第089話 やっぱり我が家が一番


 服を着替え、準備を終えた俺達はテントをしまうと、見張りを開始した。

 時刻はすでに6時くらいになっており、陽もほぼ出ている。


 少しずつ、他の客も起き出してきており、それを確認するたびにロンが事情を説明していた。

 俺達はその光景を見ながら朝ご飯を食べている。


 そして、全員の準備を終えると、事前に決めていた通り、後ろの馬車にフィリアとヘイゼル、前の馬車の俺が乗り込んで出発した。


「旦那、悪いなー」


 ロンが謝ってくる。


「あんたは悪くねーよ。しかし、こんなんだったら最初から護衛の仕事を受ければ良かったわ」

「俺もそうしてほしかったわ」


 でしょうね。


「まあ、モンスターも盗賊も出ないから安心して進んでくれ」

「占いか?」

「そうそう。詐欺じゃないから安心しな」

「まあ、信じてみるか」


 そうしなさい。


 馬車は進み続けるが、俺は昨日と同様に暇のまま過ごしている。

 もっと言えば、フィリアとヘイゼルがいないため、さらに暇だ。

 冒険者の連中はよくこんな退屈な仕事を受けるなと思う。

 いや、何もしなくても金が入るから楽なのか…………


 うーん、俺はこういうのに向いてないな……

 暇なのは退屈で嫌だし、暇じゃなくなる時はピンチの時だ。

 絶対に採取や調査の仕事の方が楽しい。


 俺は暇のまま、ずっと時間が過ぎるのを待っていた。


 昼になり、昼ご飯を食べる。

 休憩が終わると、また出発する。

 そして、夕方になると、晩御飯を食べ、見張りを開始した。


 俺は空を見上げ、星空を見ていると、昔のことを思い出す。


 俺がまだこの世界に来たての頃、アンナと話をしながら見張りをして夜を過ごした。

 あの時、アンナが話し相手がいて助かると言った意味がよくわかる。

 どんなに怪しい詐欺師だろうが、話し相手が欲しかったのだろう。

 俺も今はそんな気分だ。


 俺はそのままじっと時間が過ぎるのを待ち、3時くらいになると、フィリアとヘイゼルを起こし、交代した。

 2人が準備をし、テントを出ていったので俺は横になって寝ることにした。


 1人は寂しいわ…………


 俺はそのまま目を閉じると、寝不足もあり、あっという間に夢の世界に落ちていった。


 目が覚めると、フィリアの顔が見える。


「リヒトさん、朝だよー」


 俺は俺の顔を覗き込んでいるフィリアの首に腕を回すと、抱き寄せた。


「眠いよー……」

「仕方がないよー。今日の昼には着くし、さっさと家に帰ろう」

「お前の料理が食べたいわー」

「はいはい。さあ、起きて」


 フィリアは俺を引きはがすと、俺の腕を引っ張り、起こしてきた。

 俺はさっさと準備をすると、テントを出て、片付けを始める。

 そして、朝ご飯を食べると、馬車に乗り込み、出発となった。


 そのまま馬車に揺られ、じっと待っていると、壁が見えてきた。


「詐欺師の旦那、あれがザイルだ」


 おー!

 やっと着いた。


「長かった……」

「旦那は旅向きの性格をしてないなー」

「もうアルトに帰りてーわ。ここからロストだぜ?」


 最終目的地のロストの王都まで20日。

 まだまだ先だ。

 嫌になるわ……


「ロスト? きっつ……そら、大変だわ」

「町に着いたら速攻で宿屋だな」

「悪いけど、冒険者ギルドに付き合ってくれね?」


 あー…………言ってたなー。


「疲れたし、寝たいわー」

「まあ、気持ちはわかるが…………」


 だるい…………


「あれでしたら私達が説明しておきましょうか?」


 俺が嫌がっていると、武器屋の奥さんが提案してくる。


「いいんです?」

「まあ、大体の状況はわかりますし」

「いいか?」


 俺はロンに確認する。


「まあ、いいか…………依頼料や違約金はどうする? 旦那達はロストに行くんだろ?」

「おじさんとおばさんはいつまでザイルに?」

「2、3日でアルトに帰るよ。あれだったら僕らが受け取っておこうか? 教会の神父様に渡しておくよ」


 それがいいかもな。

 別に路銀に困っているわけじゃないし、この人らはくすねたりはしないだろう。


「すみませんが、それでお願いします」

「もちろん大丈夫だよ」

「じゃあ、そういうことで」

「わかった。旦那に言い訳しておくと、こんなことは滅多にないんだ。マジで悪い。あと、助かった」


 頻繁にあってたまるか。


「わかってるよ」


 俺は冒険者ギルドへの説明を武器屋の夫婦の丸投げし、さっさと宿屋に行くことに決めた。

 その後、馬車が進んでいくと、ザイルの町の北門に到着した。


 俺とフィリアとヘイゼルは馬車から降りると、一緒に旅をした人達に別れを告げ、ロンが紹介してくれた宿屋に向かう。

 俺達は宿屋を目指しながら歩き、周囲を観察しているが、本当にアルトの町とそうは変わらない。


「驚きはないなー」

「まあ、隣町だしね。変わんないよ」


 やっぱり観光はなしだな。


 俺達はそのまま歩いていき、宿屋に到着した。


 俺は先頭で宿屋に入ると、受付にいるひげもじゃマッチョが目に入る。


「らっしゃい!」


 お前は八百屋か?

