第118話 わがままクソ姫の浸透率がやばい
ノースに着いた俺達はゲルドと別れ、ノースの村の入口に歩いて向かう。
俺達が歩いていくと、1人の騎士が兜を脱ぎ、こちらにやってきた。
「ロストのレティシア様でしょうか?」
騎士はレティシアの前に跪き、聞いてくる。
「ロスト王の四女、レティシアです」
レティシアが堂々と答えた。
ってか、お前、四女なん?
「おー! やはり! お待ちしておりました! そちらがイレーヌ殿ですね?」
騎士はレティシアのすぐ後ろに控えているイレーヌを見る。
「そうです。私の騎士であるイレーヌです」
「さようですか、ということはあなたがリヒト殿か…………」
騎士は立ち上がると、俺を見てきた。
「さようです。詳しいですね?」
多分、伯父が説明してくれているんだろうが、一応、聞いてみる。
「ロスト王より話を伺っているのです。女神様の使者として、ロストに行き、レティシア様をここまでお連れする使命を持っていたとか…………さぞ長旅でしたでしょう。教会を代表し、感謝します」
「いえ、女神様の使者に選ばれたことは名誉であり、新たなる巫女の誕生に携われたことは誇りです」
当たり前だが、まったくそんなことは思っていない。
本音はめんどくせーなー、だ。
「おー! 素晴らしい若者だ! さすがは女神様の使者に選ばれることはある…………しかし、随分とお早いですね? 到着はもうちょっと後になると思っていたのですが?」
「それについて、レティシア様からお話があるそうです」
俺はちょうどいい話の振りが来たと思い、レティシアに振った。
「何でしょうか?」
俺がレティシアに話を振ったので、騎士はレティシアを見る。
「実は私の未来視にある光景が浮かんだんです。それについて、ここの責任者と早急に話がしたいのです」
「未来視で…………かしこまりました。すぐに責任者のもとへ案内しましょう…………リヒト殿、ここまでありがとうございました。ここからは我々が責任をもってレティシア様をお預かりします」
あらら、俺達は入れてくれないようだ。
まあ、立入禁止って言ってたしな。
「待ちなさい。リヒト様の使命はまだ終わっていないのです」
レティシアが止めてきた。
まあ、打ち合わせの通りである。
「何ですと?」
「それについても話があるのです」
「うーむ…………わ、わかりました。では、リヒト殿もどうぞ」
ん?
俺だけ?
「後ろも2人は私の妻なのですが?」
「存じております。しかし、入れるわけには…………」
騎士が難色を示した。
「妻をここに置いていけと?」
「い、いえ、もちろん、我らがお守りします」
「あなたが私の妻を入れないのは妻を信用できないからでしょう。それなのに、私にあなた方を信用して妻を預けろと?」
「……いくらなんでも失礼では? 我らは教会に所属する騎士ですぞ?」
騎士がちょっと怒る。
だが、墓穴を掘った。
「私の妻も教会の修道女です」
「え? その、あー、まあ、そうですね」
騎士がフィリアの格好を見て、動揺する。
「では、問題ないですね。それとも、女神様の使命を持った私と巫女であるレティシア様を信用できないというのですか?」
「あー…………はい、わかりました。特例ですが、奥様方も認めましょう。説明をして参りますので、少々、お待ちください。」
俺は騎士の説得に成功し、皆で入れることになった。
騎士は俺達から離れ、他の騎士に説明をしている。
「…………あんたって、こういうのが得意ね」
「だろー? ここまで一緒に来ておいて、外に放置できるかってんだ」
俺達がそのまま待っていると、さっきの騎士が戻ってきた。
「お待たせしました。では、当教会の神父のもとへ案内します。お願いですから勝手にどっかに行かないでくださいね」
騎士はそう言って、前を歩き、俺達を先導してくれる。
俺達は騎士に大人しくついていき、ノースに入った。
ノースの中は本当に村であり、家がポツン、ポツンと立っている程度だ。
「あのー、こんなところで暮らしているんですか?」
俺はさすがに気になったので、聞いてみる。
「そうですね。ノースはあらゆるところからの援助で成り立ってます。見てわかる通り、何もないでしょう? 畑もありません。すべての物資はエスタ王都から仕入れており、ここには我々騎士の借家と教会しかありません」
言われてみれば、村なのに畑がない。
「レティシア様は大丈夫です? お姫様ですよ?」
「ご安心を。教会はきれいですし、巫女様の部屋もきちんとしております。必要な物も食べたい物も希望を言ってくだされば、我々がいくらでも用意しましょう」
思ったより、ホワイトだな。
「草ばっかりを食べるんじゃないですか?」
「それはそういう修行ですよ。それ以外はいくらでも贅沢してください…………まあ、程度は守ってもらいますけどね。病気になられても困りますし」
肥満な巫女はなんか嫌だしな。
健康で長生きしてほしいのだろう。
「だってさ」
「私は元々、贅沢はしないわよ。食だって細いし、お酒も飲めない」
お酒には触れるな。
頬が痛くなるから。
俺達がそのまままっすぐ歩いていくと、教会が見えてきた。
教会は白を基調とした大きな建物だ。
アルトの教会よりもはるかに大きい。
「すげー浮いてるな」
「そうね。質素な村には場違いすぎよね」
俺とレティシアは同じ意見を持ったようだ。
「教会だけはきちんとしたものでないといけませんからね。我々騎士は交代制ですし、さっきの家は宿舎ですから」
交代制なんだ……
まあ、一生、こんなところは嫌だろうしな。
嫁も探せんし、逆に既婚者は最悪だ。
「巫女はここから一生、外に出ないんです?」
俺は教会を見上げながら聞く。
「基本的にはそうですね。まあ、ここだけの話、ある程度は私らも配慮しますので頑張って、エスタの首都ですかね? お忍びですけど」
「それ、良いんです?」
「ダメですよ。だからここだけの話って言ったじゃないですか。巫女様の気分転換くらいは必要でしょう。他の巫女様も内緒で近くの町に行っておられますよ」
あかんやん。
もしかしなくても、ウチの母親はその時に逃げたんじゃね?
