第101話 皆、食べ物が好きだねー
豪華な宿屋で1泊した俺達は部屋で宿屋が用意した朝ご飯を食べている。
「普通に美味いなー」
ちょっと固い程度のパンに野菜、肉料理。
味がちょっと薄い気もするが、どれも美味しい。
「そうねー。でも、味が薄くない?」
フィリアも薄いと思うらしい。
「昨日、あんたが言ってたじゃん。ロストは塩が少ないの。だから全体的に薄味の味付けなのよ。私は逆にエーデルに行った当初は濃ゆいなーって思ってた。もう慣れたけどね」
なるほど。
お国柄なのか。
義両親の家で食べた御飯は普通だと思っていたが、俺達に合わせてくれたのかもしれない。
良い人達だわ。
「でも、美味いわ。鮮度が違うのかね?」
「まあ、貴族や王族が泊まる宿だしねー。賞味期限が微妙なものは出さないわよ」
腹壊されたらヤバそうだしなー。
俺達は美味しい朝ご飯を食べ終えると、準備をし、宿屋を出た。
町を歩き、王城に着くと、門番に武器を預け、城に入る。
レティシア様の部屋を目指して、城の中を歩いているが、通り過ぎる兵士もメイドも文官らしき人も俺達をチラッと見るだけで何も言ってこない。
王様が話を通してくれているようだ。
最初はビクビクしていた俺達だったが、安心してレティシア様の部屋に向かうことが出来た。
そして、レティシア様の部屋の前まで来ると、扉をノックする。
「はい?」
レティシア様ではない女の人の声がする。
「リヒトです。レティシア様の巫女修行の件で参りました」
「お入りください」
今度はレティシア様の声だ。
俺達は顔を見合わせ、頷くと、扉を開け、部屋に入った。
部屋の中には昨日と同様にレティシア様が座っておられ、その後ろには赤髪のメイドが控えている。
「早かったわね。どうせ、昨日もお盛んで遅いのかと思ったわ」
「え!?」
多分、レティシア様は軽口のつもりだったのだろう。
しかし、ヘイゼルは思いっきり、反応してしまった。
そんなヘイゼルの反応にレティシア様の顔が次第に赤くなっていく。
「ヘイゼル、こいつにそれを見る力はない。ただの軽口だ…………お前もからかうな。冗談が通じない人間もいる」
俺はフィリアの後ろに隠れてしまったヘイゼルと顔を赤くしているレティシア様に注意する。
「姫様、リヒト殿の言う通りですし、あまりにも下品です」
騎士であるメイドさんも注意した。
「悪かったわ…………まさかそんな反応が返ってくるとは思わなかったのよ」
「お前、イレーヌさんには?」
イレーヌさんはこいつの騎士らしいが、どこまで言っていいのか気になった。
「元から全部言ってあるから普通に話しなさい」
転生のことも言ってるのか……
よく信じたな。
「そうか……ヘイゼル、気にするな。相手のいない28歳の妬みとでも思っておけ」
「今回は完全に私が悪いから流すけど、次はないわよ……!」
見た目は10歳なんだからいいじゃん。
「それよか、リストアップはできたか?」
ヘイゼルの精神上、さっさと話を変えた方がいいな。
「そうね……イレーヌ」
レティシア様は…………もうレティシアでいいや。
レティシアはイレーヌさんに指示を出すと、イレーヌさんが俺のそばまで来て、紙を渡してきた。
俺は紙を受け取ると、フィリアと一緒に見る。
えーっと、コンビニの唐揚げ、ポテチ、チョコレート、ケーキ、etc……
「食べ物ばっかだな…………」
「まずは食よ。あ、カップラーメンをありがとう、死ぬほど美味しかったわ」
「私もいただきました。美味しかったです。ありがとうございました」
イレーヌさんも食べたらしく、お礼を言ってきた。
「いえいえ…………これ、いくらにする?」
俺はイレーヌさんに笑顔で手を振ると、フィリアに値段を確認する。
「全部、コンビニとスーパーで買えるね。どうせ、私達も補充するし、その際に買えばいい。手間はそんなだし、定価で良いんじゃないかな?」
「えーっと、いくらだ?」
「後払いでいいと思う。レシートを見せればいいでしょ」
なるほど。
賢い。
さすがは俺の嫁。
でも、もう1人の嫁の再起動には時間がかかりそうだな。
「後で清算で良いか? 銅貨1枚で100円のレートで定価で良いわ」
フィリアとの相談を終えた俺はレティシアに告げる。
「まあ、銅貨1枚で100円はそのくらいかなって思うけど、定価で良いの? 多分、銀貨数枚程度よ?」
