第105話 修行の終わり
レティシアに巫女になるための指導を始めて数日が経った。
レティシアは毎回会うたびに実力をつけているのがわかる。
というか、精霊の光が強くなっているのだ。
そして、今日。
俺は日本の家に帰っていたのだが、フィリアが朝から揚げてくれた唐揚げを持って、レティシアの部屋に来ている。
レティシアとイレーヌさんにタッパーに入れてきた唐揚げを渡すと、その場で食べだした。
「美味しいです! 確かに別物ですね! すごいです!」
「でしょー……ってか、あんたの嫁さん、めっちゃ料理が上手じゃない?」
ふふん!
すごかろう!
自慢の嫁なのだ!
「ちょっとべちゃついていると思うんですけど…………」
フィリアが恥ずかしそうに言う。
「いや、ちょっとべちゃついているけど、タッパーに入れてたからでしょ。こればっかりはどうしようないし、それでも十分に美味しいわよ」
「そうですよ!」
なお、俺達が朝食として食べた時にはべちゃついてなかった。
美味しかったけど、朝から唐揚げはちょっとキツかった。
「あー、このガッツリとした味がホント、懐かしいわ」
「この国の味付けって薄いしな」
「そうなのよね。まあ、慣れたけど、やっぱこっちがいいわ。最近はマヨネーズと醤油で生きてるけど」
そのうち太りそうな巫女候補だな。
「じゃあ、唐揚げも満足したんだったら修行をするかー。精霊はどんな感じ? そろそろ出せると思うんだけど」
俺は2人が唐揚げを食べ終えたようなので修行の進捗状況を聞いてみる。
「ふふふ! 見てなさい!」
レティシアは不敵に笑うと、手を掲げた。
まあ、その反応で大体わかるが、見てみよう。
レティシアがそのまま目を閉じると、レティシアの手の周りが光り出す。
最初にやった時の薄っすらとした光と比べると、かなりの光量だ。
光はさらに強くなると、次第に光が実体を現し始める。
そして、その光は小さなトカゲへと変わった。
「ハァハァ……どうよ!」
レティシアは息を荒くしながら目を開けた。
レティシアの手のひらの上にはトカゲが乗っている。
間違いなく、サラマンダーだ。
「おー! ついに精霊の実体化に成功したな!」
「でしょー。ハァ、ハァ……これも私の才能ってやつよ……ゲホッゲホ!」
満身創痍じゃねーか……
「大丈夫か?」
「ちょっと疲れたわ……まあ、そのうちもっとスムーズに出せるようになるでしょ」
「まあ、慣れるだろうしな。そこまで出来たら巫女になれそうだなー」
「よーし! 私の時代だ!」
レティシアは疲れ切っているが、やる気に満ちあふれているようだ。
「じゃあ、このことを陛下に…………」
……伝えてくれませんか?
って、イレーヌさんに言おうと思ったが、イレーヌさんがこの部屋から出るのはマズい気がする。
「イレーヌさん、私が陛下に伝えにいこうと思いますけど、陛下はどちらに?」
「そうですね。人を呼びますので案内させましょう。少々、お待ちください」
イレーヌさんはそう言うと、扉の方に歩いていく。
そして、扉に近くにあった鈴を鳴らした。
「鈴なんてあったんだ…………」
初めて気づいた。
「あの鈴は魔道具なんだけど、鳴らすと、もう1個の鈴が鳴るのよ。まあ、簡単に言えば、呼び鈴ね。ロストの上流家庭にはどこにあるわよ」
そういえば、ヘイゼルの家にもあった気がする。
「魔道具って便利だなー」
気配を消すやつとか、魔法を封じるやつは嫌いだけどね。
多分、ヘイゼルはもっと嫌いだろう。
「リヒト様、兵士が来ましたのでついていってください。陛下への謁見の許可が下りました」
扉の近くにいるイレーヌさんが声をかけてきた。
「謁見……?」
え?
また、あれやんの?
