第104話 早くアルトに帰りたいなー……


 この日の修行は終わった。

 俺はレティシアに教えておいた精霊の出し方と未来視の修行を自主練するように言うと、ヘイゼルを宥めながら宿屋に戻った。


 宿屋に戻ると、スマホのアプリを使い、日本の自宅に帰る。

 そして、フィリアが風呂に入っている間に、まだ怒っているヘイゼルを宥め続けてた。


「ごめんって」

「イレーヌさんが言っていた手口を聞いた時にものすごく身に覚えがあると思ったわ!」

「あの時はどうしてもお前とほら、ね? 楽しみたかったんだよ」


 俺はさっきからヘイゼルを抱き寄せ、頭を撫でている。

 まあ、それを許しているくらいだからそこまでは怒っていないと思う。

 多分…………


「普通に言えばいいじゃん! わざわざはめなくてもいいじゃない!」

「ごめんよー。もうしないから」

「すごく信用できないんだけど」

「ホント、ホント。結婚してからはしてないし」


 これは本当。

 トランプは普通にした方が楽しいしね。

 あのイカサマはヘイゼルとそういうことがしたかったからやってただけ。


「上がったよー。あ、まだやってる」


 フィリアが風呂から上がり、リビングに戻ってきた。


「ヘイゼル、風呂に入っておいで」

「そうする」


 ヘイゼルが風呂に行くと、代わりにフィリアがソファーに座った。


「リヒトさん、あれはないよー」


 フィリアが笑いながら責めてくる。


「あのメイドが全部バラすんだもん」

「そりゃあ、お姫様を守る騎士だから悪い詐欺師から守ろうとするでしょ」


 実にごもっとも。


「ヘイゼルが怒っちゃったじゃん」

「そんなに怒ってはないと思うけどね。どうせその罰ゲームとやらも乗り気だったでしょ」


 雰囲気的にはね。

 所詮は罰ゲームという名のイチャイチャだよ。

 問題はイカサマがバレたこと。

 うーん、今日はヘイゼルと一緒に寝よ。


「ご機嫌を取らないとなー」

「まあ、ヘイゼルさんもそれ目当てのふしもあるけどね。頭を撫でられて嬉しそうにしてたし」


 そうなん?

 抱き寄せてたから顔は見えていないのだ。


「うーん、まあ、俺が悪いし、ちゃんと謝るわ」

「頑張って。私は昼ご飯を作るよ」


 フィリアはご飯を作りに行ったのでソファーでぼーっと待っていると、ヘイゼルが風呂から上がってきた。


「上がったわよー」


 うーん、確かに機嫌が直っているようにも見える。

 とはいえ、油断は禁物だ。(ガラ悪マッチョのアドバイス)


