第099話 俺が弱いわけじゃない。皆が強いだけ
俺は10歳(28歳)の従妹と嫌な話になったので軌道修正することにした。
「とにかく、陛下にはお前の前世のことは言わないでいいな。そんでもって、お前を鍛えてやるから巫女になれ」
「まあ、巫女でいっかー……」
巫女でいっかー……って。
…………頼むから3日で逃げるなよ。
「じゃあ、そういうことで陛下を呼んでくるわ」
「あ、ちょっと待って。その前に日本の食料をちょうだい。どうせヘイゼルが持ってんでしょ」
10歳のガキがヘイゼルを呼び捨てにするのはすげー違和感があるな。
「いくらで買うん?」
「というか、何を持ってきてるの?」
「えーっと、酒、菓子パン、カップラーメン、お菓子、缶詰くらいかなー」
「唐揚げはないの? コンビニのやつ」
好きなのかな?
「さすがに保存が利かないやつは持ってきてないな。まあ、一度戻ればいいんだが、転移するのに24時間の充電時間がいるんだよ。こっちに来たのは昼間だから…………えーっと、あと20時間ちょいだな」
俺はスマホを取り出し、カウントダウンを確認する。
「この世界でスマホを見るとは思わなかったわ。今持ってきているやつでいいから分けてくれない? お金は払う」
フィリアに任そうか…………
いや、フィリアに任せるのはこいつが巫女になってからでいい。
今は餌付けをするべきだな。
「とりあえずだし、今持ってきているやつの金はいい。商売の話は後でウチの嫁がやる」
「あの調度品に値段をつけてた修道女?」
「その子」
銭ゲバ守銭奴。
「うーん、まあ、いっかー…………別に高い物が欲しいわけじゃないしねー…………」
「シャンプーとかの洗髪剤セットを金貨100枚で売ってたなー……」
「は? ぼったくりにもほどがあるでしょ」
「俺もそう思うんだけど、まあ、その値段で売れるらしいからさー」
砂糖5キロが金貨600枚だもん。
改めて考えてもやべーな。
「親族割引をお願い。私達は血のつながった従兄妹じゃないの」
「まあ、聞いてみる。じゃあ、ヘイゼルを呼んでくるわ。ちょっと待ってろ」
「わかったわ」
俺は椅子から立ち上がると、扉の方に行く。
そして、扉を開けると、廊下には嫁達と王様と宰相殿が待っていた。
「終わったのか? レティシアの殺すぞって声が聞こえたんだが…………」
王様が呆れたように言う。
「あ、聞こえました? まあ、気にしないでください。ヘイゼル、ちょっと来てくれ」
「え? 私?」
ヘイゼルが自分の顔を指差し、聞いてくる。
「そうそう」
俺はヘイゼルの腕を掴むと、部屋の中に入れた。
「すみません、もうちょっとですんで」
ヘイゼルを部屋に放り込むと、王様に謝り、扉を閉める。
そして、ヘイゼルを連れて、レティシア様のところに戻る。
「ヘイゼル、悪いが、収納魔法に入れている物を出してくれ」
「え? ここで?」
ヘイゼルが目を点にして聞いてくる。
「事情は後で説明する。あまり陛下や宰相殿を廊下で待たせたくないんだ」
「あー、それもそうね。じゃあ、出すわ」
ヘイゼルはそう言うと、テーブルの上に物を乗せていく。
こうやって見ると、ヘイゼルの収納魔法の中に入っている物の半分は酒なので、ちょっと呆れる。
「お酒ばっかりじゃないの」
「3人共、飲むからなー。お前は?」
「享年18歳で今は10歳よ。お酒はいらない。それよか食べ物だわ。あ! おっとっ〇がある!」
レティシア様はおっとっ〇を手に取ると、封を開け、食べだす。
「あ……私のおっとっ〇…………」
ヘイゼルが悲しい声を出した。
「…………ご、ごめん」
ヘイゼルがあまりにもいいタイミングで悲しい声を出したため、レティシア様の手が止まり、ものすごく申し訳なさそうに謝る。
「後で買ってやるから…………お前、食べる前に選別しろ。さっきも言ったが、皆、待ってるんだぞ」
俺はヘイゼルの頭を撫でて、慰めると、レティシア様に早くするように言う。
「わかったわよ。えーっと、何これ? スタンガン?」
レティシア様が護身用のスタンガンを手に取る。
あー、全部出したからか…………
「改造スタンガンだから気をつけろよ。ヘイゼルの護身用のやつなんだ」
「へー、いいわね。改造って言葉がすごく不穏だけど…………って、えー…………」
羨ましそうにスタンガンを見ていたレティシア様だったが、気になるものを見つけたらしく、それを手に取り、変な声を出す。
レティシア様の手に握られているのはサイレンサー付きの銃だった。
もう1つの銃は正門で兵士に預けていたが、もう1つのサイレンサー付きの銃はヘイゼルに隠し持ってもらっていたのだ。
「セーフティーロックがかかっているとはいえ、危ないぞ」
「これ本物?」
「異世界にモデルガンなんか持ってきてどうすんだよ」
「あんたさー、この改造スタンガンといい、ヤバくない? 日本人じゃないの?」
レティシア様が改造スタンガンとサイレンサー付きの銃を両手に持ち、見比べる。
うーん、金髪の少女に銃は似合わんなー。
「霊媒師がまともな職業とでも思ってんのか? それは護身用として、やーさんにもらったの」
「この詐欺師、ヤバいな…………」
「いいからはよ選べ。スタンガンと銃はダメだぞ」
「いらないわよ。えーっと、カップラーメンは欲しいな…………あ、タケノコじゃん。キノコにしなよ。うーん、こんなもんかなー」
レティシア様は自分が欲しいやつをテーブルの隅に分けた。
「じゃあ、それはやる。今度来る時に買ってきてほしいものをリストアップしとけ。値段はフィリアと交渉しな」
