第100話 じゃあ、もらっていくねー♪


 レティシア様を巫女にすることに決めた俺はフィリアとヘイゼルと共に城を出た。

 城を出ると、兵士に預けていた武器を返してもらう。

 そして、兵士に王様が手配してくれた宿屋まで案内してもらった。


 宿屋は白を基調としており、かなり清潔できれいだった。

 店員もまた、貴族が着てそうな制服を着ており、多分、貴族も泊まれる宿屋なのだと思う。

 正直、宿泊代がいくらなのか気になる。


 俺達は執事にしか見えない店員に部屋を案内される。

 部屋は寝室、リビング、書斎の3部屋もあり、風呂までついていた。


 アルトの家より広いし…………


「なんというか、すごいわね」

「スイートみたいだなー」


 俺とフィリアはこの部屋の豪華さに圧倒される。

 とはいえ、ヘイゼルは普通だ。


「どこの国の王都も必ずこのレベルの宿屋はあるわよ。外国のお客さんや貴族が王様に会いに王都にくるからね」


 俺達みたいに必ずしも城に泊まるとは限らないし、絶対にこういう宿が必要となるわけか。


「すごいなー……私は一生こんな宿屋に泊まることはないと思ってた」

「いや、確かにすごいけど、日本の家の方がすごいでしょ」

「それと比べたらダメだよー」


 まあ、土俵が違うしな。


「そんなことより、レティシア様のことを聞かせてよ。なんで収納魔法を披露させられたの? なんで私のおっとっ〇とタケノコを取られたの?」


 まだ根に持ってんな……


「何それ?」

「わかんないけど、私のお菓子とカップラーメンを殿下に献上させられた」

「はい?」


 これは早めに説明した方がいいな…………


「実はな、あのレティシア様なんだが…………」


 俺はレティシア様のことをフィリアとヘイゼルに説明する。


「…………というわけで、レティシア様の精神は俺と同郷になるのかな」

「異世界人は知ってるけど、転生なんて初めて聞いた…………」

「私も…………ちなみにだけど、殿下の頭がアレってのはない?」


 お前…………不敬すぎるだろ。

 仮にもこの国の貴族生まれだろうに……


「それはないと思う。それにしては情報を知りすぎてたしな」


 名前も日本人だし、お菓子やカップラーメンなどの食料、しまいにはスタンガンや銃まで知っていた。

 間違いなく、同郷だろう。


「ちょっと信じられないけど、リヒトさんがそう言うならそうなんだろうねー」

「私はそれ以外にも心を読むギフトっていうのにびっくりだわ。変なことを考えてなかったかな…………?」

「大丈夫。お前はレティシア様に不敬を働いていなかった。ただ『ウチの旦那、詐欺師だけど、大丈夫かな?』とは思ってたらしいな」


 俺がそう言うと、ヘイゼルはビクッとし、媚びた目で見てくる。


「えへへ」


 かわいいね。


「本当に心が読めるんだねー」


 フィリアが笑いながら言う。


「お前は調度品に値段をつけてたってさ」

「…………本当に心が読めるんだねー」


 2人とも当たっていたか…………


「まあ、逆に言えば、話がわかるヤツということでもある」

「確かにね」

「日本に連れていくの?」


 あー、そこまでは考えていなかったな。


「お姫様を誘拐はシャレにならんよな?」

「そう思う。さすがに24時間はねー」

「少なく見積もっても大問題にはなりそう」


 母さんみたいな駆け落ちとか誘拐と間違えられたら最悪だな。


「じゃあ、物を売るくらいに留めておくか…………」

「それでいいと思うな」

「うんうん。でも、いくらで売るの? 私はそういうことにはあまり関わってないから相場がわかんないけど、あんたら、めっちゃぼったくってたよね?」


 ヘイゼルが呆れた顔で俺とフィリアを見てくる。


「あのね、ヘイゼルさん、物の価値っていうのは一定じゃないの。アルトでは塩がめちゃくちゃ安いけど、このロストでは高い。なんでかわかる?」


 フィリア先生の貿易の授業が始まった。


「海がないから?」

「まあ、それもあるし、ロストでは岩塩も採れないの。だから塩をエーデルとかから輸入してる。私達も馬車で来たからわかると思うけど、遠いし、輸送に手間がかかるの。だからエーデルとロストでは塩の値段が倍半分違う。その逆もあって、ロストは小麦がいっぱい獲れるからパンの値段が安い。そんな感じで国によって物の値段が違うの」

