第094話 一時の休息……そして、お城へGO!


 約2週間ぶりの我が家に帰ってきた。


「長かった…………」


 俺は思わず声がこぼれた。


「きつかったねー。ヘイゼルさんには悪いけど、ヘイゼルさんの実家で休まなかったらヤバかったね」

「まあねー」


 野宿ではない場所で寝て、インスタントでないご飯を食べさせてもらった。

 しかも、お風呂にも入らせてもらったのは本当に大きかったな。


「よし! 風呂に入ろう!」

「だね! 入れてくる!」


 フィリアが風呂の準備をしにリビングを出ていった。

 俺とヘイゼルはソファーに座る。


「このソファーに座ると、帰ってきたって感じがするわね」

「だなー」


 早くアルトの家にも帰りたいわ。


 その後、風呂が出来たのでフィリアに先に入らせ、次にヘイゼルに入らせた。

 そして、最後に俺が入り終えると、久しぶりのフィリアが作ってくれたご飯を食べる。

 フィリア曰く、簡単なものらしいが、十分に美味かった。


 かつて、初めてあっちの世界に行った時も長旅から戻り、カップ焼きそばで感動したこともあったが、それ以上だった。

 多分、これが愛情という名のスパイスなんだろう。

 ちなみに、これを口に出したら苦笑いされた。


 俺達はご飯を食べ終えると、ソファーで体を休めることにし、この日はほぼソファーで過ごした。

 そして、夜になると、酒を飲みながら今後について、話し合うことにした。


「明日は買い出しに行って、明後日の朝に向こうに行く感じでいいか?」


 俺は2人に確認する。


「もうちょっと休みたいけど、女神様の使命だからねー。早い方がいいと思う」

「早くロストを出て、アルトに帰りたいしね」


 同じ意味だが、フィリアとヘイゼルでは理由が異なるな。

 なお、俺はヘイゼル寄り。


「王都に行って、王様に会えるかなー?」

「一応、お父様の紹介状があるし、使者の証の腕輪もあるからねー。大丈夫だとは思う」

「ダメだったらどうするの?」

「帰る。女神様に何かを言われたら王様が悪いって言う」


 それが一番楽でいい。


「まあ、正直に言えば、それがいいけどね」

「ホントよね」


 さすがにフィリアも家に帰りたいんだろうね。


「問題は会えたとして、それからなんだよなー……」


 俺は義父との会話を思い出す。


「会ってどうしたいのかな?」

「ヘイゼルの親父さんと話したんだがな、レティシア様は巫女候補っぽいんだわ」

「あー…………」

「それかー…………」


 フィリアとヘイゼルも察したようだ。


「理由はわからんが、レティシア様を巫女にしたいのだろうというのが俺とヘイゼルの親父さんの見解だ」

「私もそう思う…………」

「スマホのアプリを使って、あんたをあっちの世界に呼んだのもそれっぽいしね」


 アルトの王族で巫女と同じような力が使える従兄。

 それが俺だ。

 女神様は俺にレティシア様を巫女にしてほしいのだろう。


 利用されてる感はあるし、大変な目にも遭ったが、腹は立たない。

 俺はフィリアとヘイゼルと結婚し、祝福をもらったのだから。


 アプリもなく、あっちに転移することもなく、こっちの世界に居続けた場合、俺がこの幸せを手に入れたとは考えにくい。

 俺はそれまで金を得ることしか考えてなかったのだから。


 うーん、女神様も上手い手を思いつくなー。


「実際、レティシア様を巫女にできるの? 私は精霊がまったく見えないからよくわかんないんだよねー」


 フィリアが首を傾げる。


「お前の蛇を見せてやろうか?」

「え!? 見えるの?」

「ちょっと待ってろ」


 俺はフィリアの胸に手を伸ばし、掴んだ。

 そして、蛇を引っ張り出す。


「すごい! いきなりセクハラされた! おっぱい触られた!」


 ちゃうわ!


「お前は見えるよな?」


 俺はヘイゼルに掴んだ蛇を見せる。


「まあね…………精霊を掴む人を見たのは初めてだけど…………」


 引くなっての。

 精霊だか何だか知らんが、ただの動物霊だろ。


「このおねんねしている蛇に不思議パワーを込めるとー…………」


 俺が蛇に不思議パワーを込めると、蛇が光り出した。

 そして、光が止むと、実体化する。


「へ? マジ?」


 フィリアが俺の手の中の蛇を凝視すると、目をこすりだす。


「これがお前の蛇。今は寝てるけど、昔はお前の身体に巻き付いていた」

「精霊って実体化するもんだっけ?」


 フィリアがヘイゼルに聞く。


「知らない知らない」


 フィリアに話を振られたヘイゼルはそっぽを向いた。


「まあ、こんな感じで実体化もできるし、命令もできる。こいつは寝てるから無理だけど」


 俺はそう言いながら蛇に不思議パワーを込めるのをやめる。


「あ、消えた」

「戻すぞー」


 俺は蛇をフィリアの胸に突っ込んだ。

 そして、離れ際におっぱいを揉んでおいた。


「あ、今、絶対に揉んだ! 絶対に蛇に関係なかった!」


 別にいいじゃん。

 よーし! 後でフィリアの部屋に行こ。


「まあ、こんな感じで精霊を扱えるわけだ。サラマンダーは見たことがあるが、他はちょっと見たことがないんだけどな」


 ウンディーネがいるんだっけ?


