第097話 お姫様と会いましょう
王様に俺の出生の秘密を話し、レティシア様に会う許可を得たので、俺達は早速、レティシア様に会うこととなった。
今は客間を出て、王様と宰相殿に案内され、レティシア様の部屋に向かっているところだ。
「陛下、先に言っておきますが、私はレティシア様を鍛える際に多少の暴言が出るかもしれません。それについてはご了承ください」
俺は歩きながら前にいる王様に声をかける。
「構わん。皆が皆、甘やかした結果がお前の母親だ。王族こそ、誰よりも厳しく育てられるべきなのだ」
王様が立派なことを言っている。
「………………ちなみにですが、歴代王様は皆、子供の頃に勉強を嫌がり、散々、遊んできたのに自分が王になると、自分の子供にこれを言います」
宰相殿が俺に近づき、小声で告げ口をしてきた。
「…………陛下もです?」
「もちろんですよ」
まあ、子供なんて遊んでなんぼだしなー。
「聞こえとるぞ、クソジジイとエロガキ」
クソジジイはともかく、エロガキはひでー。
新婚の嫁を抱いて何が悪いんだ!
時と場所?
うるせー!
「エロガキは余計ですが、厳しくさせていただくこともあるやもしれないのは確かです」
「教会の修行も辛いらしいし、それは覚悟の上だ。レティシアには悪いがな…………」
神父様も孫であるフィリアには巫女にも巫女候補にもなってほしくなかったようだし、やはり親は嫌なんだろうな。
しかし、教会の修行ってどんなんなんだろ?
前に精霊の親和性を高めるとか、草ばっか食べさせられたとか聞いたけど、精霊を扱うのに食べ物って関係ない気がするんだけどな…………
滝行とかもするのかな?
俺は教会の修行とやらがちょっと気になりつつも、王様から厳しくする許可が下りてホッとした。
別に厳しくする気はないが、文句を言われても嫌なのだ。
ぶっちゃけ、早く帰りたいし。
俺達がそのまま歩いていくと、とある部屋の前で王様と宰相殿が立ち止まった。
「ここが娘の部屋だ。お前の従妹だが、それについては言うなよ」
伯父が釘を刺してくる。
「もちろんです。陛下も誰にも言わないようにして下さい。私はさっさと終えてエーデルに戻ります」
「うむ。まあ、それは仕方がないな。お前はお前の人生を見つけたのだろうし、ワシとしても王室に縛り付ける気はない。どうせ、逃げるし」
未来視があるからなー。
それに俺の場合はどっちに逃げればいいか占えばいい。
全部ダメって結果が出たら詰むけどね……
「普通に仕事をして、普通に帰りますよ」
出張代くらいは出してほしいわ。
「うむ。では………………レティシア、ワシだ」
王様は1つ頷くと、扉をノックし、扉越しに声をかけた。
「お父様? どうぞ」
部屋の中から少女の声が聞こえてくる。
「失礼するぞ」
王様が扉を開け、中に入っていったので、宰相殿と俺達も続いた。
部屋の中はどうやらレティシア様の部屋だったようで豪華なベッドや机などがあり、レティシア様は椅子に座っておられた。
その後ろにはメイドらしき赤い髪の侍女が控えている。
レティシア様は長くウェーブがかかった金髪の少女だった。
優しそうな目元が特徴であり、今はまだ子供だが、将来は美人に育つんだろうなーというのが容易に想像できる。
「イレーヌ、すまないが……」
王様はレティシア様の後ろに控えているメイドに声をかけると、メイドはお辞儀をし、退室していった。
なお、その際、俺と宰相殿はめっちゃ睨まれた。
何故!?
俺は苦笑いを浮かべる宰相殿と顔を見合わせる。
「…………子供とはいえ、未婚の女子の部屋に男性が入るのはマズいのよ。ましてや、お姫様だもん」
後ろにいたヘイゼルが耳打ちで教えてくれた。
なるほどね。
でも、しゃーないだろ。
睨むことないのに……
「レティシア、すまんが、後でイレーヌにフォローを頼む」
「わかりました…………」
レティシア様は椅子から立ち上がると、王様の所まで歩き、抱きついた。
「これこれ、レティシア。客人の前だぞ」
王様はレティシア様を窘めるが、顔がとろけてる。
「…………レティシア様は末っ子で遅くに出来た子ですので、陛下はああなります」
宰相殿が小声で呆れながら教えてくれた。
まあ、この世界だと、孫でもおかしくない年齢差だろうしなー。
かわいいんだろうね。
「ごめんなさい。あ、宰相様もごきげんよう」
窘められたレティシア様は王様から離れると、宰相殿の手を取り、挨拶をした。
なーんで手を取るのかね?
スキンシップか?
