第108話 名案とはこのこと!
「ハァ……」
俺は目を覚ますと身体を起こさず、ため息をつく。
「どうしたの?」
声がしたので右を向くと、隣で寝ているフィリアがこちらに顔を向けて見てきていた。
「次はノースだってさ」
「女神様からの啓示? また遠いねー……」
ホントになー……
「ハァ……詳しく話すわ。ヘイゼルー、起きろー」
俺は逆の方で寝ているヘイゼルを揺り起こすことにした。
ヘイゼルを起こすと、宿屋の店員に朝ご飯を頼み、持ってきてもらう。
そして、ご飯を食べながらフィリアとヘイゼルに夢の内容を伝えた。
「やだなー……きっつ」
ヘイゼルがものすごく嫌な顔をする。
「俺も断りたいわ……」
「ノースって、エスタの北よ? ここからアルトの町に帰って、そこから10日もかかる。私、アルトに着いたら町から出たくなくなる病気にかかると思う」
俺もかかると思う。
「女神の使命だからしゃーないだろー。一応、終わったらギフトをくれるって言ってるし」
「リヒトさー…………私、日本の家で待っててもいい?」
ヘイゼルがついに言った。
おそらく、誰もが脳裏に浮かんでいたであろうが、あえて、言わなかったことを。
でも、ヘイゼルはもう無理っぽいなー……
「わかった。でも、ロストを出るまでは付き合え。馬車や護衛を陛下とお前の親父が出してくれるんだからお前がいなくなると、さすがにヤバい」
帰る時にヘイゼルがいなくなれば大問題だ。
下手すると、義父に殺されるかもしれん。
「うん……わかった。ごめんね…………」
ヘイゼルがしょぼーんとして、謝ってきた。
こら、重症だわ。
よほど馬車の旅が嫌らしい。
「あのさー…………実を言うと、私もそれをお願いしようかと思ってたんだよねー」
フィリアが言いにくそうに言う。
「お前も家で待ってていいぞ。エーデルに着いたらそこからは俺1人で帰る」
まあ、ヘイゼルを1人で家に置いておくと、ガチでへこみそうだし、フィリアがついていた方がいいだろう。
「いやさ、それで今思ったんだけど、お義父様に頼めない?」
ん? …………あ!
「そうだ…………アルトまでだったら父さんの転移で帰れるじゃん」
父さんは一度行ったことがある場所なら飛べる。
俺がロストまで頼まなかったのは父さんがロストに行ったことがないからだ。
だが、アルトは飛べる。
だって、神父様と顔合せしたし…………
「マジじゃん! お義父様に頼めば速攻で帰れるじゃん!」
さっきまで暗かったヘイゼルの顔が花が咲いたような笑顔になった。
「だなー! あの人の子供になって20年は経つが、今が一番の尊敬だわ」
パパ、最高!
「でも、陛下に何て言おう?」
ヘイゼルが首を傾げて悩む。
「陛下にはお義父様のギフトを言えばいいんじゃない? どっちみち、お義父様とお義母様が異世界にいることは知っているだろうし、逆にそのギフトでレティシア様を安全にノースまでお連れするって提案すればいいじゃないかな?」
フィリアって、本当に賢いなー。
「なるほど。父さんが北に行ったことがあるかはわからないけど、アルトまでは連れていけるしな。陛下に夢の使命のことを言って、提案してみるか…………」
「良いと思う」
「うんうん。お父様やお母様には悪いけど、マイラーに寄るのはなしってことで!」
親不孝者め……
「じゃあ、ご飯を食べ終えたら城に行って、陛下に話をしに行こう」
「うん」
「おー!」
ヘイゼルがガチで元気になった。
この子って、本当に感情の起伏が激しいなー。
そら、領主様から3流貴族とか言われるわ……
◆◇◆
朝ご飯を食べ終え、準備をして宿屋を出た俺達は王城に向かった。
そして、城の正門前に着くと、門番に近づく。
「おはようございます」
「おー、リヒト殿、おはようございます。今日も2人の美しい奥様と一緒で羨ましいですなー」
ふっふっふ。
いいだろう?
「世界で一番幸せなのは自分でしょうね」
「おー! うざい! 殴りたくなりました」
やめて。
「まあ、軽口はこの辺で…………実は陛下にお目通りを願いたい。女神様の使命のことで話があると伝えていただけると」
「女神様の…………かしこまりました。すぐに伝えて参りますので少々、お待ちを!」
門番の兵士はすぐに城の中に走っていった。
ちょっと待っていると、先程の兵士が走って戻ってくる。
早いなー……
まだ10分ぐらいしか経ってないのに。
「お待たせしました。陛下がお会いになるそうです、執務室におられますのでどうぞ」
兵士はそう言って、通るように促してきた。
もはや案内もなくなったか……
いくら女神様の使者とはいえ、信用しすぎでは?
まあ、ヘイゼルの親父さんとフィリアのじいちゃんのおかげだろうな。
俺はフィリアとヘイゼルの保護者に感謝し、執務室を目指す。
城の中に入って、普通に歩いていても、兵士や文官は挨拶をしてくるくらいで特に咎めることも職務質問を受けることもなかった。
警戒をしているのかしていないのかわからん。
俺達はそのまま歩いていき、執務室の前までやってきた。
執務室の扉の前には警護の兵士がいる。
「おはようございます、リヒト殿、話は聞いております」
警護の兵士は俺を見るなり、話しかけてくる。
「おはようございます。陛下は部屋に?」
「そうですね。少々、お待ちを…………陛下、リヒト殿がいらっしゃいました」
兵士は扉をノックし、部屋の中に声をかけた。
「通せ」
「はっ! リヒト殿、どうぞ」
陛下の許可の声が聞こえ、兵士が促してきたので、俺達は部屋の中に入る。
部屋の中には昨日とまったく同じで王様と宰相殿がおられた。
「おはようございます」
部屋に入ると、俺は2人に朝の挨拶をする。
「ああ、おはよう。して、女神様の使命のことで話があるとは?」
陛下が早速、本題に入ってきた。
「実は昨日、夢に女神様が現れ、レティシア様をノースまで連れていく使命を受けました」
「やはりそうか!」
どうやら予想していたらしい。
「なんでわかるんです?」
「実はな、お前を引き止めていたのには理由がある。お前にレティシアをノースまで連れていってもらおうと思っていたのだ」
なるほどね……
だから10日も待たせてたのか。
「ちなみにですが、何故、私なのでしょうか? 私、弱いですよ?」
「そんなもんは見ればわかる。お前にそういうのは求めてない。私が求めているのは未来視だ。その力があれば危険を避けられる。囮の馬車を出し、その後にこっそりお前に連れていってもらう計画を立てていたのだ。何よりお前は親族で信用できるからな」
詐欺師ですけどね。
「なるほど。そういうことでしたか……」
「受けてくれるな? 謝礼は出す」
謝礼は嬉しい。
伯父からのおこづかいだ。
「もちろん受けます。謝礼ももらいます」
「よろしい! 早速、詳細な計画を練ろう!」
「それについてですが、実は提案があるのです」
俺も本題に入ることにする。
「提案? 何か考えがあるのか?」
「陛下は私の両親が異世界にいることはご存じですよね?」
「まあ、そうだろうとは思っている。お前が異世界人だし、写真とやらも見せられたからな」
説明はしていなかったが、想像はつくわな。
「実は私の父のギフトは転移なのです。行ったことがある場所に飛べます」
「それでソフィアが異世界に嫁いだのか………ん? 待て。転移だと?」
王様も気付いたようだ。
「さようです。父がノースに行ったことがあるかはわかりませんが、少なくともエーデルのアルトにある私の家には飛べます。私達が結婚する際にディラン様と顔合わせをしましたので」
「でかした! それを使えば、レティシアを安全にノースまで連れていける! リュウジ殿に伝えよ。ロスト王の名においてソフィアとの結婚を認めるとな」
テンション高いなー……
「あんたに認められるまでもないわよ」
俺は母が言いそうなことを予想してみる。
「うわっ、言いそう…………」
宰相殿が嫌そうな顔をしながらつぶやく。
「賭けるか? ワシは言う方に賭ける」
王様が賭けにならないことを言ってきた。
「皆がそっちに賭けますよ」
「だろうな…………ハァ……しかし、リュウジ殿の能力は素晴らしいな。なんであんなのと結婚したんだろう?」
「女神様もおっしゃっていましたよ。あんなわがまま姫のどこがいいんですかねーだそうです」
俺というか、フィリアとヘイゼルにも言われたけど。
「女神様にまでその認識なのか…………」
なんかごめん。
でも、俺の母親だけど、あんたの妹やで?
「まあよい。自由人の考えることはどうせわからん」
「ですねー。それで、そのように進めてもよろしいでしょうか?」
俺は話を戻し、結論を聞く。
「ああ、頼む。リュウジ殿とは連絡が取れるのか?」
「はい。ただ、少々、時間をもらうかもしれません。父はあっちの世界では転移ができないようですし、母と外国で遊んでいる可能性があります。数日は時間をもらうかもしれません」
両親がどこにいるか知らないからなー。
マンションにいれば早いが、また外国に行かれてたら時間がかかるかもしれない。
「構わん。それでも馬車での移動よりもはるかに速い。お前はリュウジ殿と連絡を取れ。その間にワシは教会に説明しておく」
「わかりました。では、そのように進めます。私はこれからレティシア様に説明をしに行こうと思います」
「頼む」
俺は話を終えたので執務室を出て、レティシアの私室に向かうことにした。
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