「巫女にそこまで配慮するんですか…………」
「ずっと教会の中は心が壊れちゃいますよ。我々だって、町に行きたいですし…………」
本音がチラッと見えたな。
まあ、確かにこんな何もないところは退屈だわ。
「だってさ」
「私は一生、籠の鳥でもいいんだけどね。王族の女性ってそういうもんだし。でも、この感じだと、たまには外に出た方が良さそうだわ」
「そうしろ、そうしろ。騎士とは仲良くしておいた方がいいぞ。修行とやらもサボりやすくなる」
「それもそうね」
俺とレティシアがうんうんと頷き合う。
「…………まあ、お互い、何も聞かなかったことにしましょう。では、教会に入ります。神父様は執務室におられますので」
俺達は騎士の案内で教会の中に入った。
教会の中は調度品はないが、白の壁にレッドカーペットが敷かれた床が非常にきれいである。
「城みたい」
「巫女様が住まう場所ですので…………調度品がないのは現在の巫女であるアイラ様のご趣味ですね。質素を好んでおられる御方です。もし、レティシア様がお望みなら調度品もご用意しますよ」
「私も興味ないからいらないわよ。そのお金であなた達の宿舎とやらを建て替えなさい。私は不潔が嫌いです」
「…………すぐに申請します」
俺的には騎士は汚くはないと思うが、王族のレティシアは不潔と思ったのかもしれない。
「リヒト、あんたもその靴をどうにかしなさい」
俺はそう言われて自分の靴を見る。
ちょっとボロくなっているかもしれない。
「クレモン宰相閣下からもらったやつなんだけど」
「…………非常に苦言を言いにくいものを履いているわね」
「まあ、別に思い入れもないし、どうでもいいんだけどね。あいつからはいっぱいもらったし。餞別にサイン入りの初心者用の魔法教本をやろうか?」
まったく役に立たなかった本だけどね。
「私は初級魔法を使えるって言ったじゃない。いらないわよ」
「あっそ。まあ、靴は替えようかな…………」
「そうしなさい。清潔が大事よ」
聞きにくいが、フィリアとヘイゼルもそう思っていたのかもしれない。
「騎士様、こいつ、王族だからそういうのにうるさそうですので、気を付けてくださいね」
「…………そうします。こちらです」
騎士はちょっとめんどくさそうな顔をしたが、すぐに正し、執務室までの案内を再開した。
そのまま歩いていくと、騎士はとある部屋の前で立ち止まると、扉をノックする。
「神父様、レティシア様と女神様の使者であるリヒト殿がお話があるそうで、お連れしました」
騎士がそう声をかけ、ちょっとすると、扉が開き、中から初老の男性が出てきた。
「これはこれは、ようこそおいでくださいました。私は当教会の神父を務めますローガンと申します。以後お見知りおきを」
「はじめまして、レティシアです。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします。どうぞ、中にお入りください」
俺達は神父に勧められるがまま、中に入った。
「どうぞ、お座りください」
神父がテーブルに着くように勧めたため、レティシア、俺、フィリア、ヘイゼルの順番で並んで座った。
神父はレティシアの対面に座り、イレーヌさんと案内をしてくれた騎士はそれぞれ、レティシアと神父の後ろで立っている。
「して、話とは? 至急と聞いております」
「まず、現巫女であるアイラ様について聞きたいのです」
「アイラ様ですか…………申し訳ないですが、他の者に出ていってもらえないでしょうか?」
神父は俺とフィリアとヘイゼルを見る。
…………めんどくせーな。
「私は黒木リヒトと言います」
「クロキ…………? クロキですと!?」
神父が目を見開いて俺を見た。
「私の目は誤魔化せません。もちろん母の目もです」
「…………ヘンリー君、すまないが、退室を」
「は? 私でしょうか?」
案内してくれた騎士はヘンリーというらしい。
「そうだ。ここから先は非常にデリケートな話になる。外で誰も来ないように見張っててくれ」
「か、かしこまりました」
騎士ヘンリーは部屋から出ていった。
「貴殿はソフィア様の子か?」
ヘンリーが出ていくなり、神父が聞いてくる。
「そうですね。母はソフィアという名のわがままクソ姫です」
「ああ…………ソフィア様だ」
何気に失礼な神父。
「私が女神様の使者に選ばれたのはそういうことがあってでしょう」
「なるほど…………確かに。では、すべてをお話しましょう。アイラ様のことでしたかな?」
「そうです。アイラ様は大変に優秀な方と聞いております」
「はい…………アイラ様は真面目な御方で、大変、優秀でもあり、尊敬できる巫女の鏡です…………鏡でした」
神父はガクッと項垂れてしまった。
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