「はい、ごきげんよう」
宰相殿もニコニコしながらレティシア様に挨拶を返す。
あんたもやんけ…………
俺は宰相殿にちょっと呆れた。
「お父様、こちらの方々は?」
レティシア様が俺達を見ながら王様に聞く。
「うむ。客人だな。実は女神様の使者だ」
「まあ……! 女神様の使者ですか!?」
レティシア様はぱーっと明るい笑顔で俺を見た。
あー…………こいつ……
俺はレティシア様を見て、察した。
「お初にお目にかかります、殿下。私はエーデルで冒険者をしているリヒトと申します。こちらは私の妻でヘイゼルです。バーナード伯爵閣下のご息女になります」
「お初にお目にかかります。ヘイゼルです」
ヘイゼルが前に出てきてレティシア様に挨拶をする。
「はじめまして。よろしくお願いいたします」
レティシア様はヘイゼルに頭を下げると、ヘイゼルの手を取った。
「あ……はい。よろしくお願いいたします」
急に手を握られたヘイゼルがちょっと首を傾げた。
多分、貴族の礼儀にはない行為なんだろう。
とはいえ、王様も宰相殿もそれを咎める様子はない。
こういう子だと思って、目をつぶっているのだろう。
「レティシア様、それと、こちらも私の妻のフィリアです。エーデルの教会で修道女をしています」
「お初にお目にかかります。フィリアと申します」
今度はフィリアが前に出てきて挨拶をする。
すると、またもやレティシア様はフィリアの手を取った。
「はじめまして。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
フィリアは先ほどのヘイゼルのやり取りを見ていたため、特に動揺する様子もなかった。
そして、嫁2人の挨拶を終えると、レティシア様は最後に俺の手を掴んだ。
「エーデルからようこそおいでくださいました、使者様。レティシアと申します。よろしくお願いいたします」
レティシア様は俺の手を掴んだまま、挨拶をする。
俺はその手を掴んだまま、頭を下げた。
そして…………
『お前、人の心を読んでいるだろ』
俺が心の中でそう言うと、レティシア様の顔が歪み、俺の手を離した。
そして、数歩下がった。
「…………いかがなされた?」
さすがにレティシア様の行動に違和感を覚えた宰相殿が聞いてくる。
王様も頭にはてなマークが浮かんでいるだろう。
「陛下…………レティシア様に女神様の使者が私と伝えていましたか?」
「いや、今さっき言ったのだが?」
でも、こいつは俺が女神様の使者と決めつけていた。
俺以外にもフィリアとヘイゼルがいるのにもかかわらずだ。
そして、不自然すぎる接触。
まだ、王様はわかる。
父親だし、10歳という年齢を考えれば、甘えたいのだろうと思える。
だが、その他の人間は明らかにおかしい。
手を取る必要性は皆無だ。
こいつは間違いなく触れた人間の心を読み取る力がある。
「さて、レティシア様に私達がここに来た事情説明はいらないので省きます。陛下、本当にこの子を巫女にしますか? 私が見るにかなりの素質があります。現在の巫女の状況を知りませんが、確実に巫女候補にはなれると思います」
「…………まったく事情が掴めないのだが…………巫女候補になれるのならするべきかと思う。実はノースにおられる火の巫女様は高齢でな。近いうちに引退なされるという噂がある」
火の巫女の後釜にレティシア様なのかな?
「そのようにしてもよろしいか?」
「ちょ、ちょっとお待ちください! 私は巫女になるのでしょうか?」
レティシア様が俺と王様を見比べる。
「そのつもりだ、レティシア」
「ま、待ってください。私には荷が重く…………」
レティシア様は嫌そうだ。
「陛下、レティシア様と話がしたいので、2人きりにさせてもらえないでしょうか?」
「うーん、2人きりか? それはちょっと…………」
「大丈夫ですよ。私とレティシア様は親族ではありませんか」
俺はチラッと従妹であるレティシア様を見る。
「お前な……さっきのワシの言葉を忘れたのか?」
「事情が変わりましてね…………説明してもよろしいか?」
俺はレティシア様に聞く。
「お父様、私も使者様と話さねばならないことがあります。女神様より、そう言われました」
うそつけ。
「何? そうなのか…………うーん、しかしな…………」
さすがに2人きりはマズいか…………
「大丈夫ですよ。使者様は従兄ではありませんか」
レティシア様がはっきりと従兄という言葉を口にした。
「ね? 事情が変わったでしょ」
俺は王様を見る。
「…………すまん。後で話を聞かせてくれ」
レティシア様の失言に気付いた王様は頭を抱えた。
レティシア様は理解してないようで、そんな父親を不思議そうに見ている。
「フィリア、ヘイゼル、悪いが、お前らも出てくれ」
「わかった」
「失礼のないようにね」
フィリアとヘイゼル空も了承を得ると、宰相共も含め、4人は部屋の外に出ていった。
この部屋には俺とレティシア様しかいない。
完全に2人きりだ、
「お前、俺は親族としか言ってないのに従兄って言うのはないぞ」
俺がそう言うと、レティシア様は再び、顔をゆがませた。
こいつ、バカだな…………
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