「ほーい」


 俺はさっさと風呂に入り、疲れを取る。

 風呂から上がり、ご飯を食べ終えると、いつも通り、ソファーでまったりと過ごすことにした。

 なお、俺はヘイゼルのご機嫌を取るため、ヘイゼルの頭を膝の上に乗せ、頭を撫でている。


「レティシア様はいけそう?」


 フィリアがレティシアの巫女候補としての状況を聞いてくる。


「大丈夫だと思う。女神様が指名したかはわからんが、素質は十分にあるし、あれは成長も早そうだわ」


 最後の賭けはほぼ遊びだったが、精霊を出すのも未来視も今日だけであそこまでできるとは思っていなかった。

 まあ、だから騙して遊ぼうと思ったんだけど。


「どんくらい?」


 ヘイゼルが頭をこちらに向けて見上げてきた。


「多分、1週間くらいかなー」

「殿下、すごいわね」


 ヘイゼルが感心している。


「お前も未来視はともかく、精霊を出すのなら早いと思う」

「そんなもんなん?」

「そんなもん。それが終わったらようやくアルトに帰れるなー」


 俺はヘイゼルの頬に手のひらを当てる。


「まーた、あの道を帰るのかと思うと、辟易するけど、早く帰りたいわね」


 ヘイゼルが俺の手を掴み、目を閉じた。

 俺はヘイゼルの顔に近づき、キスをする。


「私の隣で何してんの?」


 さすがにフィリアが文句を言ってきた。


「悪い悪い。それよか、お前らにも修行を付き合わせて悪いなー。暇だろ」


 正直、フィリアとヘイゼルは俺がレティシアに教えている間はやることがない。

 めっちゃ暇だと思う。


「まあ、暇だね。でも、仕方がないよ」

「さすがにいくらイレーヌさんがいるとはいえ、リヒトを1人で行かせるのはマズいわよ。他の人達は従兄妹同士って知らないからね」


 やっぱ嫁2人を連れていくってのは大きいか。


「だよなー…………今日明日はゆっくりして、明後日の朝に帰ろう。そのまま王城に行くけど、お前らは暇つぶしの物でも持っていっていいぞ」


 レティシアも文句は言わないだろ。


「そうねー……フィリア、トランプしようよ」

「ホントに好きだねー。さすがにお酒は飲めないし、いいよ。1人で編み物するよりかは楽しいし」


 2人はトランプをするらしい。

 俺がレティシアとトランプやESPカードで特訓している横でトランプか…………

 いいなー。

 俺もそっちがいいわ。


 俺達は今後の予定を決めると、家でまったりと過ごした。

 翌日は3人でお出かけをし、帰りに自分達の食料に加え、レティシアとイレーヌさんから頼まれていた物を購入する。

 さすがにコンビニの唐揚げは明日の朝の出発前に買うことにした。


 家に帰ると、ゆっくりと体を休め、就寝する。

 そして、翌日、朝ご飯を食べ、コンビニで唐揚げを買って家に帰ると、あっちの世界に転移した。


 宿屋に転移し、そのまま外に出た俺達は王城に行き、レティシアの部屋に向かう。

 部屋の前に着くと、扉をノックした。


「はい?」


 前日と同様にイレーヌさんの声がする。


「私です。リヒトです」

「どうぞ」


 俺が声をかけてすぐに扉が開き、イレーヌさんが出迎えてくれた。

 俺達はそのまま部屋に入ると、テーブルの前の椅子に座る。


「遅かったわねー。だいぶ待ったわよ」

「24時間の充電期間がなー。しかも、6時間の時差があるからタイミングが難しいんだ」


 こっちの世界の朝に転移するには向こうの深夜に転移しないといけない。

 それはさすがに嫌……

 そうなると、どうしても朝に転移することになるからこっちに来た時は昼になってしまうのだ。


「時差まであるのか…………それはめんどくさいわね」

「まあなー。それよか唐揚げを買ってきたぞ。他にも色々。ヘイゼル」

「うん」


 ヘイゼルが頼まれていた物を収納魔法から出していく。


「こんな感じでいいか? あ、このビーフジャーキーはイレーヌさんのです」


 俺はビーフジャーキー5袋セットのやつをイレーヌさんに渡す。


「ありがとうございます!」


 イレーヌさんは本当に嬉しそうだ。

 相当、ハマったんだろうね。

 まあ、ビーフジャーキーって結構美味いもんな。


「おー! これよこれ。しかも、普通のやつと辛いのとチーズの3種類もある!」


 レティシアが嬉しそうに唐揚げを手に取って見ている。


「あー、それね。どれがいいのかわかんなかったから3つ買ってきた」


 定番の3つならどれかは当たりだろうと思ったのだが、全部当たりっぽいな。


「まあ、全部やるわ。温かいうちに食べろよ」


 唐揚げは冷えたら美味しくないだろうし。


「そうする! イレーヌもあげる」

「いただきます」


 2人は唐揚げを分け合い、食べていく。