「家族で話し合った結果、親族割引を適用することになった」
「それはありがたいわね。じゃあ、悪いけど、それに加えて、マヨネーズと醤油も買ってきてくれない?」
「調味料ね。それだけでいいか? 俺は肉をポン酢で食ってたな」
チューブの大根おろしと合わせて食べるとさっぱりして美味しかった。
「ポン酢は嫌いなの。まあ、また考えておくけど、とりあえず、それをお願い」
ポン酢は嫌いなんだって。
フィリアと一緒じゃん。
子供舌め。
「じゃあ、買ってくるわ。昨日も言ったけど、24時間の充電期間があるから明日の修行は休みな」
「本当は私も日本に行きたいんだけどねー」
「24時間があるからなー。俺の首が飛んじゃうよ」
「まあねー。我慢するか。とりあえず、わかったわ。明日は休みでいいし、明後日にもらう。イレーヌ、あんたに唐揚げの美味しさを教えてあげるわ」
レティシアがドヤ顔でふふんと笑う。
「楽しみにしています」
イレーヌは子供を見るようにふふっと薄く笑った。
「…………コンビニでいいのかな?」
「…………本人が好きなんだろ」
「…………私が作ってもいいけど……」
「…………コンビニでいいだろ」
俺とフィリアはコソコソと内緒話をする。
「ちょっと待って。え? 作れるの?」
レティシアが驚く。
「ふふん。フィリアは料理が上手いんだぞ!」
「反応がレティシア様と一緒じゃん。血の繋がりを感じるわ…………」
フィリアがちょっと呆れた。
「あー、どうしようかな…………?」
「あの、作って、両方ともお持ちしましょうか?」
フィリアが悩んでいるレティシアに提案する。
「あのね、それじゃダメなの」
ん?
「なんでだ?」
「作った方が美味しいに決まってんじゃん」
えー…………
「じゃあ、それでいいじゃん」
「でもね、コンビニのあれが好きなの」
こいつ、誰かさんの素質もあるな……
「じゃあ、コンビニの唐揚げを買ってくるから作るのは今度な」
「そうしようかな」
「フィリア、悪いけど、今度、作ってあげて」
「わかった」
実にめんどくせーガキだわ。
「じゃあ、修行を始めよう」
「お願いいたします」
レティシアが丁寧な口調で頭を下げた。
「まず聞きたいんだけど、お前、精霊って見えるか?」
「なんとなくそこにいるなーって感じかな」
ふむ。
完全に見えるわけではないのか。
「フィリアの蛇が見えるか?」
「え? 蛇? 蛇いんの?」
そこまでは見えないわけか。
「ヘイゼル、お前は? …………ヘイゼル?」
ヘイゼルを見ると、いまだにぼーっとしている。
「……え!? 何!?」
まだ引きずってんな…………
「お前、今の状態のフィリアの蛇は見えるか?」
「いや、見えないわよ。フィリアの中にいるんじゃないの?」
「まあ、そうなんだが…………」
レティシアとヘイゼルのレベルは同じくらいって考えでいいかな?
俺も見えないが、気配は感じられる。
でも、母さんは見えていた。
「お前、未来視は?」
俺は今一度、レティシアに聞く。
「それはないわね。でも、デジャヴっていうのかしら? あれがめっちゃ多い」
デジャヴか……
未来視と関係しそうだな。
「まあ、大体わかった。なあ、レティシアって、他の巫女候補と比べて、どんなもんだろう?」
俺は他の巫女候補を知らないのでフィリアとヘイゼルに聞いてみる。
「ごめん。私はわかんない」
「私も…………あまりそういう情報って表に出ないのよね」
そうなのか……
これは困ったな。
レティシアをどこまで鍛えていいのかが気になる。
こいつを巫女にするためには他の巫女候補よりも上にしないといけない。
極限まで鍛えてもいいが、それには時間がかかってしまう。
ノースの巫女が引退する前にレティシアを巫女候補にする必要があるし、時間をかけすぎるのもマズいのだ。
一週間ほど鍛えて、預けてみるかな……
「今の姫様は巫女候補の中では中の上だと思います」
俺が悩んでいると、イレーヌさんが教えてくれる。
「わかるの?」
「はい。実は私の姉が巫女候補なんです。下の下なんで辞める交渉をしているところなんですけど」
意外なところから情報を得てしまった。
「そうなんだ…………」
「巫女候補なら家族も普通に会えますからね。本当は内情を言ってはダメなんですが、姉の愚痴がすごくて…………」
下の下だったら愚痴や不満はすごそうだな。
