第113話 事情説明


「――――というわけで、次はノースです」


 俺は教会にやってくると、神父様にこれまでの旅のことを説明した。

 主に馬車移動がきつかったことを訴えた。


「まあ、馬車が辛いのは仕方がない。長旅だからな。あ、そうだ。武器屋夫妻から金を預かっているから先に渡しておく」


 神父様が袋を渡してくる。

 最初のザイルまでの馬車で新人冒険者達が職務を放棄した詫びの金貨だろう。


「懐かしいですねー。完全に忘れてましたよ」

「武器屋の夫婦から聞いたが、大変だったようだな……さすがに私も途中で護衛を投げ出す冒険者は初めて聞いたわ」


 正直、そんな冒険者がいてたまるかって思うわ。


「勘弁でしたね。初めての旅だったのに…………まあ、確かに受け取りました」

「うむ」

「ちなみに、私の両親は?」


 神父様のところに顔を出すって言ってたけど、いない。


「挨拶と適当な説明をしたらさっさと帰ったぞ」


 早いなー……

 まあ、沖縄に行くって言ってたしな。


「帰ったのならいいです。正直、母が本当に邪魔でした」

「だろうな。指名手配犯がロストの王城に行くって、何を考えておられるのか…………」


 自由人の考えることはわかんないよ。


「実は女神様から祝福をもらったらしいですよ。あと、完全に諦められてました。もう勝手にしろ、だそうです」

「…………祝福をもらったのならそれでいい」


 騎士って本当に大変だな。

 イレーヌさんも頑張ってほしいわ。


「それで、本題ですが、ノースはどのようなところですか?」

「火山があるくらいで何もない所だな…………」


 火山…………サラマンダー…………荒れている…………

 あー……噴火?


「事は思ったより、深刻みたいですねー……」

「何か見えているのか?」


 俺の意味深なつぶやきに神父様が反応した。


「実はこれは母も見えていることなんですが、現在の火の巫女様は高齢なおばあちゃんなのです」

「それは私も知っている。何度かお会いしたことがあるが、高齢とはいえ、元気で明るい方だった」

「その方ももう80歳を超えました。はっきり言いますが、ボケています。相当ヤバいことになっています」

「…………そうか。まあ、80歳にもなればな……私だって、最近は物忘れが多くなったんだ。80歳ではなー……」


 神父様も60歳だしね。


「問題はボケて巫女の仕事が出来なくなっていることに気付いていなかったことです。もちろん、教会もです」

「やはり定年制度を設けるべきだったか…………あの御方は歳を取られても元気だったし、巫女の仕事に誇りを持っておられた。誰も引退勧告をできなかったのだろう…………」


 優秀でやる気もある巫女。

 誰もそろそろ引退を……って言えないまま、80歳になられたのだろう。

 そして、本人がボケちゃった……


「母曰く、相当、サラマンダーが荒れているようです。火山のあるノースで…………」

「なるほど……貴様の言っていた意味がわかった。確かに深刻だ」


 誰もが想像がつくだろう。

 噴火しかない。


「まだ、私の未来視が発動してないところを見ると、すぐに噴火というわけではないでしょう。とはいえ、急いだ方が良さそうです」

「だな。あそこの火山が噴火とかシャレにならんぞ。近くのエスタとキルケはまず滅びる。この辺にも影響はあるだろうな」


 火山灰って、風に乗って、めっちゃ遠くまで影響があるって聞いたことがある。


「レティシアがロストの王都を出たのが昨日ということになっていますので、さすがに10日ほどはここで待機しますが、その後、すぐにノースへ向かいます」

「それがよかろう。ただ、問題が1つある」

「何でしょう?」


 スムーズにはいかんか……


「ノースを通るにはエスタを経由せねばならん。あそこの関所は時間がかかるぞ?」

「それは問題ありません。私はクレモン宰相からもらった通行手形を持っています」

「…………なんでそんなもんを持ってるんだ?」

「私がこの世界に来た時に初めて会った人がクレモンです。その時によくしてもらったんです。エーデルに行けと勧めてくれて、通行手形をもらいました。あ、この剣ももらいました」


 食料も靴も魔法の教本ももらった!


「なるほど。では、通れるか…………とはいえ、堂々と行くのはおすすめしない。あそこの王は野心が強いし、巫女と聞けば、歓迎するとか言って足止めを食うぞ」


 迷惑な王様だなー。

 あー……そういえば、クレモンにも似たようなことを言われたな。

 だから逃げろって言われたんだった。


「でしたらゲルドに頼みましょう。あいつはエスタの商人です。レティシアをあいつの娘ということにし、我々が冒険者の護衛ということにすれば怪しまれないでしょう」

「悪くないとは思うが、ゲルドは商人だぞ? 信用できるか?」

「砂糖で買収しますよ。あいつは絶対に食い付きます」


 エスタでは砂糖がまったく採れないからアルト以上に高く売れると言っていた。

 すぐに尻尾を振るだろう。


「…………お前はそういうのが得意だな」

「今、詐欺師って思ったでしょう?」

「そらな」


 まあ、しゃーない。


「そういうことで10日後にノースへ向かいます。それが終わったらようやく解放です」

「まあ、女神様の使命だから仕方がないだろ」

「フィリアはともかく、ヘイゼルは弱音しか言ってませんでしたね」


 俺のことは棚に置いておこう。


「貴族だからなー。あの貧弱娘には無理だろ。見るからに根気がなさそうだった」


 頑張る子だよ!

