第109話 同じお姫様なのに人間性って残酷だよね


「――――というわけで、お前をノースまで連れていくことになった」


 俺はレティシアの私室にやってくると、女神様からの使命の事と先程の王様との会話を説明した。


「あんたのお父さんって、すごいギフトをもらったのねー。私もそっちが良かったわ」


 心を読む力とルー○か……

 俺もルー○がいいな……


「俺達は一度、日本に戻って父親にお願いしてくる。お前は引っ越しの準備をしとけ」

「準備はとっくの前に終わっているわよ。別にそんなに荷物もないし」

「そうなん? 女子って色々とありそうだけど…………特にお前はお姫様だし」


 馬車何台とかのすげー荷物を想像していた。


「巫女になるのにドレスとか持っていってもどうしようもないでしょ。ましてや、私は10歳よ? すぐに着れなくなるわよ」


 それもそうか……

 子供の成長は早いだろうしなー。


「イレーヌさんは? 騎士だし、やっぱりついてくんの?」


 イレーヌさんは今日も当然のようにレティシアの後ろに控えている。


「当たり前でしょ」


 レティシアは当然とばかりに頷いた。


「この度、教会の騎士になりました。これで問題ありません」

「そういえば、ディラン様も教会の騎士団でしたね? 何か規定でもあるんです?」


 俺はその辺のルールを知らないので聞いてみる。


「巫女の近くにいられるのは教会関係者だけですからね。ましてや、巫女はどの国にも所属していない扱いになります。絶対に一国の貴族は近づけませんよ。でも、今回のように王族個人の騎士の場合は教会も配慮します。その妥協点が教会の騎士団に所属することなんですよ」


 巫女がどっかの国に肩入れするのはよろしくないわけか。

 まあ、実際は肩入れするんだろうけど、対外的にマズいってことね。


「では、イレーヌさんも運びましょう。貴族の貴女に失礼かと思いますが、転移を大ぴらには出来ないので、ある程度は我が家に滞在してもらうことになります」


 怒りそうだからあえて、未婚の女性とは言わなかったが、マズいんじゃなかったっけ?


「いえ、それは構いませんし、こちらこそよろしくお願いいたします。私の食事は唐揚げでいいですよ」


 食べ物目当てで役得って、思ってそうな騎士様だな。


「まあ、その辺は随時お話ししましょう…………レティシア、俺はこれから宿屋に戻って日本に帰る。陛下が教会に説明しておられるようだが、俺達が戻ってきたら出発と思ってくれ。ちょっといつになるかはわからんが、なるべく早く戻る」

「わかったわ。あ、おみやげをよろしく」

「別にいいけど、自分で買えば? アルトに転移したら別に急いでノースに向かう必要もないし、日本に連れていってやるぞ」


 本来ならアルトまで20日はかかるのだ。

 多少、遊んだところで誰も文句は言わない。

 というか、早く着きすぎるのもマズい気がする。


「そうね…………日本か……」


 レティシアは何かを思いながら下を向いた。


「もし、何もかもを捨てて帰りたくなったら言え。巫女期間0日の大記録を作るだけだ。戸籍もどうにかしてやるし、お前一人を養うくらいの金はある」


 イレーヌさんや伯父には悪いが、それくらいはしてやる。

 女神様も許してくださるだろう。

 ね? ね?


「ありがとう…………でも、大丈夫よ。私は巫女になるわ。国のために、王家のために、そして何より自分のためにね」


 母さん……姪っ子を見習え。


「…………そうか」

「まあ、嫌になったら言うわ。最低でも4日はやる。歴史に名を残すって言っても、記録更新という不名誉なものはいらない」


 俺が巫女でも4日はやるだろうな。

 わがままクソ姫以下って思われたくないし…………


「頑張れとしか言えんわ」

「あんたはただ私に物資を補給してればいいのよ。心配ご無用」


 レティシアはニヤリと笑った。


「あー、それね。それも後で話すか…………まあ、いいや。とりあえず帰るわ。お前とイレーヌさんは行きたいところとか買いたいものを考えとけ。銅貨1枚で100円だからな」

「ラノベの続きを見たいし、買わないとなー。考えとくわ」


 多分だが、レティシアには思うところがたくさんあるのだろう。

 その証拠にレティシアはずっとイレーヌさんの腕を掴んでいた。


 俺は早めに帰った方がいいなと思い、この日は未来視の修行をしないことにし、フィリアとヘイゼルと共に宿屋に戻ることにした。




 ◆◇◆




 俺達は宿屋に戻ると、店員に数日は部屋から出ないかもしれないが、放っておくように伝えると、部屋に戻り、日本の家に転移した。

 なお、外はまだ暗い。

 向こうの時間で朝の9時に転移したため、こっちでは朝というか、夜の3時なのだ。


 俺達は家に帰ると、風呂に入り、ソファーで少し休むことにする。

 配置はいつも通りであり、俺の左隣にヘイゼルが座り、右隣にはフィリアが座った。


「殿下、やっぱり巫女になりたくないのかな……?」


 ヘイゼルが神妙な顔をして聞いてくる。


「というか、どういう仕事かわかってないから不安なんだろう。本当は巫女候補の時にそういう勉強をするんだろうが、あいつは飛び級だからな」


 飛び級どころか一切、教会の修行をしていない。


「巫女になってから学んでいくのね…………大変かも」

「修行という名の意味のない苦行よりかはいいだろ」

「まあねー」


 草ばっかりを食べさせられるは嫌だ。


「レティシア様が日本に来るって言って沈んだのは? あんなに来たがってたのに…………やっぱり望郷?」


 今度はフィリアが聞いてきた。


「それもある…………だが、それ以上にあいつには思うところがあるんだ。俺とあいつの違いだな」

「転移か、転生か?」

「だな。この世界でのあいつの人生はすでに終わっている。あいつにはここでの居場所がもうないんだ…………実はあいつが死んだ交通事故を調べた。予想はしていたが、ご両親も亡くなっていた」

