第102話 修行!
サラマンダーを見たレティシアとイレーヌさんは固まっている。
「な? 俺、本物の霊媒師だろ?」
俺はパチモノではないのだ。
「あんたって、マジでヤバい人なんだね…………」
「さすがに私もちょっと…………」
引くなや!
尊敬しろよ!
「お前らに悪霊と戦った俺の雄姿を見せたかったわ。それに比べたら精霊なんかたいしたことないのに」
俺はビーフジャーキーに興味津々なサラマンダーを掴んで持ち上げる。
すると、サラマンダーはビーフジャーキーを見ながらじたばたと暴れだした。
「ああ、やめて……私が出したサラマンダーがかわいそう…………」
ヘイゼルって、たまにすごく同情を誘う嘆きを言うんだよな……
すげー、罪悪感があるわ。
「あのさー、あんたが巫女をやればいいんじゃない?」
「私もそう思います」
レティシアとイレーヌさんがとんでもないことを言う。
「俺、男じゃん。それに俺には嫁がいるの! 絶対に嫌だわ! これだから未婚者は…………」
既婚者の気持ちがわからないんだよな。
「あ、殺したくなってきた」
「私にお任せを!」
イレーヌさんが背中から剣を取り出した。
どこに隠してたの!?
「ごめんなさい! 謝るからやめて!」
「私が今年、20歳なことを知って言ってるんですよね!?」
こわっ!
誤解なのにー……
「落ち着きなさい。私の騎士。あなたは私のそばにいればいい」
「姫様…………」
2人が見つめ合う……
百合の匂いがするな…………
あ、そうだ! フィリアとヘイゼルに…………いや、やめとこ。
「まあ、巫女にはならん。そもそも男だし、なれないだろ。もし、なったとしても速攻で母親の記録を塗り替えてやるよ」
1日で逃げる!
「ダメな親子ねー」
「ほっとけ。それよか、これが精霊さんだ」
俺はいまだに俺の手の中で暴れているトカゲを差し出す。
「かわいそうだから離してあげてよ。ってか、四大精霊に何してんの!?」
ただのトカゲなのにうるせーな。
俺は仕方がないのでトカゲをテーブルにポイっと放り捨てる。
「雑っ! 扱いが雑過ぎる!」
「そんなことはどうでもいいから。ほら、サラマンダーさんだぞ。可愛がれ」
「可愛がるって?」
「ビーフジャーキーでもあげろよ」
俺がそう言うと、レティシアは袋を持ち、ビーフジャーキーを2つ取り、1つを自分の口に入れ、もう1つをサラマンダーの目の前に差し出す。
すると、サラマンダーはレティシアが持っているビーフジャーキーに食い付いた。
「あ、たへた! こうひてみると、可愛いわね」
いや、お前も食うな。
メイドも袋に手を伸ばしてんじゃーねーよ。
レティシアはそのままビーフジャーキーをサラマンダーに与え続けていく。
「あれ? もうない。よく食べるサラマンダーねー…………」
「いや、お前らが食べすぎなんだよ!」
サラマンダーは3切れしか食べてねーわ!
「美味しくて……」
「すみません……」
空の袋に頭を突っ込んでいるサラマンダーがちょっと可愛いけど、可哀想だ。
「ヘイゼル、もう1袋出して」
「これがラス一よ」
「レティシア。今度はサラマンダーを手のひらに乗せて食べさせろ」
「わかったけど、ペットみたいね……」
俺もそんな気分だわ。
レティシアはヘイゼルから受け取ったビーフジャーキーを開けると、サラマンダーに手を差し出した。
サラマンダーは完全にレティシアが持っている袋を見ており、何かを察して大人しく、手のひらに乗る。
そして、レティシアがビーフジャーキーを差し出すと、再び、がっつきだした。
「可愛いわねー」
「ですねー」
レティシアとイレーヌさんがうんうんと頷き合っている。
「そろそろいいかな。貸せ」
俺はレティシアの手のひらに乗って、ビーフジャーキーを食べているサラマンダーを掴んだ。
すると、サラマンダーが再び、暴れ出す。
「あ!」
「可哀想……」
レティシアとイレーヌさんが非難の目で俺を見てきた。
「こいつ、俺が掴むと暴れるなー」
そんなに嫌か?
「雑なのよ!」
「わしづかみは可哀想ですよ」
「というか、あんたがこの前、デコピンとかしたからじゃない?」
そんなことを覚えてんのかね?
「ジャーキーをくれてやった恩を忘れたか……」
「ってか、あんたは何をしてるのよ! デコピンって……」
軽くなのに……
「まあ、いいや。もう帰っていいよ」
俺が不思議パワーを込めるのをやめると、サラマンダーは光となり、徐々に姿を消してった。
「あ、消えた」
「消えたというか、見えなくなったって言うのが正しい。霊は基本的にその辺にいる。ただ見えないだけだ。今のサラマンダーはヘイゼルの精霊魔法で出したものを俺がブーストしてやったんだ。次はお前がサラマンダーを呼び出せ」
「その辺にいるの?」
「いるというか、あるだな。生き物じゃない。現象だ」
「意味わかんないんだけど……」
まあ、ぶっちゃけて言うと、俺もわかってはいない。
スピリチュアル系は説明が難しいのだ。
だからすべての霊媒師や霊能力者は煙に巻いた表現で誤魔化す。
「こんなもんに理屈を求めるな。精霊を呼べばいい」
「よーし! サラマンダーさん、ビーフジャーキーをあげるからおいでー」
レティシアがビーフジャーキーで釣ろうとしている。
まあ、その意図があって、最初にヘイゼルにサラマンダーを出させたんだけどね。
レティシアが出した手が徐々に薄っすらとだが、光り出す。
「そんな感じ、そんな感じ」
「さっきのヘイゼルの光より小さいわね」
ヘイゼルはまあまあ光っていたが、レティシアの光は本当に薄っすらだ。
注目していなければ気付かないレベル。
「そら、お前は慣れてないもん。すぐに実体化させるところまでもっていってやる」
「そんな簡単に行く?」
「魔法を覚えるよりも簡単だから安心しろ」
俺は初級魔法を覚えるのに10日以上もかかったんだぞ!
