第112話 戻ってきたぞー!
さっきまでロストの国の王様の執務室にいた俺達だったが、気がついたら懐かしき我が家についていた。
「おかえりなさい」
「それといらっしゃいませ。狭いところで申し訳ありません」
リビングにいたフィリアとヘイゼルが出迎えてくれる。
「ただいまー」
「相変わらず、こっちの世界とは思えない暮らしぶりねー」
「すごいね。どう見てもロッジ系の宿泊施設だよ」
部屋の様子を見た母さんと父さんが呆れた。
「その辺はしゃーない」
「ふーん……まあいいわ。私達はこれで帰るとするわ。あ、でも、ディランの所に顔でも見せに行こうかな……」
一応、自分の騎士を気にする心はあるのか。
「そうだね。ディラン殿に挨拶をしておこうか。リヒト君、僕達はディラン殿の所に挨拶して帰るよ」
「また、どっか行くん?」
「ちょっと沖縄に行ってくる」
よー旅行に行く2人だなー。
「わかった。じゃあ、神父様に後で行くって伝えてくれない?」
「いいよ。その辺の事情を説明しておいてあげるよ」
「ありがと」
「じゃあ、フィリアちゃんにヘイゼルちゃんもまたね。今回はゆっくりできなかったけど、今度、沖縄みやげを持っていくわ」
母さんがフィリアとヘイゼルに手を振る。
「はい、ありがとうございます」
「私、サーターアンダギーが良いです。だから絶対にハブ酒は止めてください」
ヘイゼルに未来視が備わったのかな?
「息子の嫁にサプライズを潰されたわ」
がっかりすんな。
「マジでやめろよ。フィリアの蛇が泣くぞ」
下手すると、金運の蛇が逃げるんじゃね?
「それもそうねー。まあ、適当に選んでくるか…………レティシア」
母さんはおみやげを悩んでいたが、ふいにレティシアを見る。
「は、はい」
レティシアは緊張気味に応じた。
「あなたには才能がある。間違いなく巫女として活躍できるだけのものを持っている」
「ありがとうございます」
これは俺も思う。
レティシアはかなり優秀だ。
「でもね、必ず、辛いことはある。これは巫女とか関係なく、どんな仕事を選ぼうと、どんな人生を歩もうと訪れることよ」
「はい…………」
レティシアはよくわかっているだろう。
2度目の人生なのだから。
「多分、全員がお前が言うなって思うでしょうけど、言っておく。どんなに辛いことがあっても自分が1人ではないことを理解しなさい。あなたには騎士がついている。その騎士はあなたを守り、あなたを救うでしょう。だからその騎士を大切にし、共に苦難を乗り越えなさい」
うわー……
お前が言うな、だわー……
「神父様に謝ってこい」
「もう謝ったわよ」
そういえば、謝ってたな……
「レティシア、私のようにはならないこと。いい?」
「はい!」
いい返事だわ。
「では、さようなら。皆様のご多幸をお祈りします。ばーい!」
「じゃあね」
父さんと母さんは一瞬にして消えていった。
「ハァ……ようやく帰ったわ。ホントにかき乱すことしかしない母親だわ」
「叔母だし、あんたには悪いけど、強烈な人ね。わがままクソ姫って実在したのねー」
レティシアが気の毒そうに俺を見る。
「一応、言っておくと、普段はあんなんじゃないんだ。こっちの世界にくると、ああなる。故郷に帰ると、何かを思い出すのかねー」
「あー、そういうのはあるかもね。私もあんたと話していると、昔の自分に引っ張られる」
同じ日本人だからか……
「あのー、ここって本当にエーデルのアルトなんですか?」
イレーヌさんが聞いてくる。
「ですね。私の家です。あ、座ってください。えーっと、お茶、お茶…………ヘイゼル」
「わかったわ」
よく考えたら俺、お茶を淹れたことがなかったわ。
「姫様、どうぞ」
イレーヌさんがレティシアをテーブルの椅子に座るように勧めた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
レティシアが椅子に座ったが、イレーヌさんは立ったままだ。
「あのー、イレーヌさんも座ってもらえません?」
「私は…………いや、失礼でしたね。お言葉に甘えます」
イレーヌさんが何かを言おうとしたが、途中でやめて、普通に座ってくれた。
すると、ヘイゼルがお茶を淹れてきたのでテーブルに置く。
「えーっと、どうぞ」
俺は2人にお茶を勧めた。
「ありがとうございます」
「いただくわ。ちなみに、イレーヌが座るの拒否しようとしたのは彼女が私の護衛だから。座ったら奇襲に対処できないでしょ」
なるほど……
「確かに」
え? じゃあ、立ってる?