「そっか…………レティシア様はそのことを考えてたのか」


 俺はこれをレティシアに伝えていない。

 余計なお世話だろうし、言う必要もないと判断した。

 もし、聞かれたら答える程度で良いだろうと思っている。

 そして、あいつはそのあたりを一切、聞いてこない。

 多分、あいつは…………


「あいつが今度、こっちに来た時にどうするかは知らんが、とりあえずは放っておこう。俺達がしてやれることはない。そういうのはイレーヌさんがやるだろう」


 レティシアがイレーヌさんのことをものすごく信用しているのはわかる。

 母親が神父様に剣を授けたようにレティシアもイレーヌさんに剣を授けそうだ。

 いや、もう授けているのかもしれない。

 前世のことをしゃべるって相当な信頼がないと無理だろうし。


「わかった。もし、レティシア様が巫女から逃げ出したいって言ったらどうすんの?」

「そん時は助けてやるよ」


 同郷だし、従妹だし、そのくらいはしてやる。


「それがいいかもね…………今度来た時はなるべく食べたいものを作ってあげることにするよ」

「悪いけど、頼むわ」


 俺達はちょっとしんみりしながらも話をして朝まで時間を潰していった。


 そして、朝になったので、父親の携帯に電話をかける。


『もしもしー?』


 携帯の着信音が鳴り止むと、くぐもった父親の声が聞こえてきた。


「もしもし、父さん。俺だよー。俺、俺!」

『詐欺かな? 急に電話してきてどうしたの? って、ソフィア、絡んでくるんじゃない』


 ん?


『えー……構ってよう……おはようのちゅーしてぇ……』

『電話中だから』

『もう……』


 世界最悪な会話を聞いてしまった……


「あんたら、寝てたの?」


 俺はめっちゃテンションが下がりつつも気力を振り絞る。


『そりゃそうでしょ。まだ7時だよ?』


 俺はその言葉を聞いて時計をチラッと見ると、時刻は7時だった。


「一緒か…………じゃあ、日本にいるんだ?」

『あー、そうだよ。普通に家にいるよ』


 好都合だな。

 昼に電話すれば良かったけど……


「実は頼みがあるんだよね」

『お金ー? いくら欲しいの?』

「1億円…………って、お金じゃなくて、父さんのスキルをお願いしたいんだわ」

『サラッと出た額がすごいね。スキルって転移? いいけど、どっかに行きたいの?』


 俺はレティシアのことを含め、これまでのことを説明した。


「――――ってことなんだよー。だからレティシアとイレーヌさんを含めて、連れて帰ってほしいわけ。ちなみにだけど、ノースは行ったことある? エスタでもいいけど」

『なるほどねー。ごめんけど、ノースもエスタもないなー。イースの次に行こうとは思ってたんだけど、その前に母さんに出会っちゃったからねー』


 そういえば、巫女巡りツアーを考えていたって言ってたな。


「じゃあ、しゃーないわ。その後はこっちで何とかするからアルトの俺の家まで連れて行ってよー。もう馬車は無理なんだわ」

『まあ、わかるよ。馬車ってホントきついからね。アルトまで君らとレティシアちゃんとイレーヌさんを連れていけばいいんだね? いつでもいいよ』


 さすがは父さんだぜ。


「じゃあさ、俺のスマホの24時間の制限があるから明日の朝にウチに来てくれない?」

『ん。わかった』

『終わったー? 抱きしめてぇ……』


 電話越しにめっちゃ嫌な声が聞こえてくる。


「20歳の息子の前で甘い声を出すなや、ババア!!」

『おいこら、クソ息子! 誰がババアだ!!』


 先ほどの甘い声とは一転してドスの利いた声が聞こえてきた。


「お前だ、わがままクソ姫! めっちゃ不快だから盛るなや!」

『…………そのあだ名を誰に聞いた!? ハゲかバカ兄貴か!?』

『2人共、落ち着いてって』


 父さんが俺らを宥めてくる。


『あん、もうリュウジさんったらー』


 多分、電話の向こうで父さんが母さんを抱きしめたな…………

 うっぜ。


「父さん、伯父さんがロスト王の名において、あんたらの結婚を認めるってさー」


 一応、伝えておこう。


『それはありがたいね。絶対に幸せにしますって伝えておいて』


 そいつは幸せだから大丈夫。


「いや、自分で伝えて。どうせ会うことになるし」

『それもそうだね。じゃあ、明日、そっちに行くよ』

「お願い」

『ケッ! バカ兄貴が偉そうに! お前に認められんでも勝手に結婚したわよ! それにリヒトちゃんという幸せの結晶も生まれたわよ!』


 ほら、言った。

 誰も言わない方に賭けてないけど。


 あと、幸せの結晶とかそういうことを言うのはやめて。

 マジでやめて。

 頼むからやめて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る