第093話 王都は大きいね


 義父と2人で話していた俺は話を終えると、メイドに案内され、客室に戻った。

 客室にはすでにフィリアとヘイゼルが戻っており、2人も義母との話を終えたようだ。


「おかえりー」

「どうだった?」


 フィリアとヘイゼルが笑顔で出迎えてくれる。

 俺は2人に手を引かれ、ベッドに腰かけた。

 当然、2人は両隣に座る。


「まあ、色々と話してきたよ。王家への紹介状を書いてもらう」

「おー! すんなりだったのね」

「お父様にソフィア様のことは言った?」

「言ったよ。動揺しておられたけど、納得もされてた」

「さすがのお父様でも動揺するか…………」


 まあ、いきなり自分の娘の旦那が王族の息子だったらビックリもするわ。


「それで、明日の午前中には王都に向けて馬車を出してくれることになった」

「やった。早めに出れる」

「ただ、帰りも寄ることになった」

「また来るのか…………」


 なんでそんなに実家が嫌なんだろ?


「そっちは…………いや、いいわ」


 聞かない方がいい気がする。


「聞かないの? 言えないけど……」


 フィリアが意外そうに聞いてくる。


「パパさんに男が聞くものじゃないって言われた」

「まあ、そうかも」

「言えないよねー」


 フィリアとヘイゼルが顔を見合わせ、ねーって言う。


 めっちゃ気になる……


「それよか、日本の実家に戻るのは王都に着いてからになりそうだわ」

「まあ、それは仕方がないね」

「菓子パンも尽きたし、お菓子と缶詰とカップラーメンで乗り切るしかないわね」


 ぶっちゃけ、俺はすでにそれらに飽きてる。

 だから今日の夕食は非常にありがたかった。


「酒は?」


 俺はあっちの世界の物を収納魔法に入れて管理をしているヘイゼルに聞く。


「いっぱいあるけど、これまでのペースだと足りない。ちょっとペースを落とさないとね」

「えー…………」

「いや、あんたが飲みすぎなのよ」


 フィリアは水のように飲むからなー。

 大量に持ってきていたが、ザイルで日本に帰ってから一週間程度も経っている。

 さすがに足りなくなるか……


「フィリア、我慢しろ」

「はーい…………」


 フィリアがめっちゃへこんだ。


「ちょっと待ちなさい。せめて、今日はこっちのお酒を飲みましょう。そうすれば、ちょっと減らすくらいでいけると思う」


 ヘイゼルはベッドから立ち上がると、扉の方に歩き、呼び鈴を鳴らす。

 チリンチリンという音が鳴ってちょっとすると、扉が開き、メイドが入ってきた。


「お酒を飲むわ。ワインを用意して。そうね…………5本くらい?」


 ヘイゼルは悩んでいたが、フィリアをチラッと見ると、5本も頼んだ。


「かしこまりました。しかし、お嬢様、お酒を飲むのは結構ですが、先にお風呂に入られては? 用意してございます」

「あ、そういえばそうね。フィリア、お風呂があるけど、先にそっちにしましょうか」

「そういえば、お風呂があるって言ってたね! すごーい!」


 あー、俺も聞いたな。


「先にお風呂に入るわ…………フィリア、あんたが先に入りなさい」

「いいの?」

「いつもあんたが先じゃん」


 風呂は大抵、フィリアが一番先に入る。

 一応、一番年下だし、一番働いているから…………

 あ、言うんじゃなかった……情けなくなる。


「じゃあ、行ってくるよ」

「この子を案内して」

「かしこまりました。どうぞ、こちらです」


 フィリアはメイドに連れられ、部屋を出ていった。

 残された俺とヘイゼルが話しながら待っていると、フィリアが戻ってくる。

 そして、入れ替わるようにヘイゼルが風呂に行くと、フィリアと話しながらヘイゼルを待った。


 しばらくすると、ヘイゼルが戻ってきたため、今度は俺がメイドについていき、風呂に行く。

 風呂は結構な広さがあり、きれいだった。

 俺は備え付けの石鹸で身体を洗うと、湯船に浸かる。


「あー、異国というか、異世界の風呂もいいなー…………」


 すごく新鮮だし、十分に温かい。

 俺は久しぶりの風呂を堪能し、上がると、入口で控えていたメイドについていき、客室に戻った。

 部屋にはすでにワインが5本、置いてあり、フィリアとヘイゼルが待っていた。


「お待たせ。いやー、久しぶりの風呂は良かったわー」

「おかえり。ホントだよねー」

「さあ、飲みましょう」


 俺達はワインを開け、飲みだした。

 正直、俺はワインがあまり得意ではないため、少量だが、フィリアはお構いなしに飲んでいた。

 ヘイゼルもまた、弱いくせに飲んでいる。


「お前、飲みすぎんなよ。ワインはアルコールが強いだろ」

「飲まなきゃやってられないわよ。どうせ、家事も何もせずに魔法の研究ばっかしてるわよ!」


 うーん、親に言われたというか、注意されたんだな……


「お前にはお前の良いところがあるって」


 っていうか、俺も家事をしてない。

 フィリアに任せっきり。


「あんた、それをよく言うけど、私の良いところって?」


 え!?


