第083話 めんどくさいことになりそう……
俺はゆっくりと身体を起こした。
備え付けの時計を見ると、時刻はまだ朝の5時。
起きるのにはちょっと早い時間だ。
「もう朝……?」
右からフィリアの声が聞こえた。
俺は声をした方を向くと、フィリアが素っ裸で目をこすっている。
俺が起きたので、掛け布団が捲れたから起きたのだろう。
俺はさらに左隣を見るが、左には素っ裸のヘイゼルが布団が捲れたのも気にせずにスヤスヤと寝ていた。
こいつはホント、起きないなー……
「悪い。変な夢を見てな。まだ眠いし、寝よう」
俺は枕元に腕輪っぽいものが見えているが、無視して、再び横になった。
「夢?」
「うーん、起きたら説明する。そんなことはいいからこっちにおいでー」
「朝からもう!」
俺はフィリアを抱きしめ、二度寝した。
俺はそのまま寝ていたのだが、目覚ましが鳴ったので起きることにした。
俺が起きると同時にフィリアも起きる。
ヘイゼル?
寝てる。
俺がヘイゼルの額をぐりぐりすると、ヘイゼルは目を閉じながらへらっと笑う。
でも、起きなかった。
「ねえ、これ何?」
俺がヘイゼルにイタズラをしていると、フィリアが枕元にある腕輪を指差しながら聞いてくる。
「んー、女神様がくれた」
「は?」
フィリアが呆けるのもわかる。
俺もよくわかってないもん。
「夢に女神様が出てきたわ。啓示ってやつかね?」
「ホントに来たんだ……えーっと、どうしよう?」
「その辺を話そうか……悪いけど、朝ご飯をよろしく。俺はヘイゼルを起こす」
「そうだね。ご飯食べながら聞くよ」
フィリアがそう言って、服を着てリビングに行ったため、ヘイゼルを起こしにかかる。
「起きろー」
「……もうちょい」
そう言うヤツはいつまでも寝てるんだよ。
ソースは俺。
「セクハラすんぞー」
「もう触ってんじゃん。あーあ、まだ7時なのにー……ねむた」
ヘイゼルはゆっくりと上半身を起こす。
「早く服を着な」
「珍しいことを言うわね。いっつもベタベタしてくるくせに」
そんなにしてるかな?
でもまあ、それは仕方がないよ。
「ちょっと事件があったわ。朝ご飯を食べながら説明する」
「事件? まあいいか。じゃあ、起きよう」
ヘイゼルはのそのそと服を着だしたので、俺も服を着ると、枕元にある腕輪を持って、ヘイゼルと一緒にリビングに行く。
リビングではフィリアが朝食のパンとスープを用意してくれていた。
「ヘイゼルさん、おはよー」
「おはよー……眠いわー……なんで7時に起きるの? 9時まで寝てようよー」
ヘイゼルがぶつくさと文句を言いながらテーブルについた。
「この人って、ずっとこんなんだったの?」
フィリアが呆れながら聞いてくる。
「基本、ねぼすけだな」
「朝起きる必要なくない? 昼まで寝ようよー」
さっき9時って言ってたのに昼になってる。
「生活リズムをしっかりしないと、健康に悪いよ」
「修道女はキッチリしてるわねー」
いや、そこはあんまり関係ないと思う。
「まあ、いいから食べようぜー」
「そうね」
「いつも準備してもらって悪いわねー」
俺達は朝ご飯を食べだした。
「それでさー、さっき夢を見たんだわー」
「女神様って言ってたね」
「は? 女神様? 何それ?」
寝ぼけていたヘイゼルの目が開く。
「いやね、何か白い世界にいてさー…………」
俺は2人に夢の内容を説明した。
「えーっと、ロストに行けって?」
フィリアが戸惑いながらも聞いてくる。
「だなー」
「レティシア様って、正真正銘のロストのお姫様よ…………まあ、確かにあんたの従妹に当たるわね」
ヘイゼルもこめかみに手を当てて、戸惑っている。
「その辺の家系図がわからん」
「今の王様はソフィア様の兄ね。あんたの伯父。そんでもって、レティシア様はその三女様よ」
うん、従妹だな。
「その子に会えって何だろうなー……」
「さあ? 私もあんまり王族のことは詳しくないのよ。私の実家は王都から離れてるし、私自身が10歳の頃には国を出て、魔法学校に行ったしねー」
「そういえば、お前の魔法学校ってどこなん?」
「南東にあるコーラルって国よ。魔法使いの国ね。まあ、これはどうでもいいわ。それより、私の実家に行けって?」
ヘイゼルが嫌な顔をする。
「立ち寄るといいですって言ってたから強制ではないっぽいな」
「でも、女神様が言うならそうした方がいいと思う」
フィリアが修道女っぽいことを言っている。
「まあ、俺もそう思う。それに挨拶くらいはした方が良い気もしている」
「えー……私の家なんてどうでもいいよー。帰りたくなーい」
ヘイゼルは本当に嫌そうだ。
「なんでそんなに嫌なん?」
「絶縁状を送ったのにどの面下げて帰るのよ。たっかいお金を出してもらって、他国の魔法学校にまで通わせてもらったのに家出したのよ?」
しかも、良縁(って言っていいのかもわからん)を無視してな。
「…………行った方が良くない?」