「うーん、なるほど。それでレティシアが中の上ね。すごいじゃん」
「そんなもんなのかー。短時間で上の上までいける?」
多分、行けると思うけど…………
「お前次第だわ」
「唐揚げは諦めようかな」
「いや、どっちみち、俺らは今日が終わったら帰る。風呂入って、柔らかいベッドで寝たい」
宿屋にも風呂はあったし、ベッドも柔らかかったが、やはりあっちの方がいい。
それにソファーで嫁2人を侍らしながら酒を飲むという殿様プレイがしたい。
俺の楽しみなのだ。
「羨ましいわねー」
ギフトをもらえなかった代わりの役得ですわ。
「良い時があれば連れていってもいいんだがなー…………まあ、ちょっと考えてみる」
従妹だし、元日本人って思うと、手助けもしたくなる。
「おねがい」
「まあ、まずは修行だわ。じゃあ、精霊が見える修行から始めるかなー」
「どうやんの?」
「慣れることだな。えーっと、精霊、精霊…………フィリアの蛇でいいか」
俺はチラッとフィリアを見た。
すると、フィリアは胸を抑える。
「え? また?」
あ、おっぱい触るって思われてる。
昨日、散々触ったから真面目にやるっての。
「大丈夫だから」
「えー…………」
こらこら、後ろに下がるんじゃない。
よいではないか。
「イチャつかないでくれない?」
レティシアがうざそうに俺を見ている。
なお、イレーヌさんもだ。
「いや、ちょっと精霊を出そうかと…………」
「ごめんけど、蛇はやめてくれない? あんまり得意じゃないし」
蛇は苦手なのか…………
お姫様だしな。
「じゃあ、トカゲでいいか?」
「トカゲ? 同じ爬虫類じゃん」
「まあ、そうなんだけど、お前は火の巫女になるんだったら慣れておかないとマズくないか? サラマンダーってトカゲじゃん」
「そういえば、そうね…………」
まあ、トカゲなら蛇よりはマシだろう。
なんとなくだが、蛇はどうしても毒のイメージがあるから恐怖感が増す。
「じゃあ、トカゲの精霊にしよう。ヘイゼル、出して」
「え? マジ? またやんの?」
「ビーフジャーキーがあったろ。あれでご機嫌を取る」
以前もビーフかはわからんが、つまみのジャーキーに興味津々だったし、許可したら帰り際に咥えて帰ってた。
「じゃあ、はい」
ヘイゼルは収納魔法からビーフジャーキーを取り出してきて、俺に渡してくる。
俺はそれをレティシアに渡した。
「持ってろ」
「懐かしいわねー。お父さんがよく食べてたわ」
レティシアは袋を開けると、2つ取り出し、1つを食べ、もう1つをイレーヌさんに渡す。
「美味っ! こんなに美味しいんだ!」
「すごい……! お酒が飲みたくなります」
レティシアとイレーヌさんはビーフジャーキーを絶賛する。
「いや、食べんな」
「でも、これは止まんない」
「ですねー…………あ、お金出すんで、帰ったらついでに買ってきてもらえません?」
ちゃっかりした騎士だな、おい。
「買ってくるから食べるのを止めろ。ヘイゼル、早く出してくれ。こいつら、全部食べそうだわ」
美味しいし、止まらないのはわかるが、そういう意図じゃないからやめてほしい。
「わかった」
ヘイゼルはテーブルの上で手を掲げた。
すると、ヘイゼルの手の周りがうっすらと光りだす。
俺はそんなヘイゼルの手を握り、不思議パワーを込めた。
俺がどんどんと不思議パワーを強くすると、光が実体を現し始める。
そして、その光は小さなトカゲへと変わった。
トカゲはテーブルの上に落ち、テーブルの上に置いてあるビーフジャーキーに向かってのしのしと歩き出した。
「あ、トカゲだ」
レティシアは現れたトカゲを見ている。
「あ、はい? え? ほえ?」
イレーヌさんもトカゲを見ているが、壊れてしまっている。
「どうしたの? トカゲが苦手だったっけ?」
壊れたイレーヌさんが気になったレティシアは心配そうな表情で聞く。
「この精霊…………サラマンダーです」
「ん? は? え?」
レティシアも壊れた。
「このトカゲは四大精霊のサラマンダーです」
「……………………マジ?」
「マジです」
顔を見合わせていたレティシアとイレーヌさんは同時にトカゲを見た。
トカゲはそんな2人を目にもくれず、ただただビーフジャーキーの袋の周りをウロウロしていた。
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