第3話 小説 ノンフィクション

小説:『カウンセリング・ティールーム』

ジャンル:『人間ドラマ』

キャッチコピー:『趣味は人間観察~人間って面白い』

紹介文:

『全部嘘偽りのない実話です。ご本人が見ることはないと思いますが、念のため苗字は伏せました』


第一話


 私は村松映子。55歳。独身。職歴なし。子供なし。男性とお付き合いした経験は0。こんな私だけど、自宅1階を改装して、カウンセリングルームを始めることにした。父親が亡くなって、細かいことを言う人がいなくなってからは、お金を好きなように使えるようになった。

 

 私が一番やりたかったのは、自分のお店を持つこと。喫茶店をやりたかったけど、コーヒー一杯で何時間も粘られるのはたまったもんじゃない。それで、趣味と実益を兼ねてカウンセリングを受けられる喫茶店にした。趣味で集めたティーセット。お気に入りの家具、犬もそこに放そうと思う。犬がいたらお客さんもくつろげる。お客さんがいない時は、『カクヨム』に投稿する作品を書く。


 私の心理学歴は長い。高校時代にクラスでいじめに遭って神経症になってからは、心理学の本を読み漁った。大学では心理学を学びたかったけど、心理学科は倍率が高くて落ちてしまった。

 しかし、それからもずっとカウンセラーになりたいと言う気持ちが捨てきれなかった。私自身、カウンセリングを受け続けてもう40年近くなる。私ほどカウンセラーに金を払った人はいないんじゃないかと思うくらいだ。それに、その辺の心理カウンセラーなんかより人生経験は豊富だし、人にアドバイスするのは得意だ。


 2021年12月1日開店。

 

 親戚や父の知り合いにお店をオープンすることを伝えたら、開店祝いの花が沢山届いた。お店の前に飾るとまるでクラブの新装開店みたいだ。


 一番最初のお客さんは、近所の噂好きの主婦。K田さん。うちの数軒隣に住んでいる人だ。昔からこの辺に住んでいるみたいで、町内では一番貧乏なんじゃないかと父が言っていた。相変わらず、お金のなさそうな格好をしている。何十年前の服だろう。


「あら~。松村さん、お久しぶり!すっごく素敵なお店じゃない。工事している時から気になっててね。ずっと来てみたいと思ってたのよ」

「ありがとうございます」私はとびきりの営業スマイルで返す。

「お父さんはお気の毒だったわね。お亡くなりになったのは、今年の1月だったかしら・・・」

「ええ。でも、もう年ですから」

「お父さんにはねうちの父もすごくお世話になってね」

 こんな人からお金を取るのは申し訳ない。彼女にしたら2,000円だって大金だろう。今回はサービスすることにする。彼女は、確か65歳くらい。結婚したけど、離婚した出戻り女だ。子どもの親権は旦那が持っていた。母親が子どもの親権者になれない理由としては、ネグレクト、酒乱、ギャンブル中毒、借金、暴力、不倫などがある。この人もよっぽどの理由があるんだろう。

 離婚後は、派遣とか飲食店でバイトして食いつないでいるらしい。今は90代の母親と2人暮らし。どうやって税金払ってるのか不思議でならない。もうすぐ、家を売って越すんじゃないかと思ってる。早くいなくなって欲しい。


 それからしばらくは近所の人ばっかりだった。

 椅子もないのに、3人もまとめてやって来た。どうせ内部情報を聞くために来てるんだ。

「映子ちゃん、今何してるの?」

「ご覧の通り、喫茶店のオーナーです」

「心理カウンセラーやってたんだ?」

「はい」

「病院とかで?」

「はい。そうです。銀座にあるメンタルクリニックで。結構長いので独立しました」

 ついつい見栄を張ってしまった。私は働いたことなんかないのに。

「すごいわねぇ」

「立派になったわねぇ・・・ご近所に宣伝しとくわ」

「映子ちゃん、結婚は?」

「あ、今、主人は今海外赴任中で」

「あら、すごい。商社マンとかかしら?」

「ちょっと違うんですけど、貿易関係です」

「素敵。こういうインテリアとかも・・・もしかして?」

「これは違うんですよ。主人はジュエリーとかもっと細かい物をやってて」

「あら、そ~。ほんと素敵ね」

「お子さんは?」

「2人いて、今、どちらもアメリカに留学してます」

「すご~い。優秀なのね」

 私はついついでっち上げた、偽の家族構成を正確に覚えなくてはいけない。それが、今後のデフォルトになる。


 ご近所以外で初めて客が来たのは、2021年12月4日だった。男の人だ。何しに来たんだろう・・・もしかして、強盗かもしれない。名前はS田と名乗る。近所に住んでいるらしい。その割には服が貧乏臭かった。お茶はハーブティーをオーダーした。今流行りのカフェイン断ちだろうか。インテリ風を吹かせていてキモい。


「僕はなかなか結婚できなくて・・・」

 独身なんだ・・・年は40代前半くらいだろうか。その年で独身だと一生独身の可能性が高くなる。チャラそうだから、意外だった。

「え~。全然そんな風には見えませんけどね。もてそう」

 取り敢えずお世辞を言う。 

「全然。軽そうに見られてしまって・・・」

「軽そうには見えないですけどね。でも、イケメンはもてるから浮気しそうって、女は思っちゃいますよね」

「偏見ですよ」

 お世辞なのに否定しない。自分をイケメンだと思っているタイプだ。そして、女はみんな俺に気があると思ってるような男だ。

「でも、実際は違うんですか?」

「浮気なんてしたことありませんよ・・・」

「最後に彼女がいたのはいつですか?」興味本位で尋ねる。

「今まで女性と付き合ったことがなくて・・・」

「え~!」このルックスで童貞なんて意外すぎる。

「引くでしょう」

「引きました」

 S田さんは笑った。

「でしょ?」

 笑顔が素敵だった。普段何してる人だろう・・・。それからは個人情報を聞きまくった。ここに来たのは、実はナンパ目的だったみたいだ。ガラス越しに私を見てお近づきになろうと思って入って来たそうだ。私は昔から一目ぼれされることが多い。女子大生の頃なんか、K大生にストーカーされたほどだ。

「実は私も一回も男の人と付き合ったことがなくて」

「え?ここは旦那さんの家じゃないんですか?」

「あ、聞きました?」

「駄目ですよ。独身のふりしちゃ」

 あ~あ。残念。でも、この程度で妥協しちゃ駄目。もっと、これからいい男が来る。

「お茶お代わりします?」

「はい。おいしいですね。これ。市販品ですか?色々買ってみたけど、こういう味は初めてで」

「これは私のオリジナルなんです」


 私はキッチンに行って、お代わりのお茶を作る。ティーカップは新しいのにしよう。S田さんが口をつけていた所を舌で舐める。イケメンの唾液は美味しい。


 お茶を調合する。私のオリジナルレシピ。蛾の芋虫の糞で入れたお茶だ。

 彼はまた来てくれると思う。私にメロメロだから。


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