フィリアも俺と同じことを思っただろうな。
「そこまで迷惑かけたんなら逆に行かないとマズいだろ…………」
「えー…………まあ、そうだけどさー」
「気持ちはわかるけどねー」
「今日、神父様の所に行くから相談してくるわ」
あの人もロストの出身だし、相談に乗ってくれるだろ。
「お願い。私達は領主様の所に行くけど、やっぱり今日、洗髪剤セットを売った方が良さそうだね」
「だなー。早い方がいいだろ。向こうの出方次第では鏡やなんやらも売っていいぞ。お前に任せる」
ロストに行くとなると、随分な遠出だろう。
領主様を待たすのも悪いし、さっさと売った方がいいかもしれない。
「わかった! おじいちゃんによろしく」
「ああ、ヘイゼルも頼むぞ」
「はーい…………」
めっちゃテンション下がってるし……
フィリアとヘイゼルは朝ご飯を食べ終えると、準備をし、領主様の屋敷に向かった。
俺も準備を終えると、神父様がおられる教会へと向かう。
教会に着くと、本堂に入り、執務室をノックした。
「入れ」
相変わらずの怖い声だが、もう慣れたものである。
俺は扉を開け、中に入る。
「失礼します。お元気そうで何より」
「…………腰が痛いって言おうと思ったんだがなー」
今日は痛くないのはわかっている。
「私に嘘をついてもどうしようないでしょうに…………」
嘘をつくなら自分の主である母親にしろよな。
「癖だな……まあ、座れ」
神父様は椅子を出し、座るように勧めてくる。
「では、失礼して」
俺は勧められるがまま椅子に座った。
「して、今日は何のようだ? 1人のようだが…………」
「フィリアとヘイゼルは領主様の所ですね。今日は相談事がありましてね。まあ、先にこれを渡しておきます」
俺は持ってきていたカバンから写真立てに入れたフィリアのウェディングドレスの写真を取り出し、渡す。
「おー! すまんなー! うん……姫様の時も思ったが、本当にきれいだな。息子夫婦にも見せてやりたかったわ」
「きっと天から見ているでしょう」
「そうだといいな。いや、感謝する。本当に思い残すことがなくなったわ」
そのギャグ、好きだなー。
「大丈夫ですって」
「まあ、後は余生を過ごすとするわ。姫様にもそう言われたし」
あんたの姫様も余生を過ごしているな……
「そうしてください」
「うむ。あ! そういえばだが、バーナード家から手紙が届いたぞ」
タイムリーだなー。
「見せていただけますか?」
「ほら」
俺は神父様から手紙を2通ほど受け取った。
「2つ?」
「当主と夫人からじゃな。私にも届いた。貴様、とんでもない鏡を贈ったらしいな」
「安物とは言いませんが、そこまでの物じゃないですよ…………私の世界では……ですけど」
「向こうは軽いパニックだな」
へー。
まあ、読むか…………
俺はまずヘイゼルの父親である当主の手紙を読む。
ふむふむ…………
「何と?」
神父様が手紙の内容を聞いてくる。
「随分と丁寧かつ、言い回しが硬いですねー。要約すると、高価な贈り物をありがとう、ヘイゼルをよろしく、こちらこそ挨拶に行けずに申し訳ない、何かあったら頼ってほしいし、歓迎もする、ですね」
「文章が硬いのは仕方がない。下手なことを言って、言質を取られたくないんだ。だが、その内容は貴族の対応としては最上級だな。やはり鏡が利いたのだろう…………利きすぎだがな」
俺もそんな気がする。
この手紙からは絶対に結婚について反対はしないっていう思いを強く感じるのだ。
俺は次にヘイゼルの母親の手紙を読む。
ふむふむ…………
「夫人は何と?」
またもや、神父様が聞いてくる。
「私は手紙でヘイゼルのことをいかに愛しているか、今後絶対に幸せにして見せる的なことを書いたんですがねー…………それに対する絶賛ですね」
「あー…………私への手紙にも書いてあったな」
「向こうを安心させるために大げさに書いたのですが、書きすぎたかな?」
「だろうな…………」
うーむ、手紙にしても鏡にしてもやりすぎたか…………
でもまあ、貴族が相手だし、これくらいでいいだろう。
「まあ、結婚を反対しているわけではない様子なので良しとします」
「元から反対することはないだろうが、良かったではないか」
「その節は神父様からも口添えをしていただき、ありがとうございます」
「まあ、それくらいはな。向こうからも口添えを頼まれたわ。くれぐれもよろしくとな」
大富豪とでも思われたかな?
「それなんですが…………神父様、実はヘイゼルの実家に挨拶に行こうと思っているのです」
俺は本題に入ることにした。
「ロストに行くのか? 前にも言ったが、やめた方がいいぞ」
「私もそう思っていたのですが、実は今朝…………」
俺は神父様に今朝の夢について説明することにした。
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