第117話 国という名の村


 エスタ領に入った俺達は海外ドラマで時間を潰しながら進んでいった。

 そして、ついにエスタの王都に到着した。


 エスタの王都はロストの王都よりかは小さかったが、それでも十分に大きい町だ。


「旦那、今日は宿屋に案内するから泊まってくれ。明日の朝に迎えにいく」


 目的地であるノースはエスタの王都から馬車で半日らしい。

 めっちゃ近いなと思ったらどうやらノースは一応、国らしいのだが、エスタの中にある国らしい。

 というか、村らしい。

 意味わからんよね。


 ゲルドは俺達を宿屋まで案内すると、自分は家に戻るらしく、どっかに行ってしまった。

 俺達は宿屋に入ると、2部屋を借りて、各自の部屋に行く。

 もちろん、俺、フィリア、ヘイゼルの部屋とレティシア、イレーヌの部屋で別れるのだ。


 俺は部屋に入ると、真っ先にベッドにうつ伏せで倒れた。


「あー、疲れた」


 俺はうつ伏せのまま愚痴をこぼす。

 以前のロストまでの旅よりかは楽だったが、やっぱり馬車は疲れるのだ。


「ホントよねー」


 ヘイゼルの声が聞こえたと思ったら背中に重みが乗ってくる。

 ヘイゼルが俺の上に乗って抱きついてきたのだ。


 俺は地味に息が苦しかったのでヘイゼルを一度押しのけ、仰向けになった。

 すると、またもやヘイゼルが抱きついてくる。


「やっぱ馬車はきついわ」

「ホントよねー。んっ……もう!」


 俺はベッドの上で抱き合っている体勢のまま、ヘイゼルにセクハラをした。


「リヒトさんとヘイゼルさんって、たまに私を無視するよね」


 フィリアが呆れたように俺達を見ている。


「フィリア、こっちにおいで」


 正直に言おう。

 レティシアとイレーヌさんはマジで邪魔だった。

 イチャつけないもん。


 俺がフィリアを呼ぶと、フィリアがこっちにやってきたので、手を引いて、ベッドに引きずり込んだ。


「キャッ! 強引ねー…………」


 俺は文句を言うフィリアの口を塞いだ。


 今は夕方であり、1時間後にはレティシアとイレーヌさんと晩御飯を食べに行く約束をしている。

 でも、しょうがないよね。




 ◆◇◆




 俺達は晩御飯を食べに行く時間になると、部屋を出て、レティシアとイレーヌさんと合流した。

 ちょっと遅れてしまったので、レティシアとイレーヌさんに白い目で見られたのだが、こればっかりはしょうがない。


 俺達は宿屋を出て、ゲルドが勧めてくれた定食屋に行き、ご飯を食べることにした。


「ノースまであとちょっとだなー。というかさ、ノースって本当に国なの? 村なの?」


 俺はご飯を食べながらレティシアに気になっていることを聞いてみる。


「教会が管理している村よ。でも、扱いは国なの」


 それがいまいち理解できんのだよな。


「王様でもいんの?」

「いないわよ。巫女をどっかの国が独占するとマズいからどこの国にも所属しないっていう意味で国扱いなの。他の3国も一緒ね」


 だからエスタ領の中に独立国家があるのか…………


「でもさ、例えば、エスタがノースは俺の国って言ったらどうしようもなくない?」


 国境を塞いでしまえば、巫女を独占できる。


「それをしたら世界各国が敵に回るわ。下手をすると、女神様の怒りを買って滅びる」


 そういえば、女神様の力が強いって言ってたもんなー。


「怖いなー。しかし、王都から半日って近すぎだろ」

「明日、北門に行けば見えるけど、火山が近いのよ」


 そんなところに王都を置くってすげーな。

 噴火したら終わりだろうに。


「王様やここに住んでいる人は怖くないのかね?」

「火山は火の精霊の象徴だからね。近い方がありがたいのよ。噴火も巫女様がいるから起きないし」


 起きるんだなー、これが。


「お前、何も見えてないん?」


 俺はレティシアに確認してみる。


「え? 何が?」


 レティシアの反応からして見えてないな。

 さっき見えたことだが、俺の未来視では3日後に噴火が起きると出ている。

 派手にヤバい。


「お前は危険に対する未来視に優れているのになー」


 まあ、俺とレティシアが行けば、治まるってことなのかもしれない。


「え? マジで何?」


 そろそろ説明した方がいいかもしれない。


「明日、ノースに着いたら速攻で仕事をするぞ」

「仕事?」

「うん。荒れまくったサラマンダーのご機嫌取り」

「は?」

「実はな、ノースって相当ヤバいことになってるんだわ」


 俺はレティシアに火の巫女様であるおばあちゃんがボケていること、それにより、火の精霊の管理が出来なくっていること、そして、3日後に噴火することを丁寧に説明した。