「それくらいはさすがにわかるわ」


 俺もわかる。

 大航海時代のコショウだ。


「それと同じで日本の物はどの国にもないうえに、品質が別物ってレベルで上。だから高いの。逆に言うと、これを安く売るのはマズいのよ」

「なんで?」

「あんなものを安く売ったら飲食店がつぶれちゃうもん。シャンプーとかコンディショナーだってそう。香油や石鹸を作っている職人さんが首をくくっちゃう」

「あー…………」

「さすがに日本の物は極端だけど、それをやると困るから商人ギルドがあるの。商人を守るための組合」


 前にもフィリア先生から聞いたな。

 しかし、商売のことに詳しい修道女だなー。

 俺、逆にフィリアから宗教の話を聞いたことがないような気がする。


「まあ、なんとなくわかった。じゃあ、殿下にも高く売るの?」

「それがちょっと問題なんだよね。レティシア様って、カップラーメンが銅貨1、2枚で買えることを知ってんじゃん。これを金貨で売ろうとすると、絶対に不興を買う。商売だからって割り切ってもいいけど、リヒトさんの従妹でヘイゼルさんのお父さんの主じゃん。不興を買った方がいい?」

「それはちょっと…………」


 ヘイゼルも家を出たとはいえ、それは嫌だろうな。


「でしょー。正直、お金を取りにくい相手なんだよね。ましてや、欲しがってるのは鏡やガラスのコップみたいなものじゃなくて、食料なんかの消耗品でしょ。もし、レティシア様がノースの巫女になれば、ずっと取引を続ける相手になるじゃん。毎回、ぼったくってたらそのうちキレるよ」


 まあ、キレそう。

 あまり大人しい性格でもなさそうだし、どちらかというと、わがままぷー寄り。


「王族の巫女様にキレられたらマズいわね…………」


 ヘイゼルが神妙な顔をして頷く。


「下手すると、教会にもロストにも睨まれちゃうよ。絶対に嫌だよ」

「親族割引って言って、恩を売る方が良さそうだな…………」


 俺はフィリアの話を聞いて、今回は儲けるのを諦めた方がいいと結論付けた。


「かなーっと。私も儲けるチャンスって思ったけど、よく考えると、相手が悪い気がする」

「わかった。値段プラスで手間代をもらうくらいにしておこう」

「それがいいかな…………明日、リストアップしてくるんだっけ?」

「そうそう。明日、修行が終わったら次の日は休みにしてもらって、家に帰ろう。それで物資を補充して、ゆっくり過ごそうか」


 レティシア様には24時間の充電期間があることを伝えているし、もし、他の者が修行を急かしてきても、効率良く学ぶためには休みが必要って言えばいい。

 どうせ、精霊のことをわかっているヤツなんていないからいくらでも騙せる。


「そうねー。あのさ、精霊のことはよくわかんないんだけど、いつ頃、終わりそう?」

「うーん、素質はありそうだったからそんなに時間はかかんないと思う。早ければ数日、時間がかかっても2、3週間かねー」


 そんなものだろう。


「え? 早くない?」


 ヘイゼルがびっくりしたように聞いてくる。


「霊の操作はそんなに難しくないからなー。お前にも教えてやろうか? 霊が見えてないフィリアに教えるのには時間がかかるけど、お前は早そう」

「絶対にやだ! それをしたら私が巫女になっちゃうじゃん。あんた、わかってる? 巫女になったらほぼ離縁よ?」

「は? マジ?」

「マジマジ。女神様の祝福をすでにもらってるから離縁にはならないだろうけど、年に何回会えるか…………」


 ふざけんな。

 苦行すぎだろ!


「最悪じゃん!」

「まあ、既婚者の巫女は聞いたことないけど、そうなっちゃうわね。親ですらロクに会えないんだもん」

「そういうことがあるから貴族や王族は素質がある子供でも、滅多に巫女候補にはしないんだよねー」


 家族とも会えない。

 苦行ばっかり。

 伯父が生贄って言うわけだわ。

 世界の維持のための生贄と書いて巫女様だな。


「お前らは絶対、巫女にしないことにした」

「そうして」

「私も嫌」


 フィリアとヘイゼルが抱きついてきた。

 ものすごく良い雰囲気なので、俺は2人を豪華なベッドがある寝室に連れ込むことにした。


 やっぱり王族とか巫女とかはどうでもいいわ。

 俺はこの2人と幸せになれればいい。


 聞いてるか、女神!

 邪魔すんなっての!


 お酒を持っていっていいから本当にお願いします……

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