第103話 だって、罰ゲームって言えば、何でもやってくれるんだもん
ESPカードを使っての未来視の特訓を続けているが、レティシアはなかなか上達していなかった。
「難しいわねー。というか、出来る気がしない」
「まあ、初日だしなー」
「コツも理解できないし、感覚がわかんないのよね」
未来を見ろって言われても普通はわからんわなー。
「そうだなー。じゃあ、過激なことでもするか?」
「過激って?」
「目を閉じてみ?」
「頭を叩く気でしょ!」
わかってんじゃん。
「それが未来視だなー。頭を叩くのを想像しただろ?」
「え? マジ? これ?」
「それ」
やっぱり身の危険は発動しやすいな。
なお、本当に叩いたら俺はメイドさんに殴られてた。
「もう1回やって」
「じゃあ、立ってみ?」
「あ、スカートを…………あんた、クソすぎでしょ!?」
「いや、やってねーだろ」
なお、本当にめくっていたらメイドさんにフルボッコにされていた。
「未来視はすべてのことが見えるわけじゃない。大きいことや身の危険に強く反応するんだ」
「もう1回やって!」
「ダメ。これ以上は実際にやんなくてもイレーヌさんにボコられる」
髪を引っ張ろうとしてたって言うと、イレーヌさんが関節をきめて拘束してくる未来が見える。
「まあ、本当にスカートをめくったら牢獄行きだしね」
それで済めばいいね。
お前の親父さんにもフルボッコですわ。
「じゃあ、感覚を掴んだところでESPカードに戻ろう。これは?」
「えーっと、星!」
「残念。四角でしたー」
俺はそう言いながらカードをめくる。
「もうちょっとな気がするんだけどなー。うーん、怒んないし、イレーヌも止めるからやってよ」
えー…………
今、絶賛、イレーヌさんと嫁2人の評価が著しく下がっているんだけどなー。
「じゃあ、ロシアンルーレットでもやるか?」
「昨日の銃、リボルバーじゃないじゃん! もっとマシなのをやって!」
「と言われてもなー。うーん、後で罰ゲームをかけて、イレーヌさんとやれよ。俺はイレーヌさんに斬られたくない」
セクハラしたら斬られるし…………
「そうしようかしら…………」
「じゃあ、気を取り直して、神経衰弱でもやるか」
「あ、それは面白そうね」
俺はESPカードをしまい、トランプを取り出すと、適当に並べていった。
「じゃあ、どうぞ。負けたら金貨1枚な」
「賭けんの?」
「多少のリスクがあった方が発動しやすかっただろ」
「確かに…………じゃあ、そうしましょう」
俺達は2人で神経衰弱をすることにし、レティシアの先行で始めることにした。
「これかしら? うーん、違った」
「じゃあ、俺な。これかな? あ、違うわ」
俺達は白熱した試合を行っていく。
そして、俺とレティシアの所持数が同枚数で並び、最後の4枚となった。
「ほれ、ここでお前が引けば勝ちだぞ」
「よーし! うーん、ダメだ……見えない。これかな? あ……」
「残念だったな。じゃあ、俺が引いて、勝ちだわ」
俺はレティシアが2枚をめくったので、当然、すべてのカードがわかり、残りの4枚を手に入れた。
「惜しかった……」
「ほれ、金貨1枚を寄こせ」
「わ、わかったわよ。でも、もう1回よ!」
俺とレティシアはその後も神経衰弱を続けていく。
毎回、残り4枚の段階になり、レティシアが引くパターンになるのだが、絶対に引くことはなかった。
そして、これが8回目の残り4枚である。
「ほら、ここでお前が引けば勝ちだぞ。当たり前だが、引けなかったら俺の勝ち」
「いっつもここまで来るのになー」
まだ未来視は発動しないらしい。
というか、気付け。
8回連続も同じ展開になり、毎回負ける不自然さを疑わないのかな?
まあ、そうやって熱くなるように仕向けているんだけど…………
「うーん、やっぱり引ける未来が見えない…………これかな? って、また負けたー! なんで!?」
「じゃあ、俺が引いて勝ち」
俺は残り4枚を引き、またしても勝った。
「ほれ、金貨1枚を寄こせ」
「くっ! あとちょっとなのに! もう1回よ!」
まだやるらしい。
いくら儲けられるかな?