「ホント、親族割引を頼むわよ。これらに金貨何十枚も払えないっての……」
お菓子なんか数百円だもんなー。
「ヘイゼル、他のやつはしまってくれ。俺は陛下達を呼んでくる」
「わかったわ」
俺はヘイゼルが残りの物を収納するのを確認すると、部屋を出て、陛下に話が終わったことを告げた。
なお、いつの間にか先ほどのイレーヌとか言う赤髪のメイドもおり、めっちゃ俺を睨んでいた。
俺達が部屋に戻った時にはレティシア様も食料品を隠し終えていた。
「陛下、お待たせて申し訳ございませんでした。女神様の指示で2人で確認することがありましたゆえに」
俺は王様に待たせたことを謝る。
「それは大丈夫だが、何だったのだ?」
まあ、聞いてくるわな。
「巫女としての能力の確認です。先ほど、レティシア様は私が女神様の使者であることと共に従兄であることを言い当てました。これは未来視に近い能力でしょう」
さすがに心を読む力っていうのは言わない方がいいだろう。
絶対にロクなことにならない。
あと、赤髪のメイドさんが従兄って言葉に反応し、俺とレティシア様を見比べているのがおもろい。
「未来視…………なるほど。巫女としての力か」
いえ、ギフトです。
「このようにレティシア様は巫女として、かなりの素質があります。あとは精霊を扱うすべがあれば、巫女になれるでしょう。レティシア様もその気のようです」
「レティシア、本当か?」
王様はレティシア様に確認をする。
「はい。国のため、世界の人々のためならば、巫女となるのは名誉なことです。力不足なのは重々承知ですが、頑張りたいと思います」
「そうか……まだ幼いと思っていたが、立派になっていたのだな。どっかのわがままとは大違いだ」
たいして変わんない気がするけどなー。
「伯父上、それが私の母なんですが…………」
「お前もたいして変わらんわ」
ひっで。
「まあ、いいですけどね。それでレティシア様を鍛えようと思いますが、よろしいですか?」
「ああ、頼む。具体的にはどんな修行をするのだ?」
修行ねー……
空席になりそうなのは火の巫女だし、火の上でも歩かせるか?
護摩行だっけ?
「精霊の扱い方ですね。あとは占いというか、未来視のやりかた。まあ、教会がやっている意味不明な苦行はさせません。あんなもんは意味ないんで」
「母親と同じことを言ってるな…………教会批判は控えろ」
「母がめっちゃ愚痴ってましたよ。精霊も見えないカス共がこのソフィア様に指図すんな、ですって」
「いまだに言ってるのか…………」
ボロカスに言ってました!
「まあ、内容を聞くと、気持ちはわかりますけどね。とりあえず、明日からでよろしいですか? さすがに今日はもう夕方ですし」
「そうだな。明日からでいい。場所はどこがいい?」
「どこでもよろしいですが、人にはあまり見られたくないですね。私の力は教会に言わない方がいいとディラン様にも言われています」
「確かにそうだな。正直、お前が巫女になれよって思うわ。場所か…………ここでもいいが、さすがに男子を入れるわけにはなー…………」
この世界ってホント、貞操観念が固いわ。
まあ、良いことだとは思うけど。
「一応、妻2人も連れてくるつもりではあります」
「うーむ、ワシがついた方がいいが…………」
「陛下、職務が溜まっておりますぞ」
宰相が止める。
正直、俺やレティシア様的にも王様がいると困る。
「お父様、イレーヌをそばに置きますので大丈夫です」
レティシア様が赤髪メイドを置くことを提案する。
「イレーヌか…………まあ、それなら大丈夫か」
「リヒト様、イレーヌをそばに置いての修行でよろしいでしょうか?」
レティシア様が俺に聞いてきた。
うーん、レティシア様だって、異世界や前世のことを知られたくはないだろう。
それでもこのメイドを置くってことは知られても構わない人ってことだ。
「ちなみにですが、この方は?」
俺はメイドさんを見る。
「私の騎士です」
騎士だったのか……
メイドじゃなかった。
いや、メイド兼騎士か。
「ディラン様のような感じです?」
「そうですね。さすがにあの方は規格外ですが、イレーヌも十分に強い騎士です」
まあ、王族の騎士だからそうなんだろうね。
絶対に俺より強いだろう。
というか、この世界に俺より弱いヤツっているの?
あ、フィリアがいた。
旦那を立てる良い嫁だわ。
「レティシア様が信用なさっている方ならば、私は構いません」
ちょっと怖いけどね…………
「お父様、そういうことです」
レティシア様が王様に告げる。
「わかった。では、そのようにする。リヒト、お前達は宿泊場所をどうする? さっきの客室を貸すが…………」
客室ねー。
豪華で良いと思うが、胃が痛くなりそうだから遠慮しとこう。
「いえ、町の宿屋に宿泊します」
「そうか……まあ、そっちがいいか。ならば、宿屋は手配してやる。宰相」
「はっ! すぐに!」
王様が指示を出すと、宰相殿が退室していった。
「王都一番の宿屋を取ってやる。帰りに兵士に案内させよう」
すげー!
豪華そう!
「ありがとうございます」
「そのくらいはな。門番や城の者にはお前達のことは周知しておく。明日からは好きに通るがいい。イレーヌ、後のことは任せる」
「はっ!」
王様が赤髪メイドに指示を出すと、メイドが軍人のように姿勢を正した。
あー、ホントに強そうだわ。
不敬罪って適用されないよね?
俺も王族だし、大丈夫だよね?
ぶった切りにされないよね?
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