧倒的な暴力によってスペースシャークの群れはここに潰えた。


「……スペースシャーク相手で本気を出さないといけないなんて恥ずかしいな」


 今回は舞姫七式の性能でゴリ押した。

 俺はゲームの時のように舞姫七式を扱いきれていない。

 まだまだ操縦が甘いな。


『そんな……スペースシャークの群れを一瞬で倒すなんて』


 フィナの呟きが通信越しに聞こえた。


「どうだ。余裕だっただろう?」


『何よその規格外のコンバットフレームは……』


 規格外か。

 ラナンキュラスの性能を知っていれば確かに舞姫七式が規格外に見えるかもな。


「言っただろ。こいつは舞姫七式だと」


 俺はコックピットで自慢気な笑みを浮かべた。










 捕捉


 ラナンキュラスの見た目

 ○ンダムの○ェガンをイメージしてください

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