「…………なんで今言うの?」


 レティシアがごく真っ当なことを言ってくる。


「俺はお前が逃げるって思ってたから」

「逃げないって言ったでしょ」

「そうだな。まあ、噴火の予想はしていたんだが、3日後っていうのはさっき見えたんだ。だから言っておこうって思って」


 本当はノースに着いてから説明しようかと思っていた。

 でも、思ったより時間がないわ。

 というか、ロストからまともに馬車で行ってたら間に合ってない。


「マジかー…………」

「まあ、手伝うよ。これが女神様が俺を使者に選んだ理由だと思う。というか、この世界に呼んだ理由だな。母親が役立たずだったから代わりだろう」


 どうせ、ごねたんだろう。


「いきなり世界の危機を知らされたし」

「世界の危機って程じゃないだろ。この辺の国はヤバいとは思うけど」

「あんたは本当に何も知らないのね…………四大精霊は4つでバランスを保って世界を維持していると言われている。この均衡が崩れると世界がどうなるか…………」


 思ったより大事だった……


「まあ、お前の未来視が発動しないってことはなんとかなるんだろ。頑張ろうぜ!」

「あんたは軽いわねー」


 だって、最悪、逃げられるし…………

 これを言ったら皆の好感度がめっちゃ下がるから言わない。


 俺達はその後、食事を食べ終えると、若干、テンションが下がりつつ、宿屋に戻り、就寝した。

 そして、翌朝、準備を終え、宿屋を出ると、ゲルドが待っていた。


「おはよう…………って、旦那以外は元気がないな。飲みすぎたか? あ、いや、フィリアはないか……」


 フィリアが二日酔いなんてありえない。


「ちょっとなー。まあ、気にせずに行こう。俺らは目的地に着く。お前は砂糖を手に入れる。素晴らしい日だ」

「だな! よーし! 儲けるぞー!」


 テンションの高い俺とゲルドとテンションの低い女子達は馬車に乗り込み、王都を出発した。

 エスタの北門をくぐると、前方に大きな山が見える。

 あれが火山であり、俺達の目的地だろう。


 北門を抜け、王都を出ると、今日はドラマを見ることはなかった。

 半日で着くし、皆、ドラマを見るテンションではないっぽい。


「レティシア、確認をしておくが、ノースにはお前が巫女になることは通達されているんだよな?」

「ええ、そうよ。この世界にも電話じゃないけど、水見式っていう連絡方法があるの。それで通達しているはず」


 水見式……

 昔、ヘイゼルに聞いたことがあるな。


「じゃあ、お前は俺が昨日言ったことを説明しろ。俺がそれを補助するための女神様の使者であることも併せてな」

「わかった」


 俺とレティシアはノースに着いてからのことを打ち合わせしながら話し合いを進めていく。

 そして、昼前になると、火山のふもとにある集落が見えてきた。


「あれが国か…………」


 完全に村だな。


「ノースは特別に小さいのよ。他の3国はもうちょっと栄えてる。北は寒いし、海もないから栄えようがないのよ」


 火の巫女って田舎の巫女なんだな……


 俺達が火山のふもとの村を見ながら進んでいくと、村の入口に豪華な白銀の鎧を着こんだ兵士が数名見える。


「あれは?」

「教会の騎士ね。ゲルド、ここで止めてちょうだい。巫女の国は許可なき者は立入禁止なのよ。このまま近づけば、攻撃されるかもしれない」

「マジですか!? 了解です!」


 レティシアが馬車を止めるように言うと、ゲルドは慌てて、馬車を止めた。


「ゲルド、ありがとな。これが報酬の砂糖だ」


 俺はカバンから500グラムの砂糖を取り出し、ゲルドに渡す。


「おー、詐欺られなかった! 旦那のことだから怪しんでたんだが、信じてよかったぜ」


 ひっで。


「お前、地味に傷つくことを言うなよ」

「旦那…………普段の行いってやつですぜ」


 信用って大事だなー。


「まあいいわ。じゃあ、お前は帰って大儲けしな」

「おう! 旦那もまたな。これの商売が終わったらまたアルトに行くからよ」


 こいつはエスタの商人じゃないのか?

 本店はどうした…………あ、砂糖の売買を最後に息子に譲るのね……


「まあ、頑張れや」

「それは旦那達だろ」

「まあな」


 俺達は馬車を下りると、元の道に引き返していくゲルドを見送った。

 そして、前を向いた。


「あんたらは私の後ろにいなさい。私が話すわ」


 レティシアがかっこいい。


 俺達はレティシアを先頭に村の前で警備をしている兵士のもとへ歩いていくのだった。

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