「へー、すごーい。それをレティシア様に教える感じ?」

「なのかなー? レティシア様がどんなもんかは知らんから何とも言えん」


 少なくとも、精霊が見えはするだろうけどなー。


「お前も巫女候補になりかけてたんだよな?」


 俺はヘイゼルに聞く。


「まあねー。私自身も嫌だったし、両親も反対した。絶対に無理だって」


 俺も反対する。

 絶対に無理。

 ヘイゼルが過酷な修行とやらをこなせるとは思えない。


「ヘイゼルさんは精霊魔法が使えるもんねー」

「あんなんは無理だけどね」


 あんなん言うな。


「しかし、霊を扱えるようにするって、金貨1000枚はもらう仕事なんだけどなー。さすがにくれないよね?」

「無理でしょ」

「女神様に言ってみれば?」


 言ったら金貨1000枚をくれると思うけど、じゃあ、祝福はなしねって言われそう。

 俺、2回も祝福してもらってるからなー。


 俺はうーんと考え、フィリアに抱き着いた後、ヘイゼルに抱き着いた。


「急に何?」

「どうしたの?」


 報酬はこれか……

 じゃあ、しょうがないね!




 ◆◇◆




 日本の家に戻ってきた翌日。

 この日は消耗品の買い出しに行き、酒やパン、インスタント食品を補充すると、3人でお出かけした。

 まだ疲れは取れていなかったが、ずっと馬車にいたので外に出たくなったのだ。


 3人で買い物に行き、服やアクセサリーを見たり、ちょっとした観光地にも行った。


 フィリアもヘイゼルもでっかいタワーに登った時は興奮していた。

 なお、俺はちょっと怖かった。


 それでも3人で出かけ、色んなものを見たのは楽しかったし、楽しそうな2人を見ていると、嬉しかった。

 夜はまったく似合っておらず、場違い感がヤバかったが、3人でやきとり屋に行き、飲んだ。

 ヘイゼルはよく食べてたし、フィリアはヤバいくらいに飲んでいた。


 その後はご機嫌な2人と共に家に帰り、3人一緒に就寝した。


 そして、翌日、早めに起きた俺達は朝ご飯を食べ、準備を終えると、スマホのアプリを使って、あっちの世界に転移する。

 宿屋の部屋に戻ると、部屋を出て、受付でチェックアウトし、宿屋を出た。


「じゃあ、城に行ってみるかねー」


 宿屋を出ると、2人に声をかける。


「私、お城に行くのは初めてだよー」

「私は子供の頃に行ったことがあるらしいけど、覚えてない。まあ、私らが話すことはないわよ」

「そっかー。良かったー」


 俺が話すのか……

 そら、そうか。

 まあ、しゃーない。


 俺達は都市の中央にある大きな城を目指す。

 王都は本当に人が多く、色んな人が歩いていた。

 だが、城に近づいていくと、だんだんと人が減っていく。


 そして、そのまま歩いていると、城の正門に到着した。


 門の前には槍を持った2人の兵士が立っている。

 俺はフィリアとヘイゼルを後ろに下がらせ、ゆっくりと歩き、近づいた。


「止まれ! ここから先は王城である! 貴様のような者が近づいていいような場所ではない!」


 1人の兵士が俺に槍を向けて、威圧的に怒鳴ってきた。

 すると、ヘイゼルが前に出る。


「は? あんた、ふざけてんの?」


 ヘイゼルがめっちゃ冷たい声を出した。


「おい! やめろ!」


 もう1人の兵士はヘイゼルの言動からヘイゼルが貴族なことに気付いたのだろう。

 慌てて、俺に槍を向けてきた兵士を下がらせた。


「これは失礼しました。何か御用ですか? 先ほど、この者が言いましたが、この先は王城であり、許可を得た者しか入れません」


 兵士はさっきの男とは打って変わって、丁寧な対応をする。

 すると、ヘイゼルが俺をチラッと見て、後ろに下がった。


「私はエーデルのアルトという町の冒険者です。先日、女神様よりこの国のレティシア様に会えと命じられました。御取次ぎをお願いしたい」

「女神様ですか!? しかし…………何か証明できる物はおありか?」


 俺はそう言われたのでポケットから腕輪を取りだす。


「女神様より頂きました」

「見せてもらいます」

「どうぞ」


 俺は兵士に腕輪を渡した。


「……………………確かに」


 ホント、なんで皆、わかるんだろ?


「それと、こちらの者は私の妻なのですが、バーナード家の当主であるタイラー伯爵のご息女です。その縁もあって、伯爵より紹介状を預かっております」

「バーナード伯爵の!? それは大変、失礼しました」


 義父の名前を聞いた兵士は背筋を伸ばした。

 なお、先ほど、俺に槍を向け、ヘイゼルに睨まれた奥にいる兵士の顔は真っ青だ。


 ホントに貴族の力がヤバい国なんだな…………

 いや、エーデルが緩いだけか……

 領主様なんて、冒険者ギルドの受付に座ってたもんなー。


「こちらになります。陛下に御取次ぎをお願いします」


 俺は義父からもらった紹介状を渡す。


「かしこまりました! おい、これを急ぎ陛下に!」

「はっ!」


 俺と応対している兵士が奥で青くなっている兵士に指示を出すと、青くなっている兵士は紹介状を受け取り、走って城に入っていった。


「今、取り次ぎますので、少々、お待ちください」

「承知しました」


 さーて、どうなるかなー?

 しかし、ヘイゼルちゃんが怖いわ。

 昨日の夜、酔って、あんなに甘えてきた人と同一人物とは思えない。

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