第8話 依存症

 私のお客さんには依存症の人が多数いる。何で病院じゃなくて、私の所に相談に来るかと言うと、カウンセリングが高すぎるからだ。

 うつ病の人でさえ、病院で治療しているのは3割くらいしかいないと言われているとか。みんな精神科に行きたがらない。プライドが邪魔しているんだろうか。それとも、世間体?


 依存症は数知れずある。ネットゲーム、スマホ、SNS、セックス、アルコール、タバコ、買い物、パチンコ、ギャンブル、投資、睡眠薬、安定剤、鎮痛剤、風邪薬、シンナー、麻薬、過食、カフェイン、拒食、ダイエット、借金、自傷行為、放火、万引き、窃盗、仕事、運動、恋愛etc...。程度の差こそあれ、人間は何かしら依存していた方がいいという専門家もいる。依存するものがあれば、ストレスを発散できるからだ。


 私も、過去に、SNS、買物、過食などの依存症になったことがある。SNSは時間の許す限り見ていたし、買い物も毎日出かけてしまうほどだった。過食は食べては吐き、また食べてと一日中何かを食べていたと思う。働いていればこういうことをやらなくて済んだかもしれないけど、働く必要がなかったから、歯止めがきかなかった。


 私の店は夜7時までだけど、その後でケータリングサービスを取って、パーティーをしたりする。依存症の人同士のマッチングだ。例えばセックス依存症の人同士をあえて引き合わせる。お互いは相手がどういう依存症か知らない。もちろん、彼らも初対面の人にはそんなことは言わない。次第に打ち解けて来るにつれて、お互い似たいような悩みを持っていることを知って意気投合する。


 私のカウンセリングルームに来る人は、まだちゃんとしたケアを受けていない人が多いから、ここで初めて同じような依存症の人に出会う。


「どうしてカウンセリングに?」

「実は依存症で」

「私も!」となる。

 大体みんな2次会に繰り出す。その後は、一緒に依存行為をするようになる。軽い人が、より重い人に合わせる。それで、どんどん悪化する。それが狙い。


 でも、過食なんかは、こんな風になりたくない、、、と感じて、自分では過食を止めることもある。そういう場合は私的には失敗。後から、『おかげでやめられました』なんて言われても嬉しくない。過食の人は吐きすぎて前歯が溶けたり、指に吐きだこができてたり、太ったり、痩せたりしていくのが面白い。


 依存症がもっとひどくなって、借金が膨らんだり、仕事をやめてしまったりすると、私はもっと嬉しい。


 この間、マッチングしたセックス依存症の二人は、どちらも会社に行かなくなってしまって、無職になったそうだ。二人が楽しくセックスに溺れているかというとそうでもない。お互いを失いたくないという気持ちが強いし、金銭的な理由から、むしろ不安定になる。周囲が別れさせようとすると、駆け落ちしたり、家族を攻撃したりする。心中なんかするのは、こういう人たちなんじゃないかと思う。


 セックス依存症人っていうと、独身かなと思うけど、男の方は既婚者で家庭があった。前山さん。48歳。奥さんは前々から、風俗や出会い系を利用する旦那に嫌気がさしていた。それなのに、今度は近所に住んでる事務系OLの古馬さんの部屋に入り浸るようになったから、奥さんは子どもを連れて出て行ってしまった。古馬さんは収入がなくなってしまい、マンションを解約して、前山さんの家に転がり込んだ。


 一緒に暮らすようになると、2人はうまく行かなくなった。お互いの嫌なところが見えて来たからだろう。どちらも仕事をしておらず、立ち行かなくなるから、喧嘩が増える。そして、夜中に大騒ぎして、近所の人が通報。2人はやっぱり別れて、家も売りに出された。多分、夫婦は離婚だろうな。前山さんは50近いし、もう仕事が見つからないと思う。前は大企業に勤めてたけど、次はどんな仕事をするんだろうか?


 清掃とか、警備とか、タクシーの運転手?仕事はいくらでもある。養育費は払えるんだろうか。別れた奥さんも苦労する。専業主婦なんてムカつく。人の稼ぎで楽してる女。


 大企業の管理職の席が空いたら、別の人にチャンスが回って来る。職場の人たちはラッキーだと思ってるだろう。

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