「でも、座ったのはあんたらが弱そうなうえに親族を疑うのは失礼だと思ったからね」
「いや、弱そうだなんて思ってませんよ……」
思ってんな。
こいつら程度なら座ってようが、寝ていようが、速攻で斬れるって思ってそうだわ。
そして、残念ながら事実である。
「まあいいや。それよか、20日かかる日程を大幅に短縮してるからちょっとの間はここに滞在してもらうぞ。日本でもいいけど」
「そうね。悪いけど、滞在させてもらうわ」
「お邪魔しております」
「いえいえ、狭いところで申し訳ありませんが、歓迎はします」
まあ、俺は狭いとは思わんが、城に滞在していた2人にとっては狭いだろう。
「それは良いんだけど、本当に色んなものがあるわねー。あんたら、満喫しすぎでしょ」
レティシアが部屋を見渡した。
「本当に見たことがないものが多いです。すごく高そうなガラス製品が並んでたのは見なかったことにします」
「あれ、多分、100円だから銅貨1枚よ?」
「失礼な! 300円だよ!」
最近の100均は100円以上も売っているんだよ!
「あれが銅貨3枚ですか…………悪い考えが浮かんできます…………」
「あっちに行った時に買えば? 私はあんなもんはいらないけど……」
「いえ、いいです。割ったら怖いですし、心臓に悪いです」
「まあ、好きにしたらいいけど、ちなみにだけど、日本に行くのはいつの予定?」
イレーヌさんとガラス製品について話していたレティシアが聞いてくる。
「24時間の制限があるから明日の昼だな。今日はここで泊まっていって」
「わかったわ」
レティシアが了承した。
「あのー、レティシア様、夕食ですが、何か希望はあります?」
食事担当のフィリアが尋ねる。
「と言われてもねー……逆に何があんの?」
「一応、食材や調味料等はありますし、コンロや卓上クッキングヒーターもありますので大抵のものはできます」
「コンロもクッキングヒーターもあんのかい…………」
レティシアが呆れる。
「キャンプ用の物を買いましたので」
「ホント、満喫してるわ…………唐揚げを作れる?」
「大丈夫です」
「じゃあ、それでお願い。イレーヌもそれでいい?」
「もちろんです!」
役得って思ってそうな騎士さんは当然、文句はなさそうだ。
「では、夕食はそのようにします」
「夕食も決まったし、ゆっくりしていってくれ。俺はちょっと神父様の所に行ってくる。フィリア、ヘイゼル、後は頼む」
「わかった」
「いってらっしゃーい」
俺は嫁2人に客の接待を任せると、家を出て、教会に向かう。
町を歩いていると、本当に懐かしい気がした。
時折り、町の人から久しぶりと話しかけられたりしたし、帰ってきたんだなーという思いが強くなった。
俺がちょっと嬉しくなりながら歩いていくと、教会に到着した。
俺は教会の本堂にある執務室の前まで来ると、扉をノックする。
「入っていいぞ」
神父様の懐かしい声で入室の許可が聞こえてきたので中に入った。
「お久しぶりです。神父様」
「おう! 久しいな。大変な旅だったようだなー」
「ええ。私の両親から聞いているかもしれませんが、その辺のことをお話しします」
「ん。わかった。まあ、座れ」
神父様が椅子を取り出し、座るように勧めてくれたので、俺は椅子に座り、これまでの旅のことを説明することにした。
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