 サラとリリーの笑顔が懐かしいわ……


「一部屋を2泊借りたい。空いてるか?」

「3人部屋だな? 飯は?」

「いらない。作業というか、勉強会をするから籠りっきりだ。3日後の昼に出る予定」


 一応、ずっと出ないのは不自然なので、こういう言い訳を考えてある。


「わかった。金貨1枚と銀貨5枚だ」


 思ったより安いな。


「じゃあ、これ」


 俺は財布から金貨と銀貨を取り出す。


「はいよ! 2階の手前の部屋だ」


 俺達は2階に上がると、部屋を開け、中に入った。

 部屋は結構広く、ベッドも3つある。

 まあ、使わねーけど。


「よし! 帰ろう!」


 俺は部屋に入るなり、宣言する。


「そうね。さすがにアクシデントが多すぎて疲れたわ」

「やっとお風呂に入れる…………」


 2人ももちろん異論はないようで、くっついてきた。

 俺はポケットからスマホを取り出し、アプリを起動させる。


 俺達3人はいつものぐるぐる画面を見て、帰宅した。




 ◆◇◆




 白い光が収まると、日本の家のリビングに転移していた。

 俺達は靴を脱ぐと、そのままソファーまで歩き、座る。


「あー、疲れたー……」

「きっつー」

「ソファーが柔らかくて最高ー」


 俺達はソファーの柔らかさに身体を預け、ぐでーっとする。


「あー、お風呂を入れてくるー」


 フィリアはすぐに立ち上がると、風呂場に向かった。


「風呂とベッドと酒とご飯とお前らが欲しいわー…………」


 俺はフィリアを見送ると、だらけながらつぶやく。


「欲望を垂れ流してるわねー。まあ、私も欲しい」

「ちゅーしてやろうか?」

「お風呂から上がったらねー」


 俺とヘイゼルがふざけていると、フィリアが戻ってきた。


「リヒトさん、先に入る?」

「いや、お前が先に入れ。俺は最後でいい」

「フィリアが先でいいよー」


 俺とヘイゼルは風呂を用意してくれたフィリアに先に入るように勧める。


「じゃあ、入ってくるね」


 フィリアがお風呂に行き、待っている間に俺達はただただソファーに身体を預け、ぐだぐだしていた。

 しばらくすると、フィリアが風呂から上がったのでヘイゼルが風呂に行く。

 俺はまだだらだら過ごしているが、フィリアはご飯を用意し始めた。


 ヘイゼルも風呂から上がり、俺も風呂に入ると、疲れが一気に取れるような気がした。

 俺も久しぶりの風呂だったため、長風呂をしてしまったが、リビングに戻ると、すでにご飯の準備が出来てた。

 先に食べればいいのにフィリアとヘイゼルは律儀に待っていたのだ。


「遅くなって悪い。先に食べてても良かったのに」

「いや、私らの風呂の方が長いから。それに待つわよ」

「そうだよねー。一緒に食べようよ」


 ええ子達やね。


 俺達は久しぶりのインスタントではない料理を食べ、満足だった。

 食べ終わった皿も洗い、片付けも済んだため、俺達は酒を持って、再び、ソファーに座る。


「反省会ー」


 俺は酒を飲みながら宣言する。


「いえーい……?」

「わー……?」


 ノリの悪い子達だ。


「まあ、冗談はさておき、マジで反省会。何が悪かったと思う?」

「あの冒険者ども」

「運かな」


 いや、そうなんだけど…………


「それはどうしようもないじゃん。次は同行する冒険者の情報をちゃんと聞こう」

「そうね。ベテランでもルーキーでも何でもいいけど、まともなのがいいわ」

「まさか家族でいるのに勧誘をされるとは思わなかったよー」


 あれは勧誘もあっただろうが、9割9分目的はフィリアだ。


「まあ、あのガキ共はどうでもいいわ。どうせ捕まる」

「ん? 何か見えたの?」


 フィリアが聞いてくる。


「ザイルから南に逃げるけど、途中で捕まると出た」

「あー……南って王都だよ」

「警備が一番きついところに逃げたのね」

「多分、そこまでの罪の意識がないんだろ」


 たかがナンパをしただけ。

 あと、職務放棄をしただけ。

 そんなことは大したことではない。


 そう思っているのだろう。

 責任を知らないガキの思考だ。


「捕まった後、どうなるかは知らんが、まあ、俺らには関係ない話だ。それよか、他に何かあった?」


 俺は話を反省会に戻す。


「暇」

「確かに……」


 ヘイゼルがきっぱり言うと、フィリアも頷いた。


「俺はそれも感じた。特にお前らがいない見張りと馬車で強く感じた」


 特に夜の見張りがやばかった。

 怖そうなアンナが胡散臭い俺にこの世界のことを優しく教えてくれた時の気持ちがよくわかった。

 逆の立場なら俺もそうする。


「任せちゃってごめんねー」

「助かったわ」


 2人がお礼を言ってくる。


「気にすんな。どう考えても俺がやるべきだし…………さあ、こっちにおいで」

「あんたって、その言い回しが好きよね」

「昼間というか、朝なのになー……」

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