やっぱ詐欺は楽しいわ。
「姫様、その辺にしましょう」
イレーヌがレティシアを止める。
「何を言ってるのよ! あとちょっとなのよ!?」
「姫様……そうやって勝ちをちらつかせて破産させるのがイカサマの常套手段です。未来視の修行ですし、そのうち気付くと思って黙っていましたが、このままではマズいので止めます」
「は? イカサマ?」
レティシアが呆ける。
「8回も同じ状況になり、毎回負けるのは異常です。わざとそうなるように仕向けられてますし、最後の4枚で姫様が当たりを引けることは決してありません。カードをすり替えられているんです。熱中している姫様は気付かないでしょうが、1歩外で見てると、すぐにわかります」
「え?」
「このゲームで姫様が未来視で見ないといけないのはカードを見ることではなく、イカサマされ、金貨をむしり取られた自分の未来を見ることです」
全部言ったし…………
「マジ?」
レティシアが俺を見てきた。
「確率3分の1で外し続けるわけないだろ。イカサマに決まってんじゃん。わかりやすくしてやったのに気付かないから気の毒になってたわ」
「ひ、卑怯よ!」
「というかね、さっきも言ったけど、俺は全部わかるんだぞ。お前が勝てるわけないじゃん」
俺はトランプをシャッフルすると、適当に並べていく。
そして、1枚ずつ、めくっていった。
もちろん、全部同じ数字の4枚1セットをエースから順番に引いていく。
「………………」
「………………」
俺がカードをめくっていくと、レティシアが俯き、イレーヌさんは手で目を抑え、天を仰いだ。
「毎回、お前を先攻にさせてただろ。お前が勝つには最初のターンで半分以上を合わせることだけ。それ以外は絶対に負ける。あと、お前が最後の4枚で引ける未来が見えないのは当たり前。こうやってすり替えてる」
俺が順番にめくっていき、最後の4枚をめくると、本当なら13のキングが4枚のはずだが、揃っていないバラバラの数字の4枚だった。
レティシアが未来視で見えるわけがない。
だって、当たる未来はないのだから。
「詐欺師め!」
顔を上げたレティシアが睨んでくる。
「金貨1枚どころじゃないリスクを与えてやったんだよ。イレーヌさんが言わなかったら30枚は稼ぐ予定だった。でも、イレーヌさんはすり替えによく気付いたね?」
イカサマを気付くとは思っていたが、すり替えに気付くとは思わなかった。
「姫様が引いた最後の4枚のカードの中にすでに引いたはずのカードがありましたので」
すげー!
よく覚えてるなー!
俺は無理。
「この人、すごいね?」
「私の騎士だから優秀に決まってるでしょ! それより、もう1回勝負よ!」
まだやんの?
「じゃあ、最後はこの金貨8枚を賭けよう。もちろん、イカサマはしない」
「いいわよ!」
また引っかかろうとするお姫様。
「…………姫様、それも詐欺師の常套句です…………絶対に最後にはなりませんし、倍々ゲームで取り返そうとして、最後にはすべてを奪われます…………」
イレーヌさんが悲しい声で止める。
「え? ……………………あんた、マジでクズね!」
「もう1回って言うのはお前だし、俺は受けるだけなんだぞ。お前が下りればいいだけだろ」
「まあ、そうかもだけど……」
「姫様、ダメです。次勝てば取り返せるという希望をちらつかせているんです。でも、絶対に勝てませんし、気付いた時は賭けるものがなくなり、すべてを失っています。これは博打で人をはめる手口なんです」
この人、詳しいな。
同業者じゃねーよな?
「でも、まだ金貨8枚だよー」
俺は悪魔の誘惑を使った。
「姫様、ダメですよ。絶対に聞いてはいけません。これ以上は金貨を賭けるのはダメです。まだ8枚は最悪な言葉です。8枚は16枚になり、32枚になる。そうやって、やればやるほど抜け出せなくなるように出来ているのです。この男、本物の霊媒師とやらかもしれませんが、それ以上に悪質な詐欺師です!」
「こんなもんは遊びなんだけどなー。上流階級の嗜みだし、皆、やってるよー」
「黙れ、詐欺師! 貴様はさっきから詐欺師の定型文しか言ってないぞ! どんだけ騙す気だ!」
うるさい保護者がいるからもう無理そうだな…………
「お前は良い騎士を持ったな」
「そうみたい…………あと、あなたのおかげで未来視が発動したわ。ありがとう」
「ん? そうなん?」
よかったじゃん。
「今からあなたはそういう手口で散々、騙してきた奥さんに怒られる」
レティシアが俺の後ろを見ている。
俺が振り向くと、そこにはトランプの罰ゲームで同じようなことを言って、散々、はめてきたヘイゼルが俺を睨んでいた。
あー…………俺の未来視は発動しなかったわ。
使えねー……
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