ヘイゼルに師事してからは早かったけど。
「どうやんの?」
「さっきのサラマンダーをイメージして、魔力でも込めろ。魔法は使えるだろ?」
「初級だけど……」
「俺と一緒。俺も中級を勉強中」
ヘイゼルに教えてもらいたいんだが、最近は時間が取れない。
「やってみる」
レティシアは俺から目線を切ると、薄っすらと光っている自分の手を見る。
「ぐぬぬ」
魔力を込めてるんだろうが、変な声を出すな。
笑いそうになるわ。
レティシアが魔力を込めると、徐々にだが、光が強くなる。
だが、ある程度の光量までいくと、光が収まった。
「これが限界……」
「それでいい。暇があれば、それをやってろ。そこまでいければ数日でいける」
「本当に? 簡単すぎない?」
「こればっかりは努力でどうにかなるもんじゃないしなー。スポーツでも勉強でもないんだ。完全に素質重視なんだよ。見えないヤツでもある程度はいけるけど、それ以上は絶対に無理。逆に素質があるヤツはすぐだ」
才能重視って言えば、聞こえが悪いが、人生でこんな才能はあんまり必要なかったりする。
ぶっちゃけ、霊が見えたり、感じ取れても怖いだけだし。
「え? じゃあ、あんたが教えるのはもう終わり?」
「まだ、ご機嫌取りが残っている…………」
「ビーフジャーキーじゃん。あんたよりも懐かれた自負があるわよ」
俺だって、懐かれてるわ!
多分な!
「正直な話、巫女が何をしてるか知らんから精霊を出すとこまでしか教えられん。そこまでいけば、火の精霊との親和性がうんちゃらかんちゃらで巫女になれるだろ」
「まあ、確かにそうね。祈るって何かしら? あ、でも、未来視は?」
「あ、それがあったな。じゃあ、それの修行をしよう」
「何すんの?」
俺はカバンからカードを取り出す。
「相場はESPカードに決まっている」
「聞いたことがあるような…………」
俺はよくわかってなさそうなレティシアのために備え付けの説明書を広げた。
「えーっと、ESPカードとは超感覚的知覚カードであり、5種類の模様が描かれたカードを当てるもの……だってさ」
「説明書を読まないでよ。うさん臭さがヤバいわよ」
「これ、100均のやつだしなー」
「そんなもんを売ってんだ…………」
ま、ただの模様が描かれた5枚のカードだもん。
100円でも高いわ。
「じゃあ、これで練習だ。これが出来たら次はトランプな…………俺レベルになると、全部わかる」
「あんたとのトランプはつまらなさそうね…………」
「遊ぶ時は使わねーよ。マジでつまらんぞ」
使うのはここぞという時だけ。
主にヘイゼルと罰ゲームを賭けてる時。
「でしょうねー……」
「じゃあ、やるぞ。これは何のマークだ?」
俺はカードを5枚並べると、一番右端のカードを指差す。
「いや、まず、何の模様があるのかもわかんないんだけど」
「それを当てろよ。当てずっぽうじゃなくて、読み取れ」
「えー…………無理すぎじゃない?」
「そうだなー……これは透視とかの訓練に使うやつだけど、お前が覚えるのは透視じゃなくて、未来視だ。お前がこのカードをめくった未来を見ろ」
「難易度が上がってない?」
ごちゃごちゃ言うヤツだなー。
「そういうもんなんだよ。ほれ、言ってみ? 最初からできるとは思ってないし、外れてもいいから」
「うーん……じゃあ、星!」
「惜しい! 星のマークもあるんだが、これは丸だ」
俺はそう言って、カードをめくった。
カードには当然、丸の絵が描かれている。
「ホントだし……え? わかるの?」
「俺はお前が星って言うのもわかってたし、これが丸なのもわかってた。だから、星を一番離れた左端に置いた」
俺はそう言って、一番左端のカードをめくった。
「すごい! 本当に星だ! すごいわね、占い師!」
すごかろう!
「こうやって、客を信用させて騙して儲けるわけだな」
「やっぱ詐欺師じゃん。本物なところがタチが悪い…………」
こらこら。
さっきまですごーいって顔をしていたメイドさんがジト目に変わったじゃないか。
「まあ、これをお前も覚えるわけだ。コツはカードを見るんじゃなくて、未来を見ることだ。正直、これは時間がかかるが、まあ、巫女になった後でも構わんだろ。今はある程度が出来ればいい」
「あんたも努力したの?」
「した。最初は小学生の時だったな。今でも覚えているが、算数のテストで26点を取る未来が見えた…………」
母さんに怒られた。
「26点って……え? 小学校の算数だよね? あんた、バカなの?」
「実はいまだに方程式がわかっていない」
連立って何?
「バカじゃん。大学生じゃなかったっけ? どうやったのよ?」
「さっき、努力したって言ったろ。テストの問題を占うのに必死だった。それにより、俺の未来視はここまで成長し、立派な占い師となったのだ」
もはや敵なし!
「努力の方向性が間違ってるわよ! クズね、クズ!」
「パチ屋を出禁になったお前の叔母よりマシだろ」
「あんたの母親じゃん! クズ親子じゃん! ロスト王家の恥よ!」
お前もいずれそのクズの仲間入りするんだよ。
俺のサイドエフェ…………未来視がそう言っている。
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