第090話 落差がすごいね


 色々あって午後になってしまったが、反省会を再開する。


「暇をどうすればいいかな?」

「本とか持っていっても読めないと思う。酔っちゃうよ」

「まあなー。暇はどうしようもないかー」


 こればっかりはどうしようもなさそう。


「もういっそさー、馬車を貸し切らない? 正直、周りの目が気になって、ご飯もロクに食べれなかったし」

「貸し切れんの?」

「多分、お金を出せばいける。私が子供の頃にロストから魔法学校に行った時も貸し切りだったし」


 それ、お前が貴族だからでは?

 いや、他国ではあまり関係ないか。


「護衛は?」

「どっちでもいいかな。護衛を付けても同じ馬車にしなきゃいい。正直、ザイル、関所間は盗賊もモンスターも出ないよ。だって、国境沿いだから兵士がいっぱいいるもん」


 そんなところに盗賊なんかいるわけないし、モンスターも駆逐されてるか…………


「フィリアはどう思う?」


 俺は護衛経験のあるフィリアの意見を聞いてみる。


「それでも護衛は付けるべきだと思う。何があるかわかんないし、夜の見張りも疲れるしね。ここはお金を払ってでも馬車の貸切りと護衛を付けた方がいいんじゃないかな? まだ、先は長いし、お金をケチるところじゃない」

「そうするか…………まだ半分にも来てないどころかロストに入ってすらねーし」

「そうしよう、そうしよう。昼間からお酒を飲もう!」


 ヘイゼルのテンションが高い。


 馬車の中で飲むの?

 まあ、いいけど。


「次の馬車はザイルからロストの関所までか?」


 ロストに詳しいヘイゼルに確認する。


「そうね。関所で乗り換え。そこから4日でバーナードの領地になるわ」


 遠いなー。


「じゃあ、それで行くか…………」

「他に何かあるか?」

「うーん、寝具は良かったし、ご飯も悪くはない……」

「だよね。やっぱりまともな護衛とお酒で乗り切りましょう」


 うーん、まあ、いいか。


「じゃあ、今日はゆっくり休んで、明日、物資を補充しにいこう。それで、明後日に出発な」

「そうね。そうしましょう」

「りょーかい。ねえ、トランプしようよー」


 はいはい。

 ヘイゼルはロストに行くのが乗り気じゃないから機嫌を取っておかないとなー。


 俺とフィリアはトランプをせがむヘイゼルに付き合い、午後からトランプで遊んだ。

 夕方になると、早めの晩御飯を食べ、この日はさっさと就寝した。

 何せ、寝不足なうえ、色々と動いたからお疲れだったのだ。


 翌日は買い物に行き、物資を仕入れると、ゆっくりと過ごした。

 そして、出発となる日の朝、だいぶ早めに起きた俺達は朝ご飯を食べ、準備を終えると、朝の7時にはあっちの世界で泊まっている宿屋に転移した。


 宿屋をチェックアウトした俺達は次の目的地であるロストの関所がある方角の西門に向かう。

 西門に到着すると、門の近くに止まっている馬車の男に近づいた。


「おいーす、ちょっといいか?」

「ん? なんだ?」


 男はこの町まで連れて来てもらったロンよりも若く、俺とそうは変わらない年齢っぽかった。

 そいつは暇そうに馬車にすがっていたが、俺が声をかけると、姿勢を正して対応してくる。


「ロストの関所まで行きたいんだわ」

「ああ、いいぜ。いつがいい?」


 馬車の御者で合ってるっぽい。


「早い方がいい。それと金は出すから貸し切りにしてくれ」

「貸し切り? 馬車の定員分の料金を払うならいいぜ」

「それでいい。それと護衛は信用出来るヤツにしてくれ」

「ああ、もしかしてお前ら、アルトから来たのか? 俺らの業界で噂になってるぜ。アルトのロンがとんだ貧乏くじを引いたってよ」


 やっぱり同じ業界だからそういう情報は共有されるのか。


「それそれ。後ろの2人は俺の嫁なんだが、俺の目の前で口説いてきやがった」

「うわー……そら、災難だわ。ロンのヤツ、マジで貧乏くじを引いたんだな。いいぜ。冒険者ギルドに行って、信用できるベテランを頼んでやる。このままだと、この町の信用が落ちちまうからなー」


 おー!