「場が明るくなるところかな…………あと、お前は賢いし、強いし、かわいいし」

「ホントに思ってる?」

「めっちゃ思ってる」


 俺はそう言いながらヘイゼルを抱きしめる。


「ホントかなー?」


 まーだ、疑ってるし。


「フィリアもそう思うよなー?」

「だねー。ヘイゼルさんは物事をはっきり言うし、助かるよー」

「ふーん……あっそ」


 ヘイゼルはツンデレを発動させ、プイって横を向く。

 俺はヘイゼルから離れ、コップに残っているワインをグイっと飲み干した。


「あ! 今日はダメだよ!」


 何かを察したフィリアが腕でバツ印を作る。


「私も実家は嫌」


 ヘイゼルも拒否してきた。


 まだ何も言ってないんだけど……

 いやまあ、その意図だったけども……




 ◆◇◆




 夜にお酒を飲み、就寝した俺達は朝起きると、義両親と朝食を共にした。

 そして、準備を終えると、屋敷を出る。

 屋敷の前にはこの町まで乗ってきた馬車が止まっていた。


「気を付けてな」


 義両親が見送ってくれる。


「何やら何までありがとうございました。また帰りに立ち寄らせていただきます」

「うむ。帰りは乗合馬車でここまで来るといい。エーデルの関所まで送ろう」

「ありがとうございます」


 俺はお礼を言い、頭を下げた。


「ヘイゼル、迷惑をかけないようにね」


 義母がヘイゼルに言うと、ヘイゼルはまたしても嫌な顔をする。


「わかってます…………」


 ヘイゼル以外の全員が苦笑いを浮かべると、別れの挨拶をし、馬車に乗り込んだ。

 すると、馬車が動き出す。


「お前、最後くらいは笑顔で別れろよ」


 俺はヘイゼルに笑いながら忠告する。


「帰りも寄るんでしょ。その時でいいわよ」


 絶対にその時も嫌な顔をするんだろうな…………


 俺達は再び、激しい馬車の揺れと戦いながら王都を目指す。


 正直、身体の疲れは相当ある。

 馬車の揺れは大きいし、この2週間での疲労の蓄積もある。


 体力に自信がないわけではないが、慣れてないのが一番大きいと思う。

 その証拠に俺とヘイゼルは文句ばっかりだが、フィリアはそこまでじゃなさそうだ。

 多分、当人の性格や根気も関係ありそうだが、馬車に乗ることがほぼないと俺とヘイゼルと、アンナたちと護衛の仕事をしていたフィリアの差だろう。


 それでも最初のアルト、ザイル間の時よりはマシで、兵士の人の護衛のもと、安心して進んでいく。

 すごいのが他の馬車とすれ違う時もあったのだが、全部、向こうが避けることだ。

 ロストは貴族の力が強いとは聞いていたが、本当にすごいんだなと思った。


 俺達は酒と酔い止めの薬とイチャイチャでなんとか5日間を馬車で過ごし、進んでいった。


 そして、5日後、王都が見えてきた。


 王都は外から見ても大きいのがわかるし、高い城壁が見えている。

 城壁の上には兵士もいるし、大きな門の前には多くの人であふれていた。


「すげー! めっちゃ都会じゃん」


 俺は馬車から身を乗り出して興奮する。


「まあ、王都だからね。言っておくけど、エーデルの王都の方が大きいわよ」


 マジ?

 すげー!


「俺、こんなところの王様とお姫様に会うのかー。場違いすぎて笑えてくる」

「あんたの伯父と従妹だけどね」


 いや、そうなんだけど、生きる世界が違いすぎるわ。


「私、家で待機してていい?」


 フィリアが逃げようとしている。


「あ、私も! 迷惑をかけそうだし。お母様もそう言ってた」


 ヘイゼルもこざかしい手を使って逃げようとしていた。


「いや、悪いけど、付き合って。会う相手が王子なら俺だけでもいいんだけど、お姫様だろ? 怪しい男だけよりもロストの貴族女子と教会の修道女がいたほうがいい」


 お姫様も親である王様も安心感が全然違うだろう。


「あー……」

「私が親なら絶対に拒否ね」


 フィリアとヘイゼルは苦笑しながら俺を見てきた。


 君らはさー、そんなのと結婚したんだよ?

 わかってる?


 俺はちょっと不満だったが、身に覚えはたくさんあったのでスルーし、王都に入るのを待った。


 馬車が門に近づくと、王都に入るために待っている人が多くいたが、貴族パワーにより、皆が避けていく。

 割り込みで悪いなーと思いつつも疲労がヤバかったので心の中でごめんとだけ言っておいた。


 馬車が王都に入ると、門の近くで停車する。

 俺達は馬車を下りると、送ってくれた兵士にお礼を言い、別れた。


「どこに泊まるかねー?」

「案内するわ。こっちこっち」


 ヘイゼルが知っているらしい。


 俺とフィリアはわからないのでヘイゼルについていく。


「ここが安いし、いいと思う」


 少し歩くと、ヘイゼルが建物を指差す。


「じゃあ、ここにしよう」

「そうね。どうせ家に帰るだけだし」


 俺達は俺を先頭に宿屋に入り、受付で泊まりの手続きをした。

 今回も勉強会をするから部屋から出ないことを告げ、3泊することにした。


 受付にいたおばさんに案内され、部屋に入ると、ベッドが3つあり、机が1つだけある普通の部屋だった。


 案内してくれたおばさんが部屋を出ると、フィリアとヘイゼルがくっついてくる。

 俺はスマホを取り出し、アプリを起動させた。


 やっと帰れるなーと思いながら久しぶりのぐるぐる画面を見ると、視界が白色に染まった。


 つーかーれーたー。

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