 体力がほぼないだけ!


「レティシアは大丈夫ですかね?」

「10歳の姫君だろ? 正直、もっと怪しい。馬車に乗ったことはあるだろうが、エスタの荒道を行けるか…………」


 あー、荒れてたねー。

 ケツがめっちゃ痛かったもん。


「休憩をこまめに入れますかね」

「というか、異世界で待機させたらどうだ? ノースに着いたら迎えに行けばいいだろ」


 神父様は気付いたようだ。

 レティシアはまったく気付いてないというのに……


「レティシアをあっちの世界に待機させると、イレーヌさんもあっちでしょう? 護衛がいなくなります。私の計画ではイレーヌさんの剣とヘイゼルの魔法で敵を一掃するんですよ」


 イレーヌさんは絶対にレティシアのそばを離れないだろうし、こうするしかない。


「情けない理由だなー。まあ、お前達なら仕方がないのか……?」

「魔法使い2人とヒーラーですからね。剣士のイレーヌさんが必要なんですよ」

「そこまでの危険はないと思うが、まあ、ロストよりかは危険か…………」


 ロストではロスト貴族のヘイゼルがいたし、バーナード家の護衛がいたから危険は皆無だった。

 だが、エスタではそういう後ろ盾がない。


「そういうことです。領主様にもこのことを伝えようかと思っています」

「それは無理だな。あいつは今、王都に行っておって留守だ」


 ありゃりゃ。

 まあ、留守ならしゃーないか。


「じゃあ、ガラ悪マッチョは…………別にいいか」


 仕事をするわけでもないしな。


「まあ、その辺には私から伝えておこう。お前はレティシア様のことを頼む」

「わかりました」


 俺は神父様との話を終えると、その足でゲルドの所に向かった。

 ゲルドは普通に店にいたため、事情を説明し、ノースまで連れて行ってくれたら砂糖を1袋やるって言ったら食い気味に了承してくれた。


 俺は計画を決めると、家に戻る。

 家に戻ってリビングに行くと、残っていた4人はトランプで遊んでいた。


「ただいま」


 俺はババ抜きで熱中している4人に声をかける。


「おかえりなさい」

「おかえりー」


 フィリアとヘイゼルが挨拶を返してくれた。


「おかえり……こっちかな? いや、こっちか…………」

「おかえりなさいませ…………姫様、そっちはよろしくない気がします」


 俺はイレーヌさんの手札を抜こうとしてるレティシアを見ると、イレーヌさんの後ろに回り、イレーヌさんの手札を見た。


「こっち?」

「それですね」


 レティシアがイレーヌさんの持っているババを抜いた。


「……………………おいこら」

「私はそれが良いと言っただけです。嘘はついていません」


 レティシアにとって良いわけではなく、自分にとって良いわけね。


「お前、トランプが弱いなー」


 俺はレティシアに呆れる。

 ヘイゼルといい勝負な気がする。


「何を! じゃあ…………いや、やめとく」

「金貨を賭けようぜー」


 ババ抜きとかイカサマし放題だわ。


「うっさい、詐欺師」

「まあ、いいや。予定を決めてきたんだけど、出発は10日後。ゲルドの馬車で行く。レティシアはゲルドの娘で俺達が護衛の冒険者な。以上」


 俺は簡潔に決まったことを告げた。


「ゲルドって誰よ?」

「知り合いのエスタの商人だ。買収したし、信用はできるヤツだから安心しな」

「ふーん、なんで娘?」

「偽装だな。エスタは面倒なんだよ」

「姫様、私も賛成です。エスタ王はあまり良い噂を聞かない御方です。巫女とは名乗らず、スルーした方がいいでしょう」


 イレーヌさんもそう思うらしい。

 神父様も知っていたが、宰相であるクレモンが言っていたくらいだから相当なんだろう。


「じゃあ、そうしよっかなー。さすがに商人には見えないし、服を買ったほうがいいわね」


 レティシアはドレスだ。

 さすがに商人の娘には見えない。


「フィリア、ヘイゼル、付き合ってやれ。ついでにイレーヌさんの分も。メイドはない」

「わかったわ」

「任せといて!」


 4人はトランプを終えると、服を買いに出かけてしまった。

 留守番の俺は1人寂しく酒を飲んだ。


 4人が帰ってきたのは夕方であり、すぐにフィリアが料理を開始する。

 そして、リクエストであった唐揚げを食べ終えると、フィリアの部屋をレティシアとイレーヌさんに譲り、俺達はヘイゼルの部屋で就寝した。


 久しぶりの家で寝れたのが嬉しかった。

 フィリアとヘイゼルもそう思っていたらしい。

 テンションが高かった……

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