第096話 伯父との会合
王様との謁見を終え、客間に通された俺達が待っていると、王様が宰相殿を連れてやってきた。
座っていたフィリアとヘイゼルが俺の腕を払い、慌てて立ち上がる。
「よい。座った方が話しやすいだろう。よっこらせ……宰相、お前も座れ」
「では、失礼して」
王様がさっきまで俺が座っていた席につくと、宰相殿はその隣に座った。
俺達も顔を見合わせながら対面に座る。
「さて、堅苦しい謁見も終わったし、ようやくまともにしゃべれるな」
王様は先ほどまでの威圧感はなく、気さくにしゃべっている。
「私としてはもう少し、王としての自覚が欲しいですな」
宰相殿がやれやれと首を振る。
「そんなことをしていたらいつまで経っても話が進まんわ…………さて、リヒト、ヘイゼル、フィリア、はるばるエーデルからよく来てくれた」
宰相殿と小競り合いをしていた王様だったが、話を終えると、俺達を見た。
「いえ、女神様の使命ですし、ヘイゼルの両親に挨拶することもできました」
「良いことだ。そのバーナードからの手紙は読ませてもらった。やけに信頼していたな」
それはありがたいね。
母さん様様かね?
「私達の結婚も快く認めていただきましたし、ただただ感謝です」
「して、この手紙にはおぬしがワシに2人きりで話がしたいとあるが、間違いないか?」
「はい。レティシア様に会う前にどうしても親である陛下に伝えておかねばならないことがあります」
「それは何か?」
俺はチラッと宰相殿を見た。
「私のことは気になさらないように」
宰相殿が笑いながら話を進めるように言う。
「陛下はお察しになられているでしょうが、私の母のことです」
「そうか…………」
王様が俯く。
しかし、すぐに顔を上げると、立ち上がり、俺の方に歩いてくる。
「陛下……?」
王様の予想だにしない行動を宰相殿が尋ねる。
だが、王様はそんな宰相殿を無視して、俺のところに来ると、俺の顔を両手で抑え、見上げさせる。
俺の目には王様が俺の顔をじーっと観察している王様の顔が見えている。
「確かに、この生意気そうな顔はあのバカにそっくりだ」
えー…………
嫌な言い方ー。
母親に似てるねとよく言われるが、こんな評価をされたのは初めてだ。
王様は俺の顔から手を離すと、元の席に戻ると、座った。
「ハァ……母がどうした?」
王様がため息をつくと、すでにわかっていることを聞いてくる。
「私の母はソフィアという名です」
「…………えっ!?」
宰相殿が変な声を出した。
「そうか…………そうだろうなー……」
王様は最初から感づいてたのだろう。
俺が謁見に間から出る時に苗字を聞いてきたが、俺は黒木としか言っていないのに王様はクロキ・リヒトかと確認してきた。
こっちの世界で苗字が先に来ることはないのにも関わらずだ。
つまり、この人は俺の父親を知っている。
「へ、陛下、まことなのでしょうか? ソフィア様とは別の人間ということはないのでしょうか?」
宰相殿はめっちゃ動揺してるな。
俺はカバンの中から写真立てを取り出す。
これは日本の家にいまだに飾ってある幼い俺と若い両親が写っている家族写真だ。
王様に疑われた時に証明しようと思って持ってきたものである。
俺はこの写真立てを王様に渡す。
「これは写真と言って、私の世界のものですが、その場面を写し出すものです。幼くて、わかりづらいですが、真ん中にいるのが私です」
王様は写真をじーっと見ている。
「ふっ……わかるな。面影が十分にある。ほれ、宰相」
王様で動揺している宰相殿に写真立てを渡した。
「…………ああ……確かにわがま……ソフィア様です」
わがま?
こら、宰相!
「ソフィアは?」
王様は写真をずっと見続ける宰相殿を放っておき、俺に聞く。
「元気にやっております。先日もフィリアの祖父であるディラン様と顔合わせをしていましたが、自分の母であることが恥ずかしいくらいにわがままぷーでした」
俺がそう言うと、王様は苦笑し、宰相殿は写真を見ながらうんうんと頷いた。
おい、宰相!
無意識だろうが、王族に失礼だぞ。
「ディランは本当に苦労するな…………」
「ただ、母はディラン様に剣を授けていました」
「そうか…………それは良かったな。30年以上の苦労が報われたのだろう」
長っ!
