幕間 そのころ…
五人が魔王城で卵を探している頃、おれは、沼の上の屋敷の中で、昼食を食べたリビングルームの長椅子に身体を横たえ、アイマスク代わりにタオルを顔にかけて、惰眠をむさぼっていた。
夢のなかで五人に囲まれて、いちゃいちゃしていたとき、おれの頭の中に
おれは、顔からタオルを取ると、警報の原因を調べるため、
目の前に楕円形の鏡のようなものが出現し、そこに原因となる場面が映し出される。おれは、それを寝ころびながら眺めた。
鏡に映し出されたものは、玄関の前に立つ二人の男。
二人とも革製のベストと丈夫な布で織られたズボン、長年履き続けたであろう薄汚れたブーツ姿で、腰には短剣とポーチをベルトにぶら下げていた。ベストの下は、
お世辞にも人相のよいとはいえない二人組は、玄関の前でこの屋敷の中を伺っている。
一目で盗賊と思える二人は、玄関の扉をそっと開けると、慎重に中に入ってきた。ゆっくりとした動作は、屋敷の中に人がいないか、警戒しているのだろう。
おれは、眠りを妨げられた憤懣と、厄介事にかかわりたくないという思いから、屋敷の
殺すのは、更なる面倒になりそうだから、追い出すだけでよいと思い、そうした指示をだす。
セキュリティからの了解の返答を受けると、おれは再び長椅子のうえで眠りにつき、先ほどの夢の続きをと願った。
「なかなかの金持ちの家のようだな。」
痩せて、細長い顔にちょび髭の男が、三番目に開けた部屋の中を見ながら、しみじみと感想を述べた。
「ラウル、早いとこお宝見つけてずらかろうぜ。なんか、気味悪いよ、この家。」
もうひとりの丸顔に、もみあげの長い男が、ラウルと呼んだちょび髭の男の裾を引っ張りながら語りかけた。
「臆病だな。ガンツは。大丈夫だよ。おれの
ラウルとガンツは、冒険者と名乗りながら本業は盗人だ。
依頼を受けながら金持ちの貴族や商人の家から金品を盗んでいる。すばやく金品を盗むことや被害額が些少であることから、被害者から訴えられることがあまりない。しかも、街から街、国から国へと移動し、同じところで
そんな二人がこの屋敷に目を付けたのは、偶然だ。
仕事をしようとした貴族領が、魔王の軍勢に襲われ、大混乱になり、仕事どころではなくなり、命からがら逃げだした。そして、できるだけ魔人たちの目から逃れるために、森の中を逃走したのだが、その途中の沼地でこの屋敷を発見したのだ。
はじめは、幻かと思ったが、手に触れられる現実のものと知ると、とたんに盗人根性を発揮し、この屋敷の中に侵入したわけだ。
鍵もかかってない屋敷に、罠を警戒したラウルだったが、屋敷の中に入っても何も起こらない。ラウルのもつ
この能力があるからこそ、ラウルはいままで捕まらずにすんだ。ゆえにその能力には絶対の自信を持っていた。
ラウルは、静かに部屋の中に入っていく。そのあとに、ガンツが恐る恐る続いた。
ここは衣裳部屋のようだ。様々な衣装がクローゼットの中に納まっている。
「ガンツ、あたりだぜ。」
ラウルがタンスの引き出しを開けて叫んだ。
引き出しの中には指輪やネックレス、サークレットなどが収められている。一目見て高価な宝物とわかる品々だ。
「ラウル、やったな。」
ガンツは、ラウルの肩越しに引き出しのなかの宝物に目を見張った。
「袋を出せ。全部、持っていくんだ。」
ガンツから袋を受け取り、引き出しのなかの装飾品を手に取ろうとした時だった。
「
聞きなれない言葉と金属質の声が、二人の耳に届いた。
「えっ?」
二人が同時に聞き返したとき、目の前の部屋の光景が消え、まったく別の光景が広がった。
遠くに森と山が見える。上空は一面の青空。そして、足元は緑色に染まる湖。
戸惑う二人の身体に急速に重力がかかる。
そのまま、湖に落下していく。
水面に叩きつけられる衝撃による痛みと、水中に落ちていく息苦しさで二人は、すぐに両手両足で水をかき、水上へと浮き上がろうとした。
多少というよりかなりの量の水を飲みながら、ラウルとガンツは水面に浮き上がり、すぐに周りを見渡した。
周りにはなにもない。
侵入したはずの屋敷は影も形もなく、ただ、満面の水をたたえた湖とそれを囲む森林が見えるだけだった。
「侵入者の排除を確認。二十キロ先の湖に転送しました。」
おれの頭のなかにセキュリティの報告が響く。
それを煩わしく思いながら、おれは寝返りをうった。
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