 ベテランなら大丈夫っぽい。


「いついける? 早い方がいいし、今すぐにでもいい」

「ちょい待ち。ちょっと冒険者ギルドで都合を聞いてくる」


 男はそう言うと、町に向けて走っていった。


「今思うと、宿屋をチェックアウトしたのは早計だったかしら?」


 ヘイゼルが頬に手を当て、首を傾げる。


「大丈夫。ベテランさんはギルドで酒を飲んでる」

「お酒? 大丈夫、それ?」

「少量だし、問題ない。それに危険なんてねーし」

「あ、占ったのね」


 俺達がそのまま待っていると、さっきの御者がおじさんとは言わないけど、若くはない大柄な男を2人連れてきた。


「待たせたな。ウチの町の冒険者だが、信用できる2人だ」


 御者は2人を紹介してくる。


「ギースだ。ウチの若いのが迷惑をかけたらしいな。すまなかった」

「アレンだ。ちょっと酒を飲んでいるが、いいか? 抜いた方がいいなら明日にしてくれ」


 2人は身長が2メートルはありそうだし、筋肉もやばい。

 めっちゃ強そうである。


「いや、飲んでても大丈夫。どうせ危険はないし、例え、何か出てもあんたらなら問題なさそうだ。行こう」

「わかった」

「任せておいてくれ」


 2人はそう言って、俺に握手してくるが、手がめっちゃデカかった。

 はたして俺と同じ人間なのだろうか?


「じゃあ、お客さんは後ろに乗ってくれ。あんたらは前な」


 若い御者は気を使ってくれたのか、俺達を後ろの馬車に乗せてくれるらしい。


 俺達は馬車に乗り込むと、早速、ロストの関所に向けて出発した。


「いやー、強そうな2人だったなー」


 俺が銃を撃っても弾き返しそうな感じさえした。

 アンチェインですわ。


「私、あの2人、知ってる…………」

「ギースにアレンでしょ? 私も知ってるわ」


 フィリアとヘイゼルはあの2人を知っているらしい。


「そうなん? 有名?」

「ザイルで一番の冒険者よ」

「そうね。めっちゃ強いらしい」

「マジ?」


 確かにめっちゃ強そうな2人だったけども…………


「マジ」

「間違いないと思う」

「なんでそんな2人が護衛の仕事なんかするんだよ」


 ルーキーでもやれる仕事じゃねーの?


「この前の仕事放棄が結構、大事になっているんだと思う」


 あと、お前を口説いてきたやつね。

 俺的にはそっちの方がアウト。


「多分、そう。冒険者の信用問題だし、この町のギルマスの指示じゃない?」


 あー…………占いでなんか見えてきた。


「フィリアがマズかったっぽい…………武器屋の夫婦が神父様の孫って言っちゃってるわ」

「あー…………ディラン様かー……そら、知ってるよね。隣町だもん」


 教会の権力者でロスト一の騎士だっけ?

 いくらギルマスでも怖いわな。


「あと、ヘイゼルがどう見ても貴族なのがマズい。武器屋の夫婦があの子、貴族って言っちゃってる」

「あー……貴族はマズいよ」


 何気に責任を押し付け合ってる2人……


「まあいいじゃん。信用できるめっちゃ強い冒険者が護衛だろ。安心して休もうぜ」

「それもそうだね。今回は楽そう」

「飲もうよー」


 俺達は気楽になり、お酒を飲んだり、話したりしながら到着までの時間をつぶしていった。

 ご飯も好きに食べ、夜も見張りを考えることなく、ゆっくり休むことが出来た。


 移動中の馬車の中が暇であることには変わりないが、アルトからザイルまでの旅路よりは遥かに楽であり、護衛の質でこんなに変わるのかーと思った。


 2日ほど、泊まり、そのまま進んで行くと、前方に関所が見えてきた。


「おー、着いたなー」

「そうねー」

「ロストか……」


 ヘイゼルのテンションが若干下がった。


「それにしても、ギースとアレンはあまりこちらに干渉してこなかったな」


 俺はちょっと落ち込んでいるヘイゼルを置いておき、フィリアに話しかける。


「普通はしないよ」

「お前らはゲルドにめっちゃ話しかけてなかったか?」


 俺もだけど、アンナもミケもフィリアも普通にゲルドと世間話をしていた。


「そりゃ、ゲルドさんは昔から知っているし、お得意様だもん。普通に話すよ」


 あー、昔からの知り合いだったのね。

 言われてみれば、お互いに遠慮がなかった気がする。


「なるほどね」

「関係性次第だよ。だからこの前はありえない」

「ホントだわー。やっぱ依頼する時は良い冒険者を選びたいねー」

「そうだけど、私達は選ばれる方だよ。冒険者じゃん」


 正直、あんま自分が冒険者な感じがしないんだよね。

 俺の戦歴、ゴブリン数匹と兵士崩れ2人だもん。

 あ、しかも、最初にオークに負けてる。


 俺はちょっと落ち込んだので、フィリアに抱きついておいた。


「いや、なんでよ?」

「私はー?」


 はいはい。

 ヘイゼルちゃんもこっちにおいで。

 抱きしめるから。

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