母さんが10歳以下の時からの付き合いってことじゃん。
「ディラン殿はロストには戻られんのか?」
宰相殿が顔を上げ、聞いてくる。
「すでに60歳近くになっていますし、アルトで余生を過ごすようです」
「…………そうか。ディラン殿が兵士に指導をしてくれると心強いのだがな…………」
神父様って、すげー信頼されてんだなー。
母親のせいでもあり、おかげの気もする。
「言うな、宰相。ディランは己の騎士道を貫いたのだ。それに孫夫婦がいる町の方がよかろう。まだかもしれんが、ひ孫が生まれたらこんな国で兵士に戦いのすべを教えるよりもひ孫を構っている方がずっといい。貴様と同じだ」
「まあ、確かにそうですな」
宰相殿って何歳?
ひ孫がいんの?
「このことを踏まえてなんですが、私は母ほどではないですが、精霊も扱えますし、未来視も使えます。レティシア様は巫女候補ですね?」
「そうだ。ソフィアの姪でお前の従妹に当たるな…………なんでウチの家には巫女候補が出るんだか…………ハァ」
王様がため息をつく。
「あまり歓迎してないようですね?」
「巫女は必要な存在だが、身内から出ては欲しくないものだ。苦行だし、私には生贄にしか見えん」
「陛下、言葉が過ぎますぞ!」
さすがに生贄は良くなかったようで、宰相が苦言を呈する。
「いや、別に誰もおらん…………修道女がいたな…………」
王様は気まずそうにフィリアを見る。
「あ、いえ、私はそこまで敬虔な信者ではないです。祖父の手伝いをしている程度でして…………」
仏教に乗り換えたら金貨100枚あげるって言ったら乗り換えそうな子だもん。
いや、さすがにないか…………
「ほれ見ろ。ソフィアの息子が敬虔な信者を嫁にするわけない」
えー……母親のせいで俺の評価が落ちてるし……
「陛下、リヒト殿に失礼ですぞ」
「さっき、我が城で嫁2人をベッドに連れ込もうとしていた男だぞ?」
「うーむ…………」
うーむ…………じゃねーよ!
否定しろ、ジジイ!
「陛下、私のことはどうでもいいです。レティシア様のことについて伺いたい」
これ以上は俺の評価が母親とイコールになりそうなので、話を本題に戻そう。
「ああ、レティシアな。確かに巫女候補だ。正確に言えば、候補の候補だな。候補になると、修行のために教会に渡さねばならない」
「義父より、どうするかの意見が割れてると聞きました。陛下はどのように考えておられますか?」
「はっきり言えば、反対だ。王族が巫女になる必要性はない。実際、私はソフィアの時も反対した。まあ、性格がクソ…………向いていないのもあったがな」
クソだってさ。
妹に辛辣だな。
「では、やめますか?」
「そう思っていたのだが、お前が来た。女神様の使命を持ったソフィアの子がな…………これはそういうことなのだろう」
王様もなんとなく女神様の意図を察したらしい。
「私も義父もそう結論付けました」
「だろうな。誰でもそう思う」
まあね。
「巫女にしても構いませんか?」
「というか、出来るのか?」
「実際にお会いしてないので何とも言えませんが、精霊を扱う程度なら可能です。元々、巫女候補候補になるくらいならば、素質もあるでしょうし」
自分で言ってて何だが、巫女候補候補って何だろ?
3軍?
「程度か…………」
「程度ですね」
いまだに精霊とその他の霊の違いがわからんが素質があるのなら十分に可能だ。
「お前に任すと、レティシアが巫女になっても3日で逃げそうだな…………」
「それはそれで良いではないですか。母は幸せですし、私が生まれましたよ?」
「自分本位な親子だな…………」
あんたの妹と甥だぞ!
「母曰く、巫女の代わりはいくらでもいるそうです。でも、父の妻は自分にしかなれないそうです」
「ハァ……この国の女はそういう言い回しが好きなんだ…………宰相、どう思う?」
王様が宰相殿に意見を求める。
「正直、ロクなことにならん気もしますが、女神様の使命ですからなー。これが女神様の意志ならば仕方がないかと……」
「まあ、結論はそうなるな…………わかった。レティシアに会わせるし、後のことは女神様の使者殿の判断に任せるとしよう」
「伯父上、実は拒否してくれると、私達はさっさとアルトの家に帰れるんですけど…………」
「お前は絶対にソフィアの子だな」
王様がそう言うと、宰相殿は写真に目を落とし、うんうんと頷いた。
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