「あー、唐揚げって鶏肉ですか。確かに美味しいですね。食べやすいし、すごく柔らかいです」

「でしょー。一時期、ハマったなー」


 2人はあっという間に食べ終えると、次に辛いやつを食べだした。


「懐かしいわー。美味しいわー」

「あー、ホントにちょっと辛いですね。でも、私はこっちの方が好きです。うん、美味しい」


 辛いやつもすぐになくなる。

 そして、最後のチーズに手を伸ばした。


「チーズ自体が10年ぶりなのよね…………やっぱこれよ。あ、ピザが食べたくなってきた」

「チーズって、ロストでは南部でしか作ってない高級品ですよ。うん、美味しい」


 2人はあっという間に3種類の唐揚げを平らげてしまった。


「美味しいけど、すぐね」

「食べやすいのも考えものですね。しかし、作ったやつはこれを超えるんですか?」

「まあ、ほぼ別物だしね。めっちゃ美味い。太るけど…………」


 2人はフィリアをじーっと見る。


「あ、今度、作って来ますんで」

「冷凍のやつでいいだろ」

「ちゃんと揚げるよー」


 フィリアは優しいなー。

 朝から唐揚げを揚げるって相当めんどいと思うんだけど。


「らしいから。今度な。それまでは買ってきたやつでも食べてな。じゃあ、修行をしようか。自主練はどんな感じ?」


 俺は留守にしていた間の成長具合を聞く。


「精霊はそこそこ光るようになった。見てて」


 レティシアはそう言うと、手を掲げ、目を閉じた。

 すると、レティシアの手の周りが光りだす。

 その光量は間違いなく、先日よりも強かった。


「おー! ホントだ。この調子なら1週間もかかんないだろ。その調子で頑張れ」

「ホント!? やった!」


 日本に来たら良い霊媒師になれると思う。

 一緒にツボを売るか?


「未来視は?」

「それはあんまりかな……あの後、イレーヌと罰ゲームをかけてやったんだけど、1、2回見えたくらいかなー」

「まあ、それは気長でいい思う。多分、今でも災害くらいはなんとなくわかるんじゃないかな? 肝心の災害が滅多に起きないから確認のしようがないけど」


 こればっかりは神のみぞ知るってやつだ。


「この調子でいける?」

「いけると思う。サラマンダーを実体化できたら陛下に頼んで巫女候補にしてもらえ。後は無意味な修行をして、精霊との親和性を高めながら待っていればいいと思う」


 草を食べようぜ!

 俺は絶対に食べないけど!


「嫌なことを言うわね…………あのさ、実際、火の巫女様は引退するのかな?」

「占ってやろうか? 初回割引きで金貨1枚だぞ」

「金を取るんかい」


 ホントは10枚なんだぞ!


「安いもんだろ」

「まあねー。じゃあ、はい」


 レティシアが金貨1枚を取り出し、テーブルの上に置く。


「まいどあり。では、占おう…………ふむふむ」


 なるほど、なるほど…………


「どう?」

「まずなんだが、火の巫女様って、80歳を超えたばあさんじゃん。いや、もっと前に引退させろよ」


 どんだけ働かせるんだよ。

 老人を労われや!


「そんなにいってんの!?」


 レティシアが驚く。


「ご高齢とは聞いていましたが、80歳オーバーですか…………すごいですね」


 イレーヌさんも驚いたようだ。


「生きてるだけでも立派だわ」

「それで、引退はいつ?」

「それな。もう、ほぼ引退してるわ」

「は?」

「いやね、引退したいんだけど、いい感じの火の巫女候補がいないっぽい。かろうじての候補が3人いるんだけど、そいつらも微妙で教会が悩んでるって感じ。巫女のばあさんもそれまでは引退をさせてあげられないみたいだわ」


 巫女の選別待ちって感じだな。


「巫女様って、本当に大変ねー。でも、本当に時間がなさそうね」

「そうだけど、これはチャンスだな。微妙な3人で悩んでいるところにサラマンダーを実体化できる巫女候補が現れたら多少、他の能力が微妙でも食いつくぞ」

「確かに! というか、その場合、私は修行なしじゃない? 火の巫女様の状態的に修行をしてる暇はないでしょ」

「だな。教会も修行は巫女になってからでいっかーって思うだろう」


 そんでもって、こいつは巫女になったら修行をしない。

 いや、するんだけど、無意味な苦行はしない。

 わがままぷーの巫女様の再来だ!


「よし! やるぞ! 私は巫女となり、ロストの……いや、世界の歴史にレティシアの名を刻むのよ!」


 こいつ、結構な野心家だな…………

 名誉欲が強いわ。


「頑張れー」

「おら、従兄! ESPカードを出せ!」

「はいはい」


 まあ、やる気を出してくれるのは嬉しいわ。

 俺らも早く帰れるし。

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