「ああ……普通に執務室でお会いになられるそうなので大丈夫ですよ」
良かったー。
あんなんは二度とごめんだわ。
俺はフィリアとヘイゼルに待つように言うと、安心して部屋を出る。
部屋の外では兵士が待っていたので、案内してもらうこととなった。
兵士についていくと、陛下の執務室はレティシアの部屋から近いようで兵士が立ち止まった。
「こちらになります…………陛下、リヒト殿をお連れしました」
兵士は俺に到着を告げると、扉をノックし、声をかけた。
「ご苦労。入れ」
扉の中から陛下の入室を許可する声が聞こえてくる。
「どうぞ」
俺は兵士に促されたので執務室に入った。
執務室は王様の執務室は思えないくらいに質素であり、広さも10畳程度でそこまで広くない。
陛下の横には宰相殿もおられ、陛下は机で書類作業をしていたようだ。
「お忙しいところ申し訳ありません」
「いや、良いタイミングだったぞ」
陛下は嬉しそうだが、宰相殿はそんな陛下を見て、呆れている。
どうやら、陛下はサボりたかったようだ。
「リヒト殿、何用ですかな? 殿下の巫女修行に進捗でも?」
宰相殿が早速、本題に入った。
多分、陛下に話させると長くなると思ったのだろう。
「レティシア様がサラマンダーを実体化させることに成功しましたのでご報告に参りました」
「は?」
「なんだと!?」
宰相がマヌケな声を出し、陛下は大きな声を出して驚いた。
「思ったよりも早かったですが、元々、才能も十分でしたし、本人のやる気と努力のおかげでしょう」
歴史に名を残したいらしいし。
「あの、まことですか? 精霊を実体化など聞いたことが…………あ、普通にソフィア様がいたか…………」
俺もできるよー。
「もちろん、まことです。後で見せてもらうといいでしょう…………現在、教会では火の巫女様の選定に入っております。ただ、その選定されている3人の素質はレティシア様以下です。今ねじ込めば、レティシア様が火の巫女に選ばれるでしょう。レティシア様もやる気です」
「うーむ、そうか…………というか、お前、詳しいな」
悩んでいた陛下が顔を上げて見てくる。
「占い師ですので…………」
「占い師ってこんなんだっけ?」
「さあ……? 少なくとも、私の知る占い師とは違うようです」
俺、本物!
そこらへんのインチキとは違うのだ!
「それでいかがなさいますか? 多分、巫女にはなれそうですし、本人もやる気です。陛下の妹のようにはならないでしょう」
「お前の母親な…………わかった。教会に言おう。宰相、頼む」
「かしこまりました。かつて、我が国から優秀な巫女が生まれ、消えました。今度また、優秀な巫女が生まれたのも運命でしょう」
母の無念を晴らしてほしいね。
逃げた本人はこれっぽっちも無念とは思ってないだろうけど。
「わかっておる…………リヒト、ご苦労であった。これでお前の使命も終わりだと思うが、数日は宿屋で待機しておいてくれ。帰りの馬車くらいは用意してやる」
「わかりました。ちょっと観光とかするかもしれませんので、何かあれば、宿の者に伝えていただけると……」
暇だし、王都を見て回ろうかな。
「うむ。実に大義であった。あとで褒美を取らせよう」
マジ?
ただ働きと思っていたが、さすがは伯父上!
「ありがとうございます」
「では、下がってよい。ヘイゼルやフィリアにもご苦労だったと伝えてくれ。特にバーナードの忠誠に感謝するとな…………」
「わかりました。では、失礼します」
俺は複雑な表情を浮かべている陛下に一礼すると、部屋を出た。
そして、外で待機していた兵士に案内されて、レティシアの部屋に戻る。
俺が部屋に戻ると、レティシアとヘイゼルが神経衰弱をしていた。
「あ、おかえり。どうだった?」
白熱した2人の神経衰弱を見ていたフィリアが声をかけてくる。
「陛下が教会に話すそうだ。俺達の仕事は終わり」
「そっかー。帰るの?」
「いや、数日は待機だそうだ。まあ、教会に話してみての様子見だな。それと、陛下が報酬をくれるってさ」
「おー…………王様の報酬…………」
フィリアがにやけだす。
「ねえねえ、あんたの嫁、めっちゃ強いんだけど…………」
俺とフィリアが話していると、レティシアが文句を言ってくる。
「ヘイゼルは神経衰弱だけはめっちゃ強いぞ。なにせ、一度めくったカードは全部覚えてるし、取りこぼしをしない」
ババ抜きとかは引くレベルで激弱だが、神経衰弱は普通に強い。
運と記憶力の勝負だからなー。
「イレーヌともやってんだけど、これだけは全然、未来が見れないのはなぜかしら?」
遊んでるからだろ。
俺だって、遊んでいる時はそんなに見えない。
やっぱりピンチさがいるな。
「お前がノースに行くなら道中に色々とあるだろ。そん時にでも鍛えろよ。まあ、馬車の中でトランプでもしな」
「時間もあるし、このトランプを持っていこうかな……………………って、イレーヌが吐く未来が見えたわね…………」
そっちが酔ったか……
てっきりレティシアかと思っていたんだが……
「ほら、発動した。やっぱりお前は不幸の方が見やすいんだな」
「なるほどねー」
「…………あのー、私、今、この人に馬車酔いさせられそうになってませんでした?」
俺は